【陽輔編】3.放課後
そして放課後。
(…わかんねぇ〜)
俺は迷っていた。
もちろん、朱美へのプレゼントだ。
今までの女と違ってブランド物なんてものに全く執着がない朱美のことだ。
んなもの買っても心から喜ぶことはないだろうし。
せっかくなら気に入って貰いたいしなぁ。
服はサイズわからねぇし、食べ物ってわけにもいかないしなぁ。
指輪あげたいけど…朱美――つけそうにないしなぁ。
揚句の果てになくしてるのが目に浮かぶ――って言ってもまぁ指輪もサイズわかんないから無理だけど。
サイズが合わない指輪ほど失礼なものはないし。
(朱美は何欲しいんだろ?何もらったら喜ぶんだ?)
ここ何年もクリスマスプレゼントを選んで来たが、こんなにも悩んだのは初めてだと思う。
それだけ朱美が珍しいのか、俺自身が今までにないぐらい真剣なのか、――多分両者だろうけど。
あーでもない、こーでもないとぼやきながらクリスマス一色の街を歩き回る。
名案なんて浮かぶ事もなく、ただ無為に時間だけが過ぎていく。
(……)
今俺の顔は多分険しいのだろう。
なんだか行き過ぎる人から避けられてる気がするから。
まぁ時間がないことに何時になく焦りを感じてるんだから大目に見て欲しいんだが。
そんな事を思いながら何件目かのジュエリーショップに入る。
この時期に男一人で買いに来ているからか、呼んでもいないのに定員がやってくる。
マヂうぜぇ。
今まで随分と遊んできたこともあって、ある程度宝石には詳しい。
なんたってそういう女とつるんでた事もあったし。
俺は定員の話なんて適当に流しながら、ガラスケースの中を流し見る。
直感に触れるものがあればその近くの商品を見比べればいい、――それが今までの経験で学んだ事だ。
今までのジュエリーショップも同じように見て来たが、直感に触れるものがなくて素通り。
ここはどうだろうか――そんな事を思いながら光り輝くケースに視線を走らせる。
(――?)
隅に申し訳程度に置かれているようなあるガラスケースの前で立ち止まる。
中を覗き込むとキラキラとした輝きが目に映る。
置いてあるのはあまり見かけないデザインばかり。
リング、イヤリング、ピアス、ネックレス、ブレスなどがあり形もさまざま。
その中で俺の目に留まったのはガラスケースの中央に飾られた一本のネックレス。
デザインは女らしいものではあるが、可愛いというよりは綺麗と比喩するもの。
あまりお洒落らしいお洒落をしなくてもさりげなく付けられるデザイン。
「そちらの商品は全て一点物ですよ」
ケースの前で立ち止まったからであろう、近くにいた店員がここぞとばか近付いてくる。
けれどウザいのを差し引いても説明は受けときたい。
それがプレゼント候補にしたいと思っている商品なら尚更だ。
「んじゃこれ、プレゼントで」
くどい程の説明を聞いた後に俺が発した言葉で定員はしてやったりといったような笑みを浮かべる。
話しを要約すると無名な新鋭が作ったものらしい。
だからこそ値段は安め…っても学生が買うにしては結構値が張ってるけど。
まぁ俺がつけたトコみたいってだけだから気にならないけど。
数分ほど待たされて出てきたのは可愛くラッピングされた小さな小さなプレゼント。
それを受け取ると
「ありがとうございます」
と感謝の言葉を口にしたかと思うと、脇目も振らずに颯爽と店内から出ていく。
自分に向けられる好意の視線にはもう慣れっこ。
今まではその中からつまみ食いもしてたけど、今となってはうざいだけ。
変に絡まれるのは避けたいし。
「げ、さぶっ」
温かかった店内とは違い、肌を刺すような風が吹き荒れる。
その風はなんだかあの街を思い出させるて懐かしくなる。
「ん?」
郷愁に浸っている時、ポケットに入れていた携帯電話が着信を告げる。
ってもマナーのままだからバイブってるだけだけど。
小さな液晶に同じ幼少期を過ごした幼馴染みの名前が浮かぶ。
「おぅ匠久しぶり。どった?」
「イブ何時になりそか気になってな」
「――へ?なんか約束したっけ?」
朱美のことばっかりで他に予定らしい予定も浮かばない。
この間は――。
「…はぁ。んなこったろうと思ったよ。今年は暇だってから頼みがあるっていっただろ?」
「…言われたかもしんね」
確か先月ぐらいに確か、そんな約束をしたような微かな記憶が…。
「まさか無理になったなんて言わないよな?」
――ちっ、言っちゃだめか。
「陽輔?」
「…」
「女出来た?」
「いや、彼女じゃない。朱美だよ」
「朱美?なら連れてこいよ。俺も久々に会いたいし」
「…」
それって三人で遊ぶって事か?
せっかく二人きりのチャンスなのに?
―――――――いやだ。
「陽輔まさか二人っきりにさせろよとか思ってる?」
やべ、顔に出てたか?
って電話でわかるわけないか。
「それにしても遊び人の陽輔が朱美を――ねぇ。わかんないもんだ」
――それは当人が1番そう思ってるよ――とはあえて言わない。
「ま、連れてこいよ。んじゃそれだけだから」
「え?ちょっと待て匠っ!」
呼び止めは役にたたず、ツーツーツーと無機質な電気音を繰り返している。
「マヂかょ」
俺はいまだ無機質な音を発し続ける携帯を呆然と見つめていた。
――クリスマス・イヴまであと2日。
遅くなってしまいました。なるべく早く更新できるように頑張ります。