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5.パーキングエリア

♪――しゃがみ込む背中をさすってくれる…――


もうどれくらい経っただろう。

静寂を破ったのは急になり始めた聞きなれた音楽。

自分の携帯でない事を確認すると視線をようちゃんに向ける。


「ようちゃん?」

「あぁ、俺の。悪いけど誰からだか見て?」

「え?何処にあるの?」


見た感じ車内で音がするのは確かなんだけど…携帯が見当たらない。


「シフトレバーの後ろに小物入れあるじゃん?そこ」


…シフトレバーって何???

何語??


「…シフトレバーって?」

「あ〜、わかんないか。俺が左手で弄ってる奴」


…今のって呆れられたかな?

ようちゃんがいうとこのシフトレバーの後ろには肘掛みたいな小物入れ。

上にパカッって開けると中になんだかゴチャゴチャ入ってる。

一番上に置かれたブラックの携帯電話を腕に取る。


「誰からだった?」

「え…っと…」


折りたたみ式のそれを開けるとディスプレイに【不在着信 1件】の表示。

それを選んで着信履歴を見ると…。


「誰?」

「えっと、匠…さん?」

「なんでさん付けなんだよ。岳の事だぞ?」

「岳ちゃんなの?」

「そ。あー、朱折り返しで電話かけてくんね?」

「え〜!?私が!?」

「んなこと言ったって俺運転してるし…。事故って欲しい?」

「か、かける。かけるから!」


なまじこういうこと言うようちゃんって…顔がマジなんだよね…。

冗談と思えないところが怖い…。

ブラックの携帯に視線を戻すと、操作は自分の携帯とあまり変わらないようで、『匠』と書かれた履歴を選んだまま通話ボタンを押すとそのまま発

信される。


――トゥルル…トゥルルル…トゥルルル…――


規則正しい呼び出し音と同時に鼓動が早くなる。

知ってる人とは言え…もう10年近く会った事も連絡を取ったこともない…。

緊張するのも当然…だよね。


――トゥルル…トゥルルル…トゥル…プッ。


「お前な〜かけてるんだから出ろよな〜、ってもしかして今運転中か?」


電話から聞こえた岳ちゃんの声が思っていたよりもずっと低くて…、なんだか全然違う人みたいで声を出せない。

ようちゃんに視線を送るけど気付かないし…。


「――おーぃ陽輔ヨウスケ??」

「え、あ、はい。ようちゃん運転中で…あの…」


思っていたよりずっと男の人っぽい声に上手く対応できない。

わかってるつもりだったけど…なんかダメだ。

でも電話の相手はそんなこと思わないらしくて。


「あ、朱美?マヂ陽輔と一緒にいるんだなw」

「え、あ、はい」

「おーい、なんで敬語なんだよー、俺達の仲だろ〜?」


俺達の仲って――仲がよかったって事かな?


「や、なんか…ビックリしてて…」

「会ったらもっとびっくりするぜ?マヂいい男だから」

「――ぷっ…大人っぽくなっても岳ちゃんは岳ちゃんだね」


やっとあの岳ちゃんと電話相手の大きくなった岳ちゃんが重なる。

昔っからこんな事言っては笑わせられてたっけ。


「ど〜ゆ〜意味だよそりゃ」

「そのまんまの意味ですよ〜だ」

「朱〜?匠の用事何?」


すっかり打ち解けてしまい無駄話してたけど…これようちゃんの携帯だったんだ。


「あ〜岳ちゃん、ようちゃんが何の用だ?って」

「あーそうそう、お前ら何時ぐらいに着く?」

「ちょっと待って。ねぇ、ようちゃん何時に着きそ?」

「ん〜11時半には着くって言っといて」

「あー、岳ちゃん?11時半には着くって」

「そっか、了解。わかったって伝えといて」

「あ〜ぃ」


電話が切れる音がして自分とは正反対のブラックの携帯をパカリと閉じる。


「岳ちゃんがわかったってさ」

「そっか、わかった」


このまままたさっきみたいな雰囲気にはなりたくないなぁ。

そういえば…さっきの曲――。


「ようちゃんさっきの着うたAquaTimezでしょ?」

「ん?あ〜好きだからな」

「≪小〇な掌≫だったよね?」

「知ってんだ?」

「詳しいってわけじゃないんだけどね、私も今着うたそれだから…」

「へぇ〜偶然、同じ曲かぁ〜」


あ、なんか嬉しい。

一緒なんだぁ。

ようちゃんと同じ♪


「だからか。初めに自分の携帯確認したの」

「そ」

「他に何の曲知ってる??」

「ん〜有名なのしか知らないよ。≪決意〇朝に≫だとか、≪等身大のラ〇ソング≫だとかかなぁ。ようちゃんのオススメは?」

「≪星の見えな○夜≫とか、≪AL○NES≫とかいいと思ったな」


≪星の見えな○夜≫と≪AL○NES≫かぁ。

CD借りてこなきゃ。


「へぇ〜今度聞いてみよっと」

「貸そうか?アルバム」

「え、ホント?貸して♪」


やった、これでまた二人で会える〜♪

なんかさっきまでの嫌な空気もなくなったし、岳ちゃんに感謝しなきゃ。

会ったらお礼言おうっと♪


「朱なんか飲む?」

「ん〜一緒に買いに行く」


気付くと車は駐車してあって、他にも車が沢山止まってる。

目的地――なわけないよね?


「パーキングエリア。修学旅行とかでバス止まっただろ?」


あ、確かに止まったかも――。

行きは朝早くて、帰りは疲れちゃって、結局下りたことなかったけど。


「パーキングエリアってこんな感じになってるんだぁ〜」


なんかとにかく駐車場がいっぱい。

トラックとかバスとかもいっぱい。


「ここなんて狭い方だぞ?中には小さい遊園地ついてるトコもあったし」

「え〜!遊園地!?」


遊園地って――え?

だってパーキングエリアってただの休憩所だよね!?


「今度行ってみる?」

「行くっ!行ってみたいっ!」


わぁ〜い★

パーキングエリアなんて誰かの車じゃなきゃ行けないし。


「朱美…ガキっぽ…」


いーんだよーだ。

なんかクスクス笑ってるようちゃんを怒る気も失せるぐらい機嫌いーんだもん★


「私の方がようちゃんより早く生まれてるんだからねっ」


私は5月だけどようちゃん8月だもん。

私の方が年上なんだよ?


「精神年齢の事だから」

「むぅー」


膨れて見せるけど多分ようちゃんはわかってるんだろうな。

私が全然気にしてないこと。

確かに早く生まれたけど、年上っぽかった事なんて一回目もないしね。

霞にもよく世間知らずってよく言われるし。


「ほら、何飲む?」

「ん〜午後ティー」


ガコンって音がして出て来たペットボトルをようちゃんが手渡してくれる。


「ぇ」

「ん?アイスだろ?違った?」

「え、あ…うん、ありがと。よくわかったね?私アイス飲みたいなんて言わなかったのに」


季節からか友達に頼むとまずホット買ってくるのに。


「昔から飲み物でホット飲まないじゃん、朱は」


確かに昔から飲まなかったけど…ようちゃんが知ってる私なんてもう12年も前だったから――。


「――覚えてると思わなかった」

「ばーか。忘れてねーょ」


そういって笑った顔が凄くカッコよく見えて…。

あ、勿論普段からカッコいいとは思うんだよ?

でもなんだか――、なんていうかな?

それ以上にカッコよく見えるの。

多分視覚を映像に変換する時に色でも付けてるんだと思うけど。


「朱?何ほうけてるんだ?ほら車戻るぞ?」

「――あ、うん」


まさか見惚れてた――なんて言えないよね――、絶対…。

前を歩くようちゃんは後ろを振り向くことなく歩いてく。

昔からの癖で、こういう時はようちゃんの一歩後ろを歩く。

躓いても気付かれなしね。

覚えているようちゃんの姿では私とあんまり身長変わらなかったのに…今じゃ私の身長はようちゃんの首まてもない。

ちょっと悔しかったりする。


(ようちゃんは私の気持ちなんて気付かないんだろうなぁ〜)


気付いて欲しいような…欲しくないような…微妙な気分。

むぅー。

一人でこうやって悩んでるんだと思うと……なんかムカつく――。

勿論逆恨みだとは思うんだけど――それは動いた後の事。

もう少し距離を置いてから、やや勢いをつけての突進はようちゃんのバランスを崩すぐらいだったけど、澄ました顔が崩せただけで気分が晴れる。

――霞に猪突猛進だと言われるわけだよね、うん。

勿論ぶつかった勢いのまま車までダッシュ。

――と思ってたんだけど…。

後ろから迫る足音はすぐに距離を縮めて――。


(追い付かれるっ!!)


と思った瞬間にはガクンと後ろに引かれる感覚があって――。


「あ〜け〜みっ!!」

「――く、苦しいってばっ」


後ろから羽交い締め。

――足まで早くなったか…ってリーチ長いんだから当たり前か。

ん〜なんで気付かなかったんだろう。

――なんて悠長に考えながらも羽交い締めは揺るまなくて…。

でもちょっぴり嬉しいと思うのは理由はどうあれ相手がようちゃんだからだろうか。


「朱美〜ほら謝れ。危うくこけるとこだったろぉ〜?」

「――こければ楽しかったのにぃ〜」

「ぁん?」


げ。

口に出てたらしい。

その後羽交い締めされたまま引きずられるように車まで連れていかれたのは――言うまでもないかな。




毎日2話ずつ更新いたします。全部で9話構成になっています。

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