【陽輔編】1.約束
まだ書き終えていないので更新はとても遅くなりますが…(別話も書いてるので)、付き合っていただけると嬉しいです。
「頼むっ!!この通りっ!!頼むから来てくれよ〜」
「い・や・だ」
いったい何回発したかわからない言葉をもう一度発する。
いくら拝み倒されたって乗り気じゃないんだからしょーがないだろ。
「お前ホント遊ばなくなったなぁ」
「――うるせぇよ」
必死に拝み倒すダチの横で結構長い付き合いの部類に入る健司が感心したようにポツリという。
俺にだって自覚はある。
週末にはクリスマスだっていうのに彼女がいないのは――高校以来初めてじゃないだろうか。
どっちかっていうと俺は遊び人と言われる部類に属しているし、見た目だけならそうチャラチャラはしてないが――遊んでたのは確かだ。
彼女いながら身体の関係になった女だっていたし、合コンいって成り行きのままっつー行きずりの関係も結構あったし。
今までの彼女は好きだったとは思うが――全くと言っていいほど執着はなかった。
まぁだからこそその時の気分のみで行動してたんだけど――って、あ〜ホントどうしようもないぐらいバカやってきてるんだよなぁ〜俺。
それなのに――ここ一年、女に触れた記憶がねぇんだからダチも驚くよな。
「女か?」
「――さぁね」
コイツ等も遊び人とか言われる部類だから、女だとかいったら会わせろって煩いだろうしし――俺らしくないとは思いつつ…会わせたくねぇ。
って言っても――彼女でもないんだが…。
彼女と再会したのはホントに偶然だった。
実家であの古い手紙を見つけなければ彼女の事など思い出すこともなかっただろう。
それなのに、8つの時まで幼馴染みとして一緒に育った少女の姿しか知らなかった俺は、急に成長したかのように目の前に現れた彼女に――一目惚れしたんだ。
――昔と変わらないあいつの笑顔に。
――なんて事こいつ等に言えるわけねぇよなぁ。
それから連絡を取り合うようになって、近くに住んでいることを知った。
今までの私生活を知られたくなくて、曖昧な関係を続けていた女達は全部切った。
数人に顔ひっぱたかれたけど…そういう生活を送っていた報いだって事で甘んじて受けといた。
――痛かったなぁ、ありゃ。
まぁその痛みを代償に晴れて綺麗な身となったわけだけど――こんな私生活だったからか、あいつとの接し方がわかんねぇ。
話して見ると俺とは違って真っ直ぐ育ったみたいだし――。
(俺なんかが手を出しちゃいけない気がすんだよなぁ)
女に対してこんな風に思ったのは生まれて初めてで、今までの生き方を後悔――はしないけど、もっと節度持った生活してたら――と思ったりはする。
それに彼女と再会してから1番気を揉むのは――彼女に想う相手がいるっぽいって事。
彼女の口から聞いたわけじゃないから気のせいである可能性もあるけど……、最悪な事に俺この手の勘が外れたことないんだよな…。
なんか凹んできた…。
「――…切ねぇ…」
「うっわ〜、お前――かなり重症だな」
「合コン行ってパーッと騒げばいいじゃん!!」
俺の呟きに健司は嬉しそうな顔をし、敦はしつこく合コンを持ち出す。
「んなとこ行くかよ。ウゼェし」
あいつ以外と居たって楽しく感じねぇし。
昔バカやってた自分が嘘のように心が冷める。
なんで隣にいんのがあいつじゃないんだって。
「――歴代の女に聞かせてやりてぇな」
俺の言葉に初めて本気を感じたらしく、敦は呆然とそんな事を呟く。
(――なんとでも言えってんだっ)
敦のターゲットから免れるように視線を窓の外に向ける。
キラキラと瞬くネオンがクリスマスを主張している。
俺だってこんな俺おかしいと思うし、らしくないと思う。
かといって気持ち偽って遊べるほど器用じゃねぇんだよな。
前はんなこと考えなかった。
だから遊べたのかもしれない。
(――アイツ…予定あんのかなぁ〜)
彼女の笑顔を思い浮かべると、温かさとなんとも言えない痛みが胸を走る。
――俺…いつまで我慢出来るんだろ…。
警戒することもなく見上げるその唇を奪ってしまいたい衝動に駆られるのも、細い腰を抱きしめたいという誘惑に負けそうになったのも、一度や二度じゃなくもう数え切れないほど。
――隙あらば…って感じだよな、俺。
再度深く深く溜息を吐く。
「誘ったのか?その子の事」
「は?いや、全然」
「彼氏いる子なん?」
「いや」
「なんで誘わないん?」
「――断られたら…生きてらんね…」
だってそうだろ?
考えても見ろよ。
断れるだけならともかく、男と過ごすことになったとか聞かされてみろっ!!
うぅ…――そんな事考えたくもねぇ。
「……お前そんなに純だったのか…」
そう呟いた健司の横では、敦が呆れたみたいな顔でポカンと口を開けてる。
お前ら俺のことなんだと思ってんだ?
「確かに断られたらとは思うけど…動かなきゃ進展ないぞ?」
「……そーなんだよなぁ〜」
今のままだといつか襲いそうだし…。
「…なんとか機会みて誘ってみるわ、健司サンキュ」
このまま動かないのもバカみたいだしなぁ。
しっかしどう誘おう。
たまたま偶然会ったりとかってハプニングはないんだろうか…。
そんな事を考えていると次が降りる駅だとアナウンスが流れる。
扉が開く方の窓をぼんやりと眺め、窓から見える景色が駅に入った事を知らせ――。
(――ぇ???)
視線が有り得ないものを捕らえて瞬きを行うと、無情にもまるで夢でも見ていたかのように通り過ぎる。
慌てて窓に張り付くが、この電車に乗ろうとしている人でごった返していてよく見えない。
(――気のせい…か?)
あいつの事ばかり考えてるからそう見えただけ…だよな?
あいつは何度誘ってもこの駅で降りた事ないし――。
そう思ってるはずなのに…俺の足は勝手に先程の場所へと向かう。
違うと思っていても――期待する気持ちが疼き、ジッとしてらんない。
段々とホームに残っている人が消えていく。
そして――。
(――いた…)
駅に設置してある鏡の前に、間違えるはずもない彼女の姿があった。
鏡を見ながらどうやらはしゃいでるようで、多分知らない女だったら気味悪いと思うのに――。
(――可愛…)
俺の頭にはそれしか浮かばなくて――。
でも今は、彼女に自分の存在に気付いて欲しくて。
「――朱美?」
名前を呼ぶ。
切ないぐらいに心揺さ振られる名を――。
「よ…よ、ようちゃん?」
彼女はやっぱり俺の存在に気付いてなかったみたいで――、それでも昔と変わらず俺を呼ぶ。
まぁ愛称じゃなくて名前で呼んで欲しいんだけど…。
「何してんだ?ここで」
(――会いたくて――とか頬染めて答えてくれないかなぁ)
なんて――流石に欲求不満なのか俺の頭はそんな事を考える。
「よ、ようちゃんこそ、何してんの?」
勿論そんな答えがあるわけもなく――って何かあるのか?
――視線が泳いでる。
「いや、俺の家この駅だし」
「あっ、あ〜…そ、そうだよねっ、お帰りなさい…」
あ、ヤバイ。
その顔でお帰りなさいとかっ…!
うぅ〜抑えろ、抑えろ俺の理性っ!
ここは駅だっ!
公共の場所だっ!
しかも確実にこいつに他意はないっ!
――と、俺の理性は寸前まで耐えたものの――衝動には勝てなかったらしい。
「朱?」
覗き込んで視線が合ったと思った瞬間反らされる。
しかも――真っ赤な顔。
(――頼むからこれ以上煽らないでくれよ…)
「なんか用事でもあった?」
「…ぇ、えっと〜」
なんとか平静を装ったのに――、言い淀む姿に理性がフラフラ――。
しっかりしろよ、俺――!
今までクールで通ってたずゃないかっ!
――今じゃ見る影もないけど――って自分で言うぐらい重症なんだな…俺…。
(――頼むから俺の理性試さないでくれよ…)
そんな俺の心境を知らず――ってか多分想像すらしてないだろう彼女はことごとく埋められた地雷を踏んで行く。
「――つ、つい降りちゃった」
――誰か俺を殴ってくれ。
『意味もなく降りる』=『俺に会いたかった』とか勝手に変換するどうしようもない煩悩を誰か諌めてくれ。
うぅ〜抱きしめたい……。
「別にただのベッドタウンだぜ?」
「あーそーなんだ?」
なんとかなけなしの理性を総動員して返した言葉に対する解答が棒読み――って事は他になんかあったのか――?
っていやいや、自分のいいように解釈すんのはやめよう。
あーでも誘うぐらいいいよな?
駅には降りてるわけだし。
「折角だから寄ってく?ウチ」
見えないかもだけどこれでも心臓バクバクで、死にそうなぐらい緊張してる。
俺ってこんなに小心者だったかと思うぐらいなのに――。
「ようちゃんいつもそればっかり(笑)」
毎度同じセリフであしらわれる俺って――。
(……せつね…)
「ま、気が向いたら来いよなぁー」
しかしそんな顔見せずにそう言う。
朱美の頭にポンと手を乗せて肌触りのいい髪の触感を楽しむ。
――って、あ〜なんか変態チックじゃね…、俺…。
「気が向いたらねっ♪」
っていつ気が向くんだよチクショー。
こんな風に少しでいいから触れたいとか思うのはお前だけなのに…。
触れられたいと思うのはお前だけなのに…。
お前が誰かの隣にいるのも、友達と話しているのだって邪魔したいくらい、お前を独占していたいのに…。
あ〜独占欲強いとウザがられるって言うよなぁ〜。
――あは、…ダメじゃん、俺…。
でも――クリスマス…独占出来ないかなぁ。
――一緒にいたい――ただその思いだけ…。
「週末なんだけど――クリスマスって暇?」
って俺の持てる勇気の全てを出し切って切り出したわけだが――無反応…。
チラッと朱美を見ると赤くなったり青くなったり。
(――聞いてないのかよ…)
せっかくの勇気も無駄に使い切ったみたい…。
まぁ朱美らしいっちゃらしい気がするけど…。
「おーぃ、朱聞いてる?」
「――…へ?…何?」
覗き込むような体勢になっていたから、顔を上げた彼女の顔が触れられそうなぐらい近い。
途端に赤く染まった顔に――見惚れてしまう。
――化粧っけのない肌に触れたい。
そう思う反面、俺が触れてはいけないものだとも思う。
手を伸ばしたくても伸ばせない。
何より――相手に好きな奴がいるらしいのに手を出すほど人間腐ってはなくて――。
(こんな風に真っ赤になる相手がいるんだろうなぁ)
それが俺であるならこれ以上に嬉しい事はないのに――。
――どんな奴なんだろう?
俺とは正反対の奴だったら――諦めつくんかな。
いったいどうしたら気持ちをこちらに向けられるんだろう。
「朱?どうかした?」
「ううん、なんでもないのっ!なんかボーっとしちゃって――何て言ったの?」
気持ちは言えない。
だから――ついからかってしまう。
見惚れたなんて知られたくないし、他の誰でもなく俺の隣にいてくれる間は――、今を壊したくない。
例え俺を見ていなくても――。
「ならいいけど――朱さぁ、クリスマスって暇?」
「ふぇ?なんで?」
「なんでって…俺も今年一人だからどっか行かないかなって」
理由を聞かれるなんて思わなかったけど――不自然じゃないよな?
答えを待つ時間が限りなく長く感じる。
いっこうに何も言わない時間が長くなれば長くなるほど、不安に駆られる。
不安に押し潰されそうになる――。
自分で撒いた種だが――逃げ出したい。
「ぁ〜予定あるんなら別に……」
「い、行く行く!!」
背中を向けた途端服の裾を掴まれ振り返ると、赤く染めらた頬が目に入る。
「そか、んじゃ9時に駅まで迎えに行くからな?ちゃんと来いよ〜?」
「はーい♪」
返事を聞いてすぐに顔を反らす。
(や…ばっ、ニヤけた顔が戻らないっ!)
平静を保とうかと試みるが、まるで顔の筋肉がなくなってしまったかのように緩みきってしまった頬は戻る気配を見せない。
それとは別に次々に浮かぶクリスマスのデートプラン。
(――っ!これデートだよな、デート!!)
平静を保とうとする反面、ニヤけ顔を助長させる自分を止められそうにない。
まるで初めてデートするのかってぐらいはやる気持ちは止まらなくて。
あ、朱美とは正真正銘初デートだからしょうがない…か。
(でも…こんなん初めてだよなぁ)
今までこんなにもデート一つで一喜一憂したのは始めてかも知れない。
あー、でもこうやってデートプラン組めるのは今まで遊んでたからだよなぁ。
ん〜、何処連れてこ?
せっかくのクリスマスだろ???
やっぱムードのイイとこ行きたいよなぁ。
ん〜、あの辺りにすっか…。
でもそうすると…。
「あ、朱ちょっと耳貸せ」
「ぇ?」
別に普通に言ってもいいんだけど…まぁ、男のサガ???
近づきたいじゃん??
好きな奴に。
だから…さ。
内緒話する振りして――いや、実際そうなんだけど――朱の耳に自分の口を寄せる。
もちろん目は彼女の首筋に行ってしまうわけで…。
細い首筋に跡を残したくなるのは男のサガなワケで…。
……見るぐらいいいよな???
あせってる感じの朱美が新鮮で、そんな彼女の横顔を真横で見る。
(ぁ〜、睫結構長いんだなぁ〜)
なんてこと思ったり、綺麗な肌に頬ずりしたくなったり…。
…抑えたけどな。
いや〜、抑えるしかないだろ。
朱美に好きな奴いるのなんとなくわかるわけだし。
ってかあれだよなぁ〜。
俺…どう思われてるんだろ?
「せっかくのクリスマスなんだからめかし込んで来いよな」
そういった時の朱美の顔を見ることもなく、名残惜しげに顔を離す。
あんまりマジマジと首筋見てるとマヂ理性効かなくなるし…な。
再び顔を見た朱美の顔は予想に反して真っ赤で。
真っ赤になった顔のまま、『わかった』とだけ言い置いて朱美は逃げるように電車に乗り込んでいく。
なにはともあれ、こうして俺達はクリスマスの約束をした――。
――クリスマス・イヴまであと3日。