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8.甘いもの

本日は3話更新しています。《7.プレゼント》からお読み下さい。

「うっわー、可愛いレストラン♪」


やって来たのは東京からよっと離れた郊外にある洒落たレストラン。

個人経営みたいだけどすっごく落ち着いた雰囲気のお店で、周りは落ち着いた感じで森の中っぽぃの。

森の中のレストランって感じ。


「いらっしゃいませ。ご予約ですか?」

「予約していた小野です」


あ、予約ってこのことだったんだ?

結局こっち帰ってくるまでの3時間教えてくれなかったから何かと思ってたけど…。


「はい、小野様ですね。あちらの窓際の席にどうぞ」


案内されたのは一番奥まった所にある席。

家族で食べにきてたり、カップルがいたりで結構満席。

空いてる席にもなんか置いてあるから…。


(全部予約席なのかなぁ?)


って、そんなわけないかぁ。

決まったの4日前だもんね。


「まさか本当に来るとは思わなかったよ、陽輔」


急に真横で聞こえた声に振り向くと白衣を着て帽子を被ったコックさん。

ようちゃんのこと知ってるみたいだから…知り合いなのかなぁ?


「初めまして」


にっこり微笑まれた顔にドキリとする。

ん〜、ようちゃんって顔で友達選んでるのかと思うぐらい周りカッコイイ人多いなぁ。


「は、初めまして、桜 朱美です」


なんか緊張しちゃうなぁ。


「緊張しなくてもタメだぜ?こいつは健司。俺の親友で今日ここ予約出来たのはこいつのおかげなんだ」

「っていっても丁度キャンセルが出たとこ優先的に取っただけなんだけどな」

「ばーか。普通に予約したら何ヶ月前だよ」

「実際だったら2ヶ月前ぐらいで埋まってたな。ま、陽輔の運がよかったってとこだな」


えぇ〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!!

いい感じのお店だとは思ったけど…そんなに人気のお店だったなんて…。


「朱美ちゃん。楽しんで行ってね」

「あ、ありがとうございます」


ん〜、なんか心臓に悪いよー。

さっきからドキドキしっぱなし。


「さっさと仕事戻れーサボリ魔〜」

「へぇ〜、そんな事言っていいんだぁ?」


健司さんの顔が近づいて内緒話をするぐらい近くになる。

ようちゃんといい、岳ちゃんといい、健司さんといい――ホント整った顔してるよなぁ。

類は友を呼ぶっていうのかなぁ。


「朱美ちゃん、こいつね…」

「わぁ〜!!!!!!わかった、わかったから余計なこと言うなよ!?」


健司さんの囁きをようちゃんの声がさえぎってよく聞こえなかった。

何を言いたかったんだろう?

健司さんのことを見上げると柔らかく微笑むだけで交わされてしまうし…。

――あ、きっとようちゃんからかっただけだ。

なんかそんな感じがする。

整いすぎてちょっと怖い印象だったけど、雰囲気がとても温かい。

私の方に微笑んだ健司さんは逆にようちゃんの耳元に何か言ったかと思うと、


「ぜってーさせねぇ」


ってちょっと凄んだようちゃんに追い立てられるように調理場へと去っていった。

なんかその時のようちゃんが本気なのはわかるんだけど…健司さん何言ったんだろ?

ようちゃんがこんな顔するの滅多にないのに。

って、私が知ってるのは8歳までのようちゃんだったけど。


「健司さんようちゃんになんて言ったの?」

「…知るか」


あ〜、なんかご機嫌斜めだよ。

なんなんだろ?

気になるけど…ほとぼりが冷めたぐらいに聞いてみようかな。


「朱ワイン飲める?」

「え?ん〜、一応飲めるけどいいよ、ようちゃん飲めないでしょ?車だし」

「じゃぁ何飲む?」

「ん〜メニュー見せて?」


なんかメニューまですっごく上品…。

…女同士で飾らないとこ行き過ぎなのかなぁ…きっと。

なんとなくようちゃんがめかしこんでこいって言った理由がわかった気がする…。

こんなとこジーンズで着たら…浮くよね…絶対。


「オレンジでいいや」

「ん、すいませーん」


なんだか注文したりする姿がすっごく自然で気負ってなくて、ようちゃんはこういうところよく来るんだろうなぁって思える。


(やっぱり彼女とかと来たのかなぁ)


メニューを指差しながらスムーズに注文を済ませたようちゃんがこっちを見て首を傾げるから、こっちからも首を傾げる。


(あれ?)


ようちゃんの顔が赤くなったのはなんでだろう。

お酒も飲んでないしなぁ。

後ろに綺麗な人でもいるのかなぁって思って後ろをチラリと振り返ってみてもそこはただのビアサーバーがあるだけだったりする。

なんで赤くなるかわからないまま視線を元に戻すと赤くなったと思ったのが幻みたいに普通の顔でいるようちゃんの姿。

私を見て笑った顔はさっきまでちょっと悪そうだった機嫌が直ったみたい。


(なんかあったのかなぁ?)


そうは思うものの思い当たるものなんて何にもなくて。

前菜、スープ、魚料理、肉料理と運ばれてくる料理はどれもとても美味しい。

美味しい料理だと会話が弾むっていうのもホントだね。

食べてる時間の方が少ないんじゃないかってぐらい色んなことを話した。

傍にいた小学校の時の事。

離れた後の中学校、高校のこと。

お互いの家族の事。

兄弟のこと。

そして受験のこと。

今の事など。

時間がいくら合っても足りないんじゃないかってぐらいポンポンと出てくる話題はさすがって感じ。

小さいときから一緒だったからか話のテンポも合うし、話していて本当に楽しいって思った。

まぁきっとようちゃんだったから――って理由もあるのかもしれないけどさ。

あ、でも、何故かお互いに恋愛の話しには触れなかったけど。

ん〜、やっぱりあんまり聞きたくないよね。

興味はあるんだけど…比べちゃいそうだし。

ようちゃん今好きな子いるのかなぁ…。


「こちらデザートになります」


そういって出てきたのは雪が降りかかった綺麗なケーキ――ブッシュ・ド・ノエル。

ノエルがフランス語でクリスマスなんだって言ってたのは甘いものに目がない霞だったかな。

可愛いサンタとツリーの飾り――って、これもしかして飴細工??


「可愛いだろ?」

「――うん」


ハッキリいってお菓子は自分でも作る方だから結構煩いらしいんだけど…このケーキほんとに綺麗。

雪に見立てた粉砂糖がまだらで、まるでホントに倒れた木に雪が降り積もったみたい。


「お気に召しました?」


視線を上げた先に居たのは健司さん。

次に聞こえた言葉は…健司さんには悪いけどかなり衝撃の一言。


「ここでパティシエやってるの健司なんだぜ?」

「………」


開いた口が塞がらないって言うのはまさにこのことだと思う。

ほんと、口開いてることを意識できないんだもの。


(ゴメン健司さん。普通にコックさんの方だと思ってました)


とはもちろん声には出せないけど。


「どう?結構上手いでしょ?」


なんだかビックリしすぎて首を立てに振ることしか出来ない。

でも…これ、もう上手いなんてレベルじゃないと思う。

職人技…だよね。


「健司さんパティシエだったんですか?私てっきり大学生かと…」

「よく言われるけど初めに思った通りの大学生だよ。陽輔と同じ大学、同じ学部だし」

「え?じゃぁ…」

「この店俺の両親がやっててね。ガキの頃からよく作ってたから。親孝行みたいなもんだよ」

「…親孝行でお店が出せそうですね」

「ありがと」


微笑む健司さんがすっごく大人に見える。


(――私も親孝行しなきゃ…)


って、思ってするんじゃなくていつも出来るようにしなきゃなんだけど…ね。

ふと気付くとようちゃんがまた不機嫌そうな感じで。

それを見て健司さんがちょっと笑って私の耳元に顔を寄せる。


「――陽輔も甘いもの好きだからなんか作るなら教えるよ…?」


なんて囁いて、そのまま調理場に戻ってく。

ん〜、カッコイイ人だよなぁ。

あ、でも今日ってクリスマスだよね??

彼女居ないのかなぁ?


「ねぇ、ようちゃん、健司さ…――」


…なんか…これ以上言っちゃいけない気がする。

なんか…似たような悪寒をつい最近感じた気がする…。

目の前のようちゃんは先までの不機嫌そうな顔が嘘のように笑っていて――ただし目元以外は…。

…目が怖いよようちゃん…。

きっと幼い子が今のようちゃん見たら…泣き出すね、きっと。


(あ、寝起きの霞に感じた逃避本能に似てるんだ、きっと…)


本能に従うまま私はそこで言葉を止めて、美味しそうなケーキに手を伸ばす。

一口分をフォークで切って。


「よ〜ちゃん?」


と、機嫌の悪そうなようちゃんの口元にフォークを持っていく。

健司さんに言われなくてもようちゃんは昔から甘いものが好き。

まぁだからお菓子作るようになったんだけど…ってそうなんだ、私――。

どんなに機嫌悪くても甘いもの与えればなんとか機嫌直るんだよね、昔から。


「いらない?」


なかなか口を開けてくれないから伸ばしている腕が痛くなる。

ん〜、もうちょっと何か運動しなきゃダメかなぁ?

ジムの回数増やそうかなぁ。

なんて考えてたら。


――パクッ。


とフォークに乗せたケーキが消えて私も伸ばしていた腕を戻す。

さて、ようちゃんの顔は…っと。


(よかった、機嫌直ったみたい)


ようちゃんは鋭かった目がほにゃって感じになって幸せそうな笑みを浮かべてる。


(ホント甘いもの好きなんだなぁ)


「おいし?」

「ん」


あはは、なんか可愛い。

食後の紅茶を頂いた頃にはお店に来てから既に3時間が経過しようとしていた。


(もう9時かぁ〜)


まぁ22日が最後の授業でもう冬期休暇だから関係ないっちゃ関係ないんだけど。

あ〜、すっかり忘れてたけど…プレゼント渡すんならあと3時間後かぁ。

鞄の中にある綺麗に包装されたプレゼントだけど、…渡せるのかなぁ。


「朱〜、そろそろ行くぞ?」

「あ、はーい」


鞄からお財布を出していたら、ようちゃんったらその体制のまま私を扉から追い出す。


(…健司さんにお礼いいたかったのになぁ)


ようちゃんがああいう感じの時は多分何をいっても聞かないから素直に駐車場に止めてあるようちゃんの車へと戻る。

都内よりもちょっと郊外にあるせいか、余計な明かりが少なくていつもよりも星が見える。

吐く息が白いぐらいには寒いみたぃ。

あ、そっか。

いつもと違ってスカートだから余計に寒いのかな?

コートの襟元をちょっと立てて風除けにする。

風が吹くと寒いけど、木々のざわめきがなんだか心地いい。


「お待たせ、乗って?」


冷え切った車の中に乗り込むとお財布から適当に掴んでようちゃんの胸に押し付ける。

なんか…奢られるのって好かないんだよね。

なんだけど…。


「いらない」


って着き返されてしまったから、朝携帯が入ってた小物入れの中にでも潜ませようと思って財布にしまう振りをしてコートのポケットに突っ込む。

エンジンがかかるのと同時にオーディオから曲が流れてくる。

ようちゃんは運転に集中しているし、小物入れあけるときの微かな音は音楽で聞こえないだろうし…。


(今かな)


そっと中に忍び込ませておく。

今度会ったときに怒られるかもだけど…ま、いいよね。

何処に行くかを聞いても答えてもらえないまま、車は街中の明かりを目指して進んでいった。




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