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絶望の先に、あるものは。  作者: 七影志狼
1/35

01

初投稿です。ぶっちゃけ、ダイレクト投稿の仕方がわからなかったので、ちまちまと分けていきます。

あらすじは最後までの流れをざっと書いているので、要注意。

 ―――――走る。全身で風を切ってただ走る。


 二本の足で地面を踏みしめ、一歩一歩先へ進む。酸素を求めて心臓が鼓動を早める。呼吸が荒くなり酸欠を訴える。それでも気分は高揚し、心を満たす気持ちは〝楽しい〟の四文字。

 彼は走ることが楽しかった。記録が伸びることよりも、表彰台に上がることよりも、喝采を浴びることよりも、何よりも走るのが楽しかった。好きなことを思う存分することのできたあの頃は、ただただ毎日が楽しかった―――――。






「ん、―――――」


 ベッドの上で目を覚ます。懐かしく、楽しくて、嬉しくて、忌まわしい過日の夢。二度とは戻れない遠くへ過ぎ去った過去。失われたモノへの未練が己の中に有ることを知る。

 ギシ、と。ベッドを軋ませて体を起こし、その視線は自らの下半身―――正確には膝から先のない己の両足を見る。


 ―――――交通事故だった。


 競技大会の会場へのウォーミングアップを兼ねて軽く走っていた彼は青信号で横断歩道を渡った。そこへ突っ込んできたのは乗用車。完全に信号無視のその車は彼に避ける暇を与えず、ブレーキが掛けられることもなく、彼を()いて、()ねて、飛ばして、ボロボロに傷つけた。

彼にとって最も大切な、選手生命そのものである両足を、完全に、完膚(かんぷ)なきまで、再起不能に、治療の術がないまでに破壊した。命を優先するために行われた治療は―――――両足の、切断。


「っく・・・ぅ―――――」


 夢を見て、過去(むかし)を思い出し、彼は泣いた。楽しかった日々を思い出し、希望に満ちた日々を思い返し、二度とは手に入らない現実を嘆いて、泣いた。

 事故に遭い、両足を切断されて、車椅子ではなく義足の装着を選択した彼はそれでも〝いつかまた走れるのではないか〟と〝またあの日々を〟と、一縷(いちる)の望みに(すが)ってリハビリを頑張っていた。また走りたい―――――その一心でリハビリを続けていた。


 そんな彼に突き付けられた現実は―――――〝退学勧告〟。


 非情で、無情で、現実的な、たったの四文字に、彼の足元は脆くも崩れ去った。

 元より彼は陸上競技の特待生として入学していた。両足を失い、選手生命を断たれたに等しい現状には当然ともいえる処置だった。

 絶望の渦中にいた彼にとってそれは、慈悲のない止めの一撃だった。彼の心は、折れてしまった。


 学校を退学(クビ)になり、寮も追い出され、地元へと帰って来た彼はただ生きているだけになっていた。希望を失い、夢を失い、目標を失い、生きる理由を見失った。

 幸い自殺に走ることはなかったが、まともに歩くのが精一杯。膝から下を失った身体障害者としてはかなりマシとはいえ、何もかもを失った彼は心が死んでいた。


 ただ生きているだけの人形。

 死んでいるのに生きている屍。

 常に前を見てきたその目には、何もかもが見えていない。


 希望を失い、ほとんど死んでしまっている彼が息を吹き返すには、今までとは別の希望や理由を見つけなければならない。

 ただしそれは生半なまなかなことでは果たせない。

 心が死に、厚く硬い殻に閉じこもってしまっている彼に届かせるのは容易なことではない。


 彼は暗く冷たい絶望に囚われている。生まれ故郷の、地元の高校に編入してからただの一度も笑顔を浮かべていない彼の名前は戸川(とがわ) 春輝(はるき)

 暗く先の見えない絶望せかいから引っ張り出し、冷たく凍り付いた絶望こおりを溶かし、その奥で死に瀕している心を生き返らせるのは―――――、


「おっはよー春輝ーっ!」


 誰なのか―――――。

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