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1.約束

この小説は短編小説『エイプリルフール』の番外編です。まず短編小説『エイプリルフール』(http://ncode.syosetu.com/n3128d/)を読むことをお勧めいたします。

――ガタンガタン――


規則的に走る電車から何気なく景色を流し見る。

時間はまだ17時。

夕方とも夜ともなんとも曖昧な時間帯にも関わらず、外はすっかり暗くなっている。


(冬だなぁ〜)


ふとそんな事を思った。

人々が浮かれ、笑い、楽しそうに過ごしているその空気が、私に年末を知らせている。

何気なく見ているはずのきらびやかな街のネオンに瞳を奪われる事も、近頃は少なくない。


(――クリスマス…なんだよなぁ〜)


――今年も一人かなぁ――とは思うけど、あえて考えないようにする。

脳裏に幼馴染みの姿が浮かぶ。

本当はずっと前から幼馴染み以上の想いを寄せる人。

彼氏の一人もいたことがない私を友達はおかしいというけれど――、心から望むのは――一人だけ。

その人以外見えなくなってる私の異性に対する態度は素っ気なくて、お子ちゃまだと友達にからかわれていたのも今年の春先まで。

再開が偶然だったか必然だったかと聞かれたら、必然だったと答えるだろうと思うぐらいに今はしっかり乙女らしい。

かといって告白する勇気はないけれど…。

再開したエイプリルフールから、私達は連絡を取り合っている。

実は住んでるのが駅3つしか離れてないこともその時に知った。

世間は狭いなと言って笑いあったっけ。

ようちゃんはモテる。

そんな事を知ったのも連絡を取るようになってから。

今は彼女、いないみたいだけど……。

キラキラと光るネオンが瞬く。


「――誘って…みようかなぁ」


窓に映る自分に話し掛けるようにポツリと呟いてみる。

折角のクリスマス。

どこに行ってもムードのある時期。

ダメモトなのは変わらない。

再会出来ないんだと、この気持ちを諦めようと決めた日に、私はやっと彼と再会した。

諦めようとまで思っていたのに、いざ再会すると今の関係を壊したくなくて動けないでいる――でもクリスマスぐらいぶつかっつみてもいいかなって思える。

モテモテのようちゃんの事だ。

彼女がいないからと色んな女の人に誘われているだろう。

クリスマス3日前だもの。

もしかしたらもう予定があるかもしれない――けど。


(断られたら――笑っちゃえばいいや)


いつもとは違ってこんな風に考えるのは、浮かれたこの街の喧騒がそうさせるのだろうか――。

気付くと、自宅より3つ前の駅で降りてしまっている自分が可笑しくなる。


(いつもなら絶対に無理なのになぁ〜)


いつも見過ごすだけだったその駅をマヂマヂと見つめる。

私が住んでる駅より少し小さな駅。

何回も降りようとしたけど――、すごく降りたかったけど――降りたことのない駅。

いつもようちゃんの背中が吸い込まれていく駅――。

ただ――それだけ…。

――そういわれればそれまでなんだけど…。

自然に…本当に自然に顔がニヤけてしまう。

――いつもようちゃんが居るところに自分がいる――、それだけのことが――なんだかとても嬉しい。

ふとホームにある鏡を覗くとそんな自分の姿が目に入る。


(あーこれじゃ絶対ヤバイ人だよっ、平常心、平常心…)


普通にしようと思えば思うほど、ニヤけた顔が元に戻らなくて――鏡の前で四苦八苦する。


「――朱美アケミ?」


――見られてるなんて思いもしなかったから。


「よ…よ、ようちゃん?」

望みも虚しく、振り向いた先にいたのは――私の幼馴染み。


「何してんだ?ここで」


(――あ、穴があったら入りたいっ)


「よ、ようちゃんこそ、何してんの?」

「いや、俺の家この駅だし」

「あっ、あ〜…そ、そうだよねっ、お帰りなさい…」


うっわぁ〜キョドリ過ぎだし私っ!

キョロキョロと辺りを見回すが穴などあるわけもなく…。


アケ?」


顔を覗き込んでくるようちゃんの顔を直視することも出来なくて――、きっと今私の顔は真っ赤だ――そうに違いない。

先程まで抱いていた意気込みなんて熱に変換されてどこかに行ってしまったみたい。

かかっていた魔法が解けてしまった。


「なんか用事でもあった?」

「…ぇ、えっと〜」


調度いい言い訳すら私の頭には浮かんでくれない。


「――つ、つい降りちゃった」

(えーぃなるようになれっ!!)


「別にただのベッドタウンだぜ?」

「あーそーなんだ?」


棒読みかよ私――。


「折角だから寄ってく?ウチ」

「ようちゃんいつもそればっかり(笑)」


笑ってごまかせるいつものセリフ。

電車で会ったりすると毎回言われるお決まりなセリフ。

だから私も決まったセリフを返す。

ようちゃんに他意はないんだろうけど――あまり行きたくない。

だってそこは――私の知らない部屋だから。

私が知らない――ようちゃん。

まぁ実際は一緒にいた時間のが短いから知らなくて当然なんだけど――。


「ま、気が向いたら来いよなぁー」


そういって頭にポンと手を乗せられる。

まるで幼い子にするみたいに――。

絶対ようちゃんに恋愛感情はないよなぁ〜とつくづく思う。

これが私が自分から言い出せない理由の一つだったりする。


「気が向いたらねっ♪」


よしよしとそのまま頭をなでられている私は…ようちゃんにとって犬みたいなものなんだろうか…?

あ〜、自分で考えてなんだかすっごく泣けてきた…。

ようちゃんならありそ…。

あ〜、マヂ泣きそ…。


「――って…ま?おーぃ、朱聞いてる?」

「――…へ?…何?」


ふと視線を上げると視界一面を覆うようちゃんの顔――。


(――――――っ!!!!!!!)


これでもかってぐらい一気に血液が頭に集まるのがわかる――。

心臓も聞こえちゃうんじゃないかってぐらいドキドキしてる。

――し、心臓に悪い…。

そんな私の心境を知らないだろうようちゃんは不思議そうな顔をしている。


「朱?どうかした?」

「ううん、なんでもないのっ!なんかボーっとしちゃって――何て言ったの?」


我ながら――下手な言い訳だぁ〜。

変って思われたかなぁ……、やっぱ。

探るようにようちゃんを見上げると全然違う所を見ていてホッとする。


「ならいいけど――朱さぁ、クリスマスって暇?」

「ふぇ?なんで?」

「なんでって…俺も今年一人だからどっか行かないかなって」


一瞬、聞き違いかと思った。

ほうけた顔をしなかった私自身に拍手喝采したいよ、マヂで。


「ぁ〜予定あるんなら別に……」

「い、行く行く!!」


折角の神様がくれたチャンスを逃がしたくなくて、ようちゃんの言葉を遮る。

神様ありがとぉ〜〜!!!!


「そか、んじゃ9時に駅まで迎えに行くからな?ちゃんと来いよ〜?」

「はーい♪」


盆とクリスマスと正月が一度に来たってこうはならないだろうって思うぐらいきっと私は笑ってる。

他の人からみたらきっとバカに見えるんだろうなぁ〜。

ま、ようちゃんが笑ってくれるからいっか★


「あ、朱ちょっと耳貸せ」

「ぇ?」


不意に思い付いたようにようちゃんが私の腕を引っ張り、耳にようちゃんの吐息がかかる。

掴まれた腕だとか視界に入るようちゃんの髪だとかを必要以上に意識しちゃって――まるで魔法にかかったかのように私は動けなくなる。


(ち、近いよっ!ようちゃんっ!!)


きっとようちゃんにとってはなんて事もないのかもしれないけどっ!!


(でもでもっ!!!!)


それに拍車をかけるかのようにようちゃんが囁いた言葉が、――『せっかくのクリスマスなんだからめかし込んで来いよな』――だなんてっ。

しかもしかも、言いたいことだけ言って私に向けた笑顔がなんだかとても艶っぽくて――。

もう反則ですって…。

――顔――上げられない。

鏡見なくてもわかる、今の私の顔――真っ赤だ。



そのあとどうやって逃げたか記憶に残ってないけれど――気付くと私は見慣れた駅の改札を降りていた。

まだきっと顔は赤い。


(――一人暮らしでよかったかも…)


心配されることも、詮索されることもないから――。


(――クリスマスかぁ〜)


おめかしって言ってもたいした服持ってないし――。


(…霞に買い物付き合って貰うかなぁ)


問題は山積み。

なにはともあれ、こうして私達はクリスマスの約束をした――。




――クリスマス・イヴまであと3日。





毎日2話ずつ更新いたします。全部で9話構成になっています。

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