【陽輔編】2.場所
デート…。
デートかぁ。
…はぁ…どうしよっかなぁ。
「おっはよ」
「あ、おはよ健司」
隣に座った健司にいつものように挨拶はする。
考え込み過ぎてて時間の感覚がなかったらしい。
もう健司が来るような時間なんだ。
「お?振られたんか?」
振られたって…こいつは遠慮というものがないよな。
歯に衣着せないっていうか…。
無遠慮。
「いや、OKもらったよ」
まぁそういうわけじゃないから痛くもかゆくもないけどな。
「へぇ〜よかったじゃねぇか」
「ん、あぁ…」
よかった…、確かによかったはずなんだけど…。
「…その割に元気ねぇのはなんでだ?」
「…時間がねぇ」
超切実。
もうクリスマスまでマヂで時間ないんだぜ!?
今から…かぁ。
「…何悩んでんだ?」
「飯食う場所が…ねぇんだょ」
「飯?」
「有名なトコは全部埋まっちまってる」
せっかくのデートなんだしいいとこで飯食いたいじゃんか。
次いつこんな機会があるのかもわからねぇわけだし。
「あぁ〜そんな事か」
「そんなことだと!?」
確かに取るに足らないことだったのかもしれない…けど、人から言われるとムカつく。
「俺んトコくりゃいいじゃんか」
「―――は?」
コイツ…日付勘違いでもしてんじゃねぇの?
健司の家はここらでは穴場となってるレストラン。
おしゃれな外見と雰囲気など上げればキリがないが、デートには持ってこいといえる。
その中でもかなりデザートが有名で、健司自身もプロ並の腕を振るう。
まぁこいつの場合親孝行らしいけど。
そんな店が…クリスマスに空いてるのか?
「いやなのか?」
「いやっ、そんなわけっ…ってマヂ空いてんの!?クリスマスだぜ?」
「丁度キャンセル入ったんだよ、陽輔なら優先的に入れるけど?」
「頼む!!」
いや、確かにズルイのはわかってるし多分キャンセル待ちしてる人々もいるとは思うんだけど…、この際そんなこと言ってられない。
健司の店なんて予約しようと思ったら2ヶ月前だって無理なことがある店だし、何より朱美はあの雰囲気が気に入りそうだ。
すぐさま携帯を取り出した健司は何処かに――多分親父さんに――電話し始める。
「ん?あぁ、そそ、頼むよ。え?わかったわかった。んじゃ――陽輔大丈夫だって、クリスマス。取れたぞ」
「マヂで!?持つべきものは親友だな!」
「大げさ」
って健司は一言で捨てるけど…。
「いや、マヂ!超感謝する!何かしてほしかったら言えよ」
「ん?お前がそこまでマヂになる子見てみたいしな」
「…お前いるつもりなの?」
「まぁな、ってか俺が手伝うの前提でお前の予約受け付けられたからな」
ちょっ、まてよ、健司。
だってお前…。
「健司彼女…」
「ん?先月別れてるから気にすんな」
「別れたって…なんで…」
「なんだろうなぁ?合わないんだよな、なんか」
心底不思議そうにいう健司を見ていると、本当にお互い合わなくて別れたんであろう事が伺える。
こないだの彼女ってそうすると…1ヶ月持ってないじゃないか…。
健司はモテるけど…長続きしないんだよなぁ。
俺や敦と違って健司はマジメに付き合うんだけどなぁ。
「んなことよりお前プレゼントはいいのか?」
その言葉に俺の時間が暫し止まる。
…すっかり忘れてた。
「―――健司」
「自分で選べ」
うっわー、つれない返事。
まぁいつもの事だけどさ。
「――プレゼントかぁ〜」
何欲しいんだろ?
見たトコあんま格好に気を使ったりとかはないみたいだし。
いつもジーンズだしなぁ。
朱美の奴、おしゃれなんてすんのかな。
いつも以上にプレゼントには悩みそうだ…。
「放課後にでも早速行ってくれば?」
「そうっすかなぁ。一回見に行ってみるわ」
彼女以外にプレゼント渡すなんて初めてだよなぁ。
何渡しゃいいんだ…?
指輪か?
…あいつしなそうだよなぁ。
ふぅー、なんか…時間かかりそうだな。
「おっはよー」
「おぉ、敦。おはよ」
げ。
コイツには絶対知られたくないな…。
「二人で何話てんの?」
お、おい健司!!
言うんじゃねぇぞ!?
って視線を送っちゃいるものの…目が合いもしねぇーよ、健司の奴…。
「ん?」
気づいたのかなんなのか目をこちらに向ける健司。
お、おぃ健司言うな!?
言うなよ!?
「さぁな。たいした話してねーよ、なぁ陽輔」
「あ、あぁ」
「そ。ならいいや、今日の講義なんだけど…」
健司の言葉に敦の興味は綺麗さっぱり失せたようで、さっそく今日の講義の話をし始める。
それにちょこちょこ相槌を打ちながら、胸中で――ひやひやさせやがって――と健司を睨むと面白そうに目を細める。
健司の奴、気づいてて気づかないフリしやがったな。
俺の心境も知った上でこうやって健司は俺で遊ぶ。
知り合った頃からの事だが…。
(健司を朱美と会わせるの…しくった…かな)
健司にとっては俺をからかういいネタになる…よな。
あの健司の事だ、何もせずに終わる事もないだろうし。
…まぁ、だからこそ楽しいから一緒にいるんだけど。
(――まぁ、しょうがないか)
もう知られたんだからしょうがないよな。
そんなことを考えていた時。
「こらー席つけー、講義始めるぞ」
という声と同時に一限目のつまらない講義が始まったが、そんな授業そっちのけで朱美に渡すプレゼントを何にしようか考えに没頭した。