【陽輔編】9.イルミネーション
9.イルミネーション
やって着たのは東京駅。
車をその辺りのパーキングに止めると、朱美の手を引き歩き出す。
ビジネス街というイメージのあるこの街でありえないぐらいのキラキラ光るイルミネーション。
両脇のライトアップされた街路樹が綺麗に煌めいている。
朱美に何か言おうと思うが、言葉に出す寸前で思い留まってしまう。
イルミネーションとクリスマスという雰囲気の為か、普段よりも余計に朱美が可愛く見えてしまうから、口を開けば抱きしめてしまいそうで…。
でもなんだか今のままで居たい気がして…進むのを躊躇う。
…ホンット、俺じゃないみたいだ。
「ついたぞ」
そんなことを思っているうちに目的地にしていた公園に到着する。
多分何処に向かっていたのかわからないであろう朱美が正面を見て、はっとして息を呑んだのがわかった。
目の前にあるのはライトアップした3つの噴水。
色とりどりのその噴水はビジネスの街【東京】に似合わず、とても幻想的だ。
「――…キレイ」
息を呑んだ朱美の口から出た言葉に、連れて来てよかったと思う。
また、朱美と一緒に見れてよかったと思う。
何より…喜んだ顔を見れたことが一番嬉しかった。
三つ並んだ噴水が色を映し出し、変わる色ごとにその場の雰囲気が変わっていく。
水が間接証明の役割をして優しく辺りを照らし出す。
「昔っからこういうの好きだったろ?」
毎日沈む夕日の色が違うんだと、毎日毎日飽きずに丘の木に登っていたことが印象に残っていたんだ。
最近まで忘れてたのにな…。
人間の脳はすごい。
好きだと思ったその瞬間から今までのことが事細かに思い出せるんだから。
「――うん、……ありがと」
少しびっくりしたように。
けれど、それ以上に嬉しそうに言う朱美。
ホンット…抱きしめていいか???って感じなんだけど…とは思うがグッと我慢――。
「ねぇようちゃん。実はあの時あんまり色の名前覚えてなかったでしょ?」
「――…さぁ?覚えてねぇや」
「そっか」
あの時ってのはたぶん飽きずに丘の木に登っていたときだろう。
覚えてないなんて嘘で、ホントはちゃんと覚えてる。
当時俺は色なんかに何の思い入れもなかったから、茜色だとか、鶯色だとか、朱美が言う『色』がどんな色なのかなんて全然理解なんてしてなかった。
どっちかっていうと、そうやって生き生き話してる朱美といるのが楽しくて付き合ってた感じだったし。
噴水の色はコロコロ変わって、また同じ色に戻っていく。
また、出会えた俺達のように…、廻って戻ってくる。
バレないように朱美を盗み見ると身震いしているのが目に入る。
可愛い格好だが…この時間になってしまうとさすがに寒いだろう。
そう思うと考える間もなく、俺は朱美を抱き寄せていた。
俺が風避けになるような場所に朱美を閉じ込める。
「んな格好だと寒いだろ?なんで今日に限ってそんな服着てるんだよ」
本当は嬉しいんだけど…、俺だけが見ていたいとか思ってしまう。
他の奴に朱美のこんな姿なんて見せたくない。
独占欲丸出しだけど…本音なんだからもうしょーがないだろう?
「めかし込んで来いって言ったのはようちゃんでしょ?」
確かに言ったけど…。
でもなぁ…。
「んな服着て来たことないだろ〜が」
再会してから何度か2人で遊びに行っているが、朱美がこんな女の子らしい服を着たトコなんて見たことない。
いつも少年っぽぃ格好だったから。
だからホントにこんな女の子らしい可愛い服着てくるなんて…思いもしなかったんだぜ?
「…友達に見繕って貰ったんだもん」
ちょっと捻くれて口を尖らせる朱美。
――こいつは…俺を煽ってるのか??
試してるのか――??
…って、無自覚だろうな…(泣
「まぁ、…似合ってるからいいけどな」
ホントはべた褒めしたいけど…俺そういうキャラじゃねぇーし…。
他の女なら歯の浮くような台詞でも平気で言えるんだけどなぁ。
腕の中の朱美がモゾっと動いた気配がしたので顔を向けると、首を傾げてこちらを見る朱美の姿。
「…ホント?」
「こういうことで嘘つかねぇよ」
「ホント?」
「だ〜か〜らぁ〜」
どういったら信じるんだろう?
襲いたいぐらいに煽ってくれてるの懸命に押しとどめてるのに…。
いっその事…襲っちゃうよ?
「ホントね♪」
幾度目かの問いかけの後、本当に嬉しそうに。
子供みたいな無邪気に笑うから。
――顔を近づける。
キスがしたいから――。
――でも…。
――ボーン、ボーン――
何処からか聞こえる鐘の音に、幸か不幸か理性が働き出す。
腕時計を見るとクリスマス・イヴが終わったことを示している。
『Merry Christmas !!』
同時に同じ事を言ったことに二人してクスクス笑いあって。
「ちょっと待ってて?」
そういって朱美に回していた腕を、めちゃめちゃ名残惜しいが放して。
胸ポケットに手を入れる。
取り出すのは朱美に似合うだろうと一目ぼれしてプレゼント。
都合よく朱美は俺とは逆方向を向いているから、そっと背後に近づき、腕を回す。
「――え?」
「こら、ちょっと動くな、止められないだろう?」
振り向こうとする朱美をそのままの体勢に固定する。
小さい輪を通すのは思った以上に困難だが、それももう手馴れたもの。
「――ほら、出来た」
時間をかけることなく、朱美の背後から離れる。
朱美の手がネックレスに近づいて、それを捕らえる。
「Merry Christmas――朱美」
言葉に詰まったような顔をしてこっちを見る朱美に、サプライズの成功を知り、なんとも言えない達成感に包まれる。
しばらくはにかんだ笑みを浮かべていた朱美だが、自分の鞄の中からプレゼントらしい包みを取り出して俺にさしだす。
「俺に?」
答える代わりに頷くから。
それがすごく可愛い。
「開けていい?」
その言葉に首を縦に振るのを見届けてから、包みを丁寧に取り去っていく。
朱美からの初めてのプレゼントに胸が高鳴る。
まぁ、朱美からってだけで何をもらっても嬉しいわけなんだけど。
「…ぁ」
出てきたのは俺好みのシンプルな財布――。
「財布じゃん!覚えてたんだ?前にちょっと言っただけだったのに」
「…ぇ、ぁ…ぅん」
「大事に使うから。サンキュ」
伝えたいと思った。
想いを――。
先の事とか考えずに、知ってほしいと思った。
「なぁ、朱美」
「ねぇ、ようちゃん」
2人呼びかけがかぶったのにはびっくりした。
でも、悪い予感はしなかった。
俺の勘って結構当たるんだよね。
「あ、何?ようちゃんからどうぞ?」
「いや、朱の方からでいいよ」
「ううん、ようちゃんの方からで…」
「もう、二人同時にしよっか」
「そうだね」
俺が言いたいことはもう決まっている。
伝えたい。
積もりに積もったこの想いを――。
『せぇーのっ』
胸が高鳴る。
緊張と、期待と、ほんの少しの不安に…。
そして――。
――『好きだ(です)』――
まさか同じこと考えてたなんて誰が思う??
嬉しい通り越すよな、もう!
驚いた次の瞬間には、二人して笑ってた。
その後話したんだ。
お互いの恋愛話。
聞かれたくない話も沢山あったんだけど…それも俺だから。
朱美には…受け止めてもらいたかったから、全部話した。
もちろん受け止めてくれた。
なんかちょっと…そら恐ろしそうな空気を感じたけど…まぁ、気のせい…だよな??
来年も再来年もず〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っと、一緒に居ようぜ。
『Merry Christmas !!!』
クリスマス企画だった割に…もうそろそろ初夏とかいう今日この頃…。
遅くなってしまい申し訳ありません。
やっと朱美編と同じところまで来ました!
朱美編とは別にもうちょっと書く予定ですので、もうしばらくお付き合い下さい!