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絶望の先に、あるものは。  作者: 七影志狼
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07

「それどうするの? ここの敷地内にでも埋める?」


「ずっと地下にいたのを持って帰って土に埋めたら意味ないだろ。凛斗、お前んちなら亡くなった人の供養とかできるだろ?」


「出来るわけないじゃん。あたしんちは神社だよ? 神様を祭ってるお(やしろ)で死者の供養が出来るわけないでしょ」


「確かに。葬儀をお寺でやることはあっても神社でやるってのは聞いたことは無いッスね。結婚式ならまだしも」


 神社と寺院は似てるようだが大きく違う。かつては神社の敷地内に寺院が建てられたりもしたようだが、明治初期に施行された神仏判然令(しんぶつはんぜんれい)により神と仏を別たれたことで今の形式に至ったのだ。故に、凛斗の家である大和神社では死者の供養はできない。


「となると、この町にある寺は・・・どこだっけ?」


蓮鳴寺(れんめいじ)、だね。渡良瀬家(うち)のお墓もそこにあるし、住職さんはいい人だから頼めばやってくれると思う」


「よし、じゃあそこで決まりだ。問題は朱莉さんをどうするかなんだが、先生に頼むつもりだったのに不在だしなあ・・・」


 ちらり、と。春輝は持ち主不在の机の上を見る。そこにはご丁寧に「帰ります」と書かれた小さなホワイトボードが代わりに鎮座している。


「もう俺は付き合えないッスよ! 供養に行きたくないとかじゃなくてバイトの時間なんス。そろそろ行かないとヤバいんで、お先に失礼しますわ」


 じゃあ、と。手早く鞄を引っ掴んで涼太は保健室を出ていった。頼む前に動かれたことで残れとも言えず、朱莉が起きるまで待つか、という諦めムードが漂う。


「しかし待ったとしても絶対にまた気絶するだろうし・・・どうしたもんかな」


「お家の人に迎えに来てもらおうか。電話番号知ってるし」


「なら最初っから言えよ! 悩むだけ無駄なことだったじゃないか!」


 春輝の苦情を余所に「黙ってて」とジェスチャーを送り、電話を掛ける。挨拶を事情を説明した後、迎えに来てくれるので校門前で待っていてくれ、とのこと。


「じゃあ春輝、それ持っててあげるから姫をおんぶして。変なとこ触っちゃだめだよ?」


「するかバカ! さっさと行くぞ」


 一向に目を覚まさない朱莉を苦々しく思いながらも、遺骨を凛斗に渡して朱莉をおんぶする。誰かをおんぶするのは義足になってから初めての行いだが、割と平気であることを実感できた。しかし問題なのはそこではなく、背中にあたる柔らかい感触の方だ。緊急事態ではないので感触を意識する余裕があるのもまた問題だ。結局、悶々としながら校門を目指したため、余計に疲れてしまった。


「あっ来た来た」


「ようやく来たか・・・て、ええっ!?」


 朱莉が気絶したために迎えには車で行く旨は伝えられていたが、やってきた迎えの車は高級感に溢れるリムジンだった。


「渡良瀬 凛斗様、戸川 春輝様にございますね? お嬢様を介抱していただき心より感謝いたします。では、こちらに・・・」


 運転席から降りてきた初老の男性は言うまでもなく執事なのだろう。喫茶店でもない場所で本職の執事を目の当たりすることになった春輝は妙に緊張してしまっている。


「え、あ、すみませんお手数をおかけしてしまったようで・・・」


「いえいえ。主に仕え使われる身である(わたくし)に勿体なきお言葉にございます。ところで・・・」


 春輝から朱莉を受け取った執事は座席へと朱莉を座らせた後、振り返り様に眼鏡を上げて言葉を投げかける。


「お嬢様に危害を加えてはいらっしゃいませんよね? 当然」


 先ほどまでの好々爺のような笑顔は消え失せ、逆光からかメガネのレンズは光り、声のトーンも下がり、眉間にシワを寄せ、「ゴゴゴ・・・」という効果音が背景に入りそうな恐ろしい雰囲気が場に流れる。意識せず唾を飲み込んだ春輝は、頑として「否」と答えた。


「左様でございましたか。あらぬ嫌疑をかけた無礼、伏してお詫び申し上げます。それでは、(わたくし)どもは失礼します」


 謝罪と挨拶を兼ねて深々とお辞儀をして、執事は運転席に戻って去って行った。妙な空気に走り去っていく車を見て大きく息を吐いた。


「何か無駄に緊張した・・・。何だあの爺さんは・・・怖すぎだろ・・・」


「あはは・・・。執事の浮形(うきかた)さんは姫第一の人だからね。姫が生まれた時から仕えている人だから娘みたいな思いを抱いているのかも。娘に危害を加える者には、娘に付いた嫌な虫には、容赦はしないってとこじゃない?」


「俺は朱莉さんに付いた虫か・・・」


「ま、男だしね」


 これでようやく本来の目的である蓮鳴寺へと向かうことができる。その道すがら、凛斗から朱莉は超がつくほどのお嬢様で、なんで凪乃高校(こんなところ)に通っているのかが解らないと言われるほどの人物であることを聞き、自らの疎さに辟易(へきえき)する道中だった。


 帰路とは真反対へしばらく歩いて目的地である蓮鳴寺に到着した。立ち入りがたい荘厳(そうごん)な雰囲気などなく、見た目ボロボロの廃寺を疑いたくなる外見でもなく、山林の中で浮世離れしているわけでもなく、街中に存在するお寺。住宅地をくり抜いて建てられたような蓮鳴寺はしかし、


「子供がいる・・・」


 保育園を兼ねていた。

 時間が時間であるために数こそ少ないが、それでも数人の子供が遊具やら何やらで遊んでいる。そこに、袈裟を着たお坊さんが近づいてきた。


「こんにちは、佐久間(さくま)住職」


「はっはっはっ。そう畏まらずとも〝一成(いっせい)〟と呼んでくれて構わんのだよ凛斗くん!」


 ―――――佐久間 一成。蓮鳴寺の第十代目住職であり、凪乃高校のOBだったりする。つまりは凛斗と春輝の遥か年上の先輩だ。


「お? こちらさんは初めましてだな。我はここの住職の佐久間 一成というものだ。今後ともよろしく頼むよ」


「はぁ・・・戸川 春輝です。今後があるかどうかはわかりませんが、よろしくお願いします佐久間さん」


「がっはっはっ。正直な奴だ! 確かに坊主に今度もよろしくなんて言われちゃあ縁起悪くて仕方がないな! だがまあ社交辞令だから深く考えずに受け取りな!」


 バンバンッ、と。春輝の背中を叩いて豪快に笑う。力が強く、その勢いで転びそうになるが、なんとか耐える。が、口は塞がない。


「痛いわっ。この暴力坊主!」


 背中が赤くなるほどに叩かれては悪態の一つも吐きたくなるもの。つい口走ってしまった本音にしまったと思うより先に、叱責されるよりも先に、称賛された。


「ほう、なかなかに根性のある小僧だ。気に入ったぞ! やはり若いもんはそうでなくちゃいかん! 社交辞令を社交辞令に受け取る高校生(ガキ)なんぞ年寄りよりもジジイだからな!」


 がっはっはっ、と。再び豪快に笑う。本当に寺の住職なのかと疑いたくなるような奔放(ほんぽう)な在り方に、子供のような親しみやすさを感じる。


「一成さんは凪乃高校のOBでもあるんだよ。ずっと上の先輩さんだ」


「もう二十年以上も前の話だがな! それで今日はどうした。法事の予定は聞いていないが、墓参りに来たのか?」


「いえ、それが・・・」


 そこで凛斗は事情を佐久間住職に説明した。OBなら知っているであろう七不思議の話から始まり、地下坑道の存在に女学生の遺骨を発見したこと。そしてそれを供養しに来たというあらましの全てを。


「そうか、あの七不思議にはそんな真実があったのか。確かに我の時代にも〝血吸の涸井戸〟の話は誰もが知っていたし、ずぶ濡れ幽霊の目撃情報も飽きるほど聞いた。だが井戸にわざわざ降りて調べてみようという奴は初めて聞いたな。しかもそれをわざわざ供養に来るなんて・・・・! がっはっはっ! ますます気に入ったぞ春輝くん!」


 バンバンッ、と。再三再四に渡って背中を叩かれる。最早背中の感覚がなくなってしまったことに、苦情を言う気も失せた。


「件の遺骨だが無縁仏に弔うことになるな。骨壺はないが〝土にお帰りください〟という意味で納骨することになるが、それでもよいか?」


「ただその辺に埋めるよりかは遥かにマシだと思うんで、それで十分です」


(うけたまわ)った。手短だが経を唱えるから立ち会ってもらえるだろうか?」


 こくりと頷き、供養に立ち会うことにした。手短に唱えられたお経に花を供えて線香を上げる。両手を合わせて住職の唱えるお経に耳を傾けている最中に目を開けてみるとそこには、


「ぁ・・・」


 宙に浮かぶずぶ濡れの女学生がいた。相変わらず着物の裾や髪から水を滴らせながらも、自らが弔われた無縁仏に寄り添って立つ彼女は何か言葉を発するわけではなかったが、それでも深々と頭を下げて音もなく消えていった。消え際に見えた優しいその笑みに、百年かけてようやく成仏できたのだと、ずっと課せられていた教室の掃除が、ようやく終わったのだと悟った。


 一通りの供養を終えた二人は佐久間住職と別れ、帰路についた。気づけば空はすっかりと暗くなっていて、一人で帰るにはちょっと不安な時間だった。取るに足らない雑談に花を咲かしながら連れ立って歩き、二人が別れるいつもの場所で互いに自宅へ向かう。別れて少し歩いたところで凛斗が立ち止り振り返って春輝に声をかける。


「春輝! 遅くなったけど、井戸に落ちた時受け止めてくれてありがとうね! それじゃあまた明日!」


 たったったっ、と。春輝の返答を聞く前に凛斗は走っていった。「気にするな」と言おうとして言わせてもらえなかったが、嫌な気分にはならず誇らしい気持ちで心が満たされる。ずっと枯れていた心が温かいという感覚。久しく忘れていた当たり前の感覚。


「・・・女学生の時もそうだったけど、誰かに礼を言われるのはいいもんだな。だけどな凛斗よ、明日は土曜日で学校は休みだよ」


 週休二日の凪乃高校に土曜日の登校はないのだった。


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