雪の降るクリスマス
ここはとある田舎町。お金持ちと怖いおじさんたちが混在する町。
「ねえ先生」
「何ですか、お嬢さま」
「『きよしが歌うきよしこの夜』って、おばさま方がばっさばっさとお金を突っ込む予感がしない?」
「きよしが氷川なのかビートなのか渥美なのか大久保なのかで、大きく異なると思いますよ」
「バカね先生、そんなの氷川に決まっているじゃない。でも、演歌歌手と漫才師と寅さんと連続強姦魔のコラボというのも、色々な市場で需要がありそうね」
「いろいろとやばいので、この話はそこまでにしておきましょうお嬢さま」
「わかったわ先生。ところで、トナカイは自分の光る鼻で目をやられないのかしら」
「そこはサングラスとかを着用したんじゃないですか?」
「グラサン引っ掛けたトナカイが、真っ赤な特攻服を纏ったリーダーを乗せたそりとともに爆走って、80年台の少年KINGみたいな展開ね」
「湘南あたりにはまだ出没しているかもしれませんね」
「でも、赤鼻だけで夜道が明るくなるのなら、天狗がそりを引いたらもっと明るくなるわよね」
「天狗がそりを引いて空中闊歩って、どこの百鬼夜行ですか」
「だって、顔全体が真っ赤よ! しかも中央には雄々しくお鼻がそそり立つのよ! お母さんたちドキドキよ!」
「お鼻はともかく、それ、サンタクロースと激しくキャラがかぶっていませんか?」
「そしたら、毎年11月末に天狗とサンタクロースが後楽園ホールで時間無制限一本勝負、負けたほうがそりを引くというのはどうかしら。そり引きを賭けたコントラ・マッチよ! 日欧赤い悪魔対決よ! 燃えるわ!」
「そんな一部のプロレスオタにしか通じないようなローカル設定をしていると、フィンランドやNORAD《北アメリカ航空宇宙防衛司令部》に叱られちゃいますよ」
「なんで?」
「フィンランドにはサンタ郵便局というのがあって、申し込むとサンタさんからお手紙をもらえるのです。NORADは毎年サンタさんがどこにいるのか実況中継してくれていますよ」
「すごいわね、いもしないサンタを持ち上げて、そこまで嘘を塗り固めるのね。さすが外貨が欲しくてたまらない北欧と、世界中で俺さま以外は認めない北米だわ」
「お嬢さま、お嬢さまの今のドヤ顔は、水戸黄門は実際は諸国漫遊などしていないなどと、ぐぐっただけで誰にでもすぐ手に入るような当たり前の情報をテレビの前で自慢気に語る、ノリも想像力も何もない、つまらない人生を送っているカスどもが見せるドヤ顔ですよ」
「あら、そうかしら」
「そうです。大人は物語を楽しむものなのです。だから子供は本気で、大人はマジで、ネズミの国などにお金をばら撒くのですよ」
「学んだわ先生」
「それはようございました」
「あ、先生、雪だ」
「やけに冷えると思ったら雪ですか、珍しいですね」
「うふふ」
「何ですかその気持ち悪い笑顔は」
「先生、今日は何の日?」
「大手宗教の元締めが生まれる前の日です」
「照れてる?」
「照れてます」
お嬢さまが先生の首に両の手を回す。
心得たとばかりに、お嬢さまをお姫さま抱っこしてバスルームに向かう先生。
そう、今日は彼女と彼の初めての結婚記念日。
昔の会話を思い出しながらシャンパングラスを交わした聖なる夜。
ここからが彼と彼女の本気の時間。
「好き」
「俺も」
メリークリスマス