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【陽輔編】8.甘い物

「うっわー、可愛いレストラン♪」


やって来たのは東京からよっと離れた郊外にある洒落たレストラン。

健司んトコの店で、ものすっごく有名店。

持つべきものはダチだなってすげー思う。


「いらっしゃいませ。ご予約ですか?」

「予約していた小野です」

「はい、小野様ですね。あちらの窓際の席にどうぞ」


案内されたのは一番奥まった所にある席。

俺がココに来るといつも通される席であり、店の中で一番夜景がよく見えるところでもある。

ほーんと、ダチって大事だよな(笑)

急遽決まったデートなのにまともなとこ連れてってやれるんだから。


「まさか本当に来るとは思わなかったよ、陽輔」


あーやっぱり来たか…って目線で声の主――健司を見る。

そりゃーここはコイツの両親がやってる店だし???

いたってしょーがねーとは思うし???

俺の為にクリスマスつぶして働いてるこいつにすりゃ、顔だして当然だとは思うけど…。


「初めまして」


…朱美に愛想を振りまくな。

このペテン師――。


「は、初めまして、桜 朱美です」


ってか朱美のやつ何あれ?

頬染めちゃってさ。

…あームカツク!!


「緊張しなくてもタメだぜ?こいつは健司。俺の親友で今日ここ予約出来たのはこいつのおかげなんだ」

「っていっても丁度キャンセルが出たとこ優先的に取っただけなんだけどな」

「ばーか。普通に予約したら何ヶ月前だよ」

「実際だったら2ヶ月前ぐらいで埋まってたな。ま、陽輔の運がよかったってとこだな」


っていってもそんなん態度に出すわけにはいかないからいつもどおりに接する。

多分健司にはバレたと思うけど。

なんでかって?

こっち見ながらニヤついてるんだから間違いないだろう。


「朱美ちゃん。楽しんで行ってね」

「あ、ありがとうございます」


コ、コイツ…。

人の気持ち知った上での行動だな!?

何してくれてんだコラ!!

朱美に近づくなーーーーーーーーとか言えたらいいのに…。

どーせ幼馴染以上でも以下でもないですよーだ…。

あー、なんかひねくれてきたな俺…。


「さっさと仕事戻れーサボリ魔〜」

「へぇ〜、そんな事言っていいんだぁ?」


健司の目がキラリと光った事に気づかないわけはない。

朱美の耳元に口を近づけた健司――。

何かをささやきかけて…。


「わぁ〜!!!!!!わかった、わかったから余計なこと言うなよ!?」


こえぇ。

コイツは悪友。

うれしくない情報も多々持ってる。

…敵に回しちゃいけないって事か。

俺の顔を見て笑った健司の顔を睨みつけると、今度は健司の顔がこちらに近づいてきて…。


「俺貰ってもいぃ?」


とかいうから。


「ぜってーさせねぇ」


ガラにもなく健司の事をマヂで睨む。

そんな事をしてるこっちの意図を知ってるはずなのに涼しい顔して去ってくし…。

絶対敵に回しちゃいけないな…あいつ。


「健司さんようちゃんになんて言ったの?」

「…知るか」


言える分けない。

ってか、言いたくない。

ってか、健司の事気にするのやめろーーーーーーー、って叫びたい。

…出来ないけど(泣)

場の雰囲気を変える為にも…と、メニューを開く。


「朱ワイン飲める?」

「え?ん〜、一応飲めるけどいいよ、ようちゃん飲めないでしょ?車だし」

「じゃぁ何飲む?」

「ん〜メニュー見せて?」

「オレンジでいいや」

「ん、すいませーん、オレンジとジンジャエール1つずつで」


なんだか朱美の視線が注がれてる気がするけど…変なことしたか???

メニューを指差しながらスムーズに注文を済ませたると朱美を見ると…。


(うっわ…)


首を傾げるとか…超可愛い…。

こいつ絶対自覚なんてないんだろうなぁ〜と俺の視線が自分の後ろに行ってるのかと思ってるらしくて後ろ向いたりとかする

し。

…なんでそんなに鈍感かなぁ…。

まぁ、そこも可愛いんだけど…。

程なくして料理が運ばれてくる。

前菜、スープ、魚料理、肉料理と運ばれてくる料理はどれもとても美味しい。

美味しい料理だと会話が弾む。

食べてる時間の方が少ないんじゃないかってぐらい色んなことを話した。

傍にいた小学校の時の事。

離れた後の中学校、高校のこと。

お互いの家族の事。

兄弟のこと。

そして受験のこと。

今の事など。

時間がいくら合っても足りないんじゃないかってぐらいポンポンと出てくる話題はさすがって感じ。

小さいときから一緒だったからか話のテンポも合うし、話していて本当に楽しい。

このまま自分しか見えないところに閉じ込めてしまいたいぐらいに…。

って、それじゃ変態か…。

最近俺のキャラ壊れて…ないか??


「こちらデザートになります」


そういって出てきたのは雪が降りかかった綺麗なケーキ――ブッシュ・ド・ノエル。

ノエルはフランス語でクリスマス。

雨細工で施されているのはもう職人技とか言えないぐらいすごい。

これでもかってぐらいクリスマスらしいデザート。


「可愛いだろ?」

「――うん」


甘党だからか結構よくここには来てるし、試食だとか行って新作食べさせてもらったりとかしてる。

男が作ったとは思えないぐらい繊細な味――って言ったら失礼か…。

趣味…とは言ってるが、健司は健司なりに作ることに誇りを持ってる。

そういう所が健司の魅力なんだろうな。


「お気に召しました?」


視線を上げた先に居るのは健司で。

穴が開くぐらい可愛らしいケーキを見つめていた朱美に一言。


「ここでパティシエやってるの健司なんだぜ?」

「………」


開いた口が塞がらないって言うのはまさにこの状態を指すんだろう。

…マヌケだ(笑)


「どう?結構上手いでしょ?」


デザートに関しては…俺が口を挟むトコじゃないな。


「健司さんパティシエだったんですか?私てっきり大学生かと…」

「よく言われるけど初めに思った通りの大学生だよ。陽輔と同じ大学、同じ学部だし」

「え?じゃぁ…」

「この店俺の両親がやっててね。ガキの頃からよく作ってたから。親孝行みたいなもんだよ」

「…親孝行でお店が出せそうですね」

「ありがと」


…朱美の中の健司の好感度が上がったことが手に取るようにわかる…。

…嬉しくねぇけど…しゃーないか。

コイツの腕は俺もすげーと思うし。

――でも、ムカツクもんはムカツクんだよな。

しかもなんかここぞとばかりに朱美に何か吹き込んだし…。

帰ってく健司の後姿を睨んでしまうのは…仕方ないだろう?


「ねぇ、ようちゃん、健司さ…――」


挙句朱美に健司のこと聞かれるんだから…。

嫉妬心という醜い感情が俺の中に芽生える。

っていっても朱美はまだ誰のものでもないんだけど…だけどっ!

抑えられないんだからしゃーなぃ。

へーへー、俺はガキですよー。

クールな陽輔とかホントどこ行ったんだろうね。

欠片も残っちゃいねぇ。

…これでいいのか俺…。


「よ〜ちゃん?」

(ん?)


気づくと顔の前にケーキが乗ったフォーク。


(え?)

「いらない?」


上目遣いに俺のことを見上げてくる朱美…。

反則だろ、それ。

さっきまでイガイガしていた気持ちがスーっと消えていくのを感じる。

そして――パクッ。


(ケーキも上手いけど…食わせてもらったってのが余計おいしく感じさせるw)

「おいし?」

「ん」


食後の紅茶を頂いた頃にはお店に来てから既に3時間が経過しようとしていた。


(9時過ぎたか…んじゃ、ぼちぼち次行くかな)

「朱〜、そろそろ行くぞ?」

「あ、はーい」


鞄から財布を出している朱美をその体制のまま扉の外に追い出す。

クリスマスだぜ?

しかも惚れてるし。

女に金出せる気はなぃ。

俺が席をたったのをどこかで見ていたんだろう、レジの所に健司が現れる。


「お?もう行くのか」

「あぁ、いくら?」

「2人で一万でいーよ」


あっけらかんとそう言い放つ健司だが…。


「ばーか。客として来てるんだ。ちゃんと取れ」

「常連客になってくれそーだからいーんだよ」


そう笑っていえる健司が、悔しいけどカッコいいと思う。

一本筋が入った職人堅気ってこういう


「でも…」

「今度また2人で新作の試食にでも来てくれればいーよ」

「おじさん…わかりました。ではまた来ます。すごくおいしかったです」

「ありがと。いいクリスマスを」

「ご馳走様でした」


カランカラーンとカウベルの音が夜の静寂の中に響く。

車の近くに寒いのか襟を立たせた朱美。


「お待たせ、乗って?」


冷え切った車内に暖房を入れたいが…まだエンジンが温まらない為もう暫くこのままだな。

そんなことを考えていると財布から適当に掴んだだろう札束が俺の胸に押し付けられる。

そんな朱美の手に触れると…冷たい。

…外に出すんじゃなくて、朱美が洗面所に立ったときにでも会計を済ますべきだったと反省する。

俺はもともと受け取る気はなかったから、


「いらない」


と、突き返す。

案外あっさりと引いたから、多分どっかに入れ込もうとでもしているんだろうなぁ〜とは思うけど…、見つけたら見つけたで

また返せばいいし。

返す口実でまた誘えるんだから…そういうのだったら別にいいかなっと打算的なことを考えたりして。



車はゆっくりと都内を目指して走り出した。




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