9.イルミネーション
本日は3話更新しています。《7.プレゼント》からお読み下さい。
やって着たのは東京駅。
車をその辺りのパーキングに止めると、ようちゃんに手を引かれながら歩き出す。
(そういえば今年なんかイルミネーションあるんだって特集してたなぁ)
両脇のライトアップされた街路樹が綺麗に煌めいている。
先程見かけた星よりも綺麗だと思うのは、綺麗な星空を見たことがないからかなぁ。
レストランをでてからずっと、ようちゃんは一言も喋らなくて、見上げた横顔はいつもより凛々しい感じで――イルミネーションと浮かれた街の雰囲気のせいかな?
ん〜惚れた弱みって奴も入るのかな。
「ついたぞ」
ようちゃんにそう言われるまで、何処に向かっているのかもわからなかったけど…顔を上げた先には照らし出される噴水の明かり。
「――…キレイ」
三つ並んだ噴水が色を映し出す。
赤だったり、紫だったり、青だったり、緑だったり。
変わる色ごとにその場の雰囲気が変わっていく。
水が間接証明の役割をして優しく辺りを照らし出す。
「昔っからこういうの好きだったろ?」
「――うん、……ありがと」
もう何年も経つのに――ホントよく覚えてるなって思う。
あの頃毎日丘の上の木に登っては、変わっていく空を飽きる事なく眺めて過ごした。
毎日毎日色が違ったから――飽きることなんてなかったんだ。
あぁ、今日は赤が強いなぁ〜とか、今日は薄い橙色だなってよく喋ったっけ。
――あ、そういえば…。
「ねぇようちゃん。実はあの時あんまり色の名前覚えてなかったでしょ?」
あの時いつも空返事だったもの。
あの時にはもう好きだったから、言ったことはなかったけど。
「――…さぁ?覚えてねぇや」
「そっか」
まぁ、いいんだ。
なんとなく気になっただけだしね。
私の事を見ることもなく答えるようちゃんの横顔をみながら、心の中でそっと囁く。
(私ね、ようちゃんの嘘だけは人よりもわかるつもりだよ?)
だけどさ、今ちょっと嘘ついてる風なのは見逃してあげるw
昔のことだしね。
あの頃の私達には…っていうか、ようちゃんには性別なんてなかったし。
それにしても…やっぱり冬って寒いなぁ。
この間まではまだ暖かかったのになぁ。
寒いと思ってしまうと、どうしても感覚が鋭敏になってしまうみたいで間髪置かずに身震いが起こる。
(せめてマフラーでも持ってくればよかったかなぁ)
そんな事を思っているとふわっと肩を抱かれて引き寄せられる。
「んな格好だと寒いだろ?なんで今日に限ってそんな服着てるんだよ」
頭のすぐわきで聞こえる声に別の意味で体温が上がるのを感じる。
気付いた時には引き寄せられて、腕の中にすっぽりと入ってしまっている。
「めかし込んで来いって言ったのはようちゃんでしょ?」
さっきまで感じてた寒さがなくなる――な〜んてことはないけど、風の通らない背中がほんのり温かい。
「んな服着て来たことないだろ〜が」
確かに…春から何回かようちゃんと遊んだ時なんてジーンズにTシャツ――なんてラフな格好だったけど…さ。
「…友達に見繕って貰ったんだもん」
やっぱりクリスマスだよ?
ちょっとは…女の子っぽくなりたいじゃん。
「まぁ、…似合ってるからいいけどな」
自分のすぐ近くで白い吐息が空気に還って行く。
一瞬言われた言葉が理解出来なくて…、でも理解し始めると嬉しさが倍増する。
『なんて単純なんだろう』なんて、禁句だよね?
好きな人にそんなこと言われたら嬉しいの当然じゃない?
何度でも言われたいなって思うよ。
だから…。
「…ホント?」
聞き返してしまう。
もう一度聞きたいから。
「こういうことで嘘つかねぇよ」
思いっきり首を後ろに回すとようちゃんの顔が見える。
振り向いたホントに近くにようちゃんの顔がある。
「ホント?」
「だ〜か〜らぁ〜」
困ったような顔で私を見るようちゃんに嘘ついてる感じは見られない。
「ホントね♪」
すっごくいい顔で笑えてると思う。
だって、こんなに嬉しいから。
――ボーン、ボーン――
何処からか鐘の音がする。
腕時計がクリスマス・イヴが終わったことを指し示している。
『Merry Christmas !!』
同時に同じ事を言ったことに二人してクスクス笑って。
「ちょっと待ってて?」
そういって回していた腕を放したようちゃんは胸ポケットに手を入れる。
腕の中から抜けてから、ようちゃんがわざわざ風を避けてくれてた事に気付く。
(ようちゃんだって寒い癖に…)
カサっと、鞄の中に入ったプレゼントが音を立てる。
ようちゃんの為に買ったクリスマスプレゼント。
なんだかプレゼントに『まだ、渡されてないよ?』って抗議されてるみたい。
鞄の底にしまったはずなのに、今はもう鞄から見えるところにある。
手を伸ばして触れるとひんやり冷たい。
「――え?」
急に目の前を何かが通り過ぎて、ようちゃんの吐息をまた近くに感じる。
「こら、ちょっと動くな、止められないだろう?」
振り向こうとするとようちゃんに背を向けたまま固定される。
首筋に触れる温かい手と、冷たい何か。
「――ほら、出来た」
時間をかけることなく、ようちゃんの気配が背後から離れる。
手を首に近づけるとひんやりとした感触が指に伝わる。
「Merry Christmas――朱美」
その言葉に、それがようちゃんからのクリスマスプレゼントだと知る。
めちゃくちゃ嬉しい時って、声が出ないんだね。
言いたいことが言葉にならなくて――でもちゃんと伝えたくて。
目に付いたのは鞄の中のプレゼント。
まだ渡されていない赤い包み。
鞄の中から取り出してそろそろとようちゃんに差し出す。
「俺に?」
答える代わりに頷いて。
「開けていい?」
その言葉にも首を縦に振る。
包みを丁寧に取り去っていく音に鼓動が高鳴る。
確かにようちゃんに似合うと思って買ったんだけど、それをようちゃんが気に入るかなんてまた別の話だし。
「…ぁ」
…聞きたいような…聞くのが怖いような…
「財布じゃん!覚えてたんだ?前にちょっと言っただけだったのに」
「…ぇ、ぁ…ぅん」
チラッとようちゃんを見ると結構嬉しそう…。
気に入ってくれた――のかな?
ちょっと安心。
「大事に使うから。サンキュ」
――なんか…その顔見られただけで満足かも…w
ん〜、全部クリスマスのせいにしちゃおうかな。
こんな風に思うのも、こんなにも気持ちを伝えてしまいたいのも…。
「ねぇ、ようちゃん」
「なぁ、朱美」
せっかく決心したのに、こうやって二人して切り出すタイミングが一緒なのはなんだろう?
やめた方がいいってサインなのかなぁ?
…まさか、違うよね。
「あ、何?ようちゃんからどうぞ?」
「いや、朱の方からでいいよ」
「ううん、ようちゃんの方からで…」
「もう、二人同時にしよっか」
「そうだね」
ようちゃんは何を言うんだろう?
私はもう、決まっているけれど。
『せぇーのっ』
心臓のドキドキがすごく煩い。
でも、なんだろう。
すごく言ってしまいたいから。
だからね。
――『好きです(だ)』――
まさか、重なるなんて思わなかったよ。
同じこと思っていたなんて。
こんなに嬉しいことってないよね。
驚いた次の瞬間には、二人してクスクス笑ってた。
その後話したんだ。
お互いの恋愛話。
ようちゃんは話したくないみたいだったけど、ポツポツと色んな話をしてくれた。
いいことばかりじゃなかったし、ようちゃんのいうことにはいちいち驚いたけど…(付き合ってなくても身体の関係があった…とかって奴に――ってか、顔すっごく赤かった見たいで何度も笑われたけど)全部話した後に、ようちゃん約束してくれたから。
全部話してくれたから、もういっかな〜ってw
もしもなんかあったその時は…霞という強い味方がいるしねw
来年も再来年もず〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと、一緒に居られるといいな。
『Merry Christmas !!!』
これで一応完結となりますが…続編に陽輔バージョンを執筆しています。(いつアップするかわからないけど)ってことでいつかはアップされるかも?(笑)またお会い出来たら光栄です。ではまた。ヽ(* ̄∀ ̄)*SeeYou*( ̄∀ ̄*)ノ