表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深い闇に  作者: Spark
2/16

第2話 透視能力

二人が部屋を出た後、私は顔を覆った。不安だった。

「大丈夫?」

レベッカが優しく肩を抱いてくれるが、血の気が引いていくのがわかった。まだ証拠品に触ってもいないのにだ。

「・・・大丈夫よ」

「時間はたくさんあるわ。ゆっくりでいいのよ」

「ええ、でも、こうしている間にも次の殺人が起こらないとも限らないわ」

吐き気をもよおしながらも、袋に入っている銃弾を一つ摘んだ。

「・・・!」

声にならない声を出した。瞬きを忘れ天井の一点を見つめ、銃弾を握りしめる。



「待て!やめてくれ!話し合おう!」

ピーターが尻もちを突き、それでも後ずさりをする。彼の目の前には、拳銃を両手で握り締めている一人の人物。

「こうするしかないの!」

「待ってくれ! 俺が一体何をしたと言うんだ!」

必死に命乞いをするピーターの頭に銃口を向ける女性。

「マリア・・・」

ピーターの歯はガタガタと震えていたが、拳銃を握る女性の手も震えていた。

「できるなら私だって、こんなことしたくないのよ。でも・・・ごめんなさい!」

それから三発の銃声が鳴り響く。私は耳を塞いだ。


気がつくとレベッカが私を抱き締めていてくれた。

「大丈夫?」

「ええ・・・」

大きく息を吐いた私は、握り締めていた銃弾を机に置いた。

「見えた・・・のね?」

小さく頷いた私は額の汗を拭った。

「もう一つの方・・・」

大きな瞳が心配そうに私を包む。無理に笑顔を作り呼吸を整える。銃弾は不気味に光っていた。

「少し休んでからにしたらどう?」

私は首を横に振った。なぜかはわからないけれど、この事件を早く解決しなければならないと思った。

 私は銃弾に触れた。


 マリアの引きつった顔が飛び込んできた。綺麗に整った顔は崩れ、恐怖に支配されていた。

「お願い・・・やめて!」

少しずつ後ずさりするマリアの視線の先には、ピーターを殺害した人物が拳銃を握り締めて立っている。

「もう後戻りはできないのよ!わかってちょうだい!」

撃鉄を起こした彼女は、照準をマリアの胸に当てる。呼吸を整えようと目をつぶる。それを見たマリアが銃を奪おうと掴みかかった。

「ちょっと!離して!」

「死にたくないのよ!」

 もつれる二人は地面に倒れ込む。二人は必死に拳銃を奪い合った。

「このぉ!」

 上を取ったマリアが彼女の顔面を殴る。しかし拳銃を奪い返した彼女は絶叫に似た叫び声を上げた。

「ごめんなさい!」

彼女は下から四回、マリアの胸を撃ち抜いた。

 悲鳴を上げる間もなく仰向けに倒れ込んだが、それでも拳銃を奪おうと手を伸ばす。それを眺めながら立ち上がった彼女は、息を荒らしながら辺りを見回し、自分の頭ほどある大きな石を拾い上げた。必死に拳銃へ手を伸ばすマリアの顔めがけ、天高く石を持ち上げた。

 

 「いやぁ!」

銃弾を床へ投げつけた私は、耳が裂けるほどに叫んだ。

「アスリーン!落ち着いて!」

レベッカが私をなだめるように抱き締める。テリーとウィルも部屋へ飛び込んできた。

「どうしたんですか!」

「今日のところは帰らせて。後日改めて電話させてもらうから!」

レベッカが半分絶叫しながら私を抱き締め続ける。

「わ、わかりました。ウィル、彼女達を送るから、お前は後ろからパトカーでついて来い」

「はい」

私はレベッカの腕の中で震えていた。

 

いつもそうだった。何度体験しても慣れることなんて一生有り得ない。慣れたくない気もしないでもないが、夫に誓ったのだ。あなたのように無念のうちに亡くなった人を助けたい、そう思って。


 

 私はレベッカに支えられ、後部座席に乗り込んだ。テリーがハンドルを握る。

「・・・レベッカ?」

目をつむったままの私は、隣りに座るレベッカの腕をしっかりと掴んだ。

「何も心配ないわ。大丈夫よ」

「・・・ええ」

テリーは無言で私達の会話を聞いていた。私はレベッカの胸の中で静かに眠りについた。



「おかえり!」

家へ帰ると、お風呂上がりだったのか髪が濡れたままのブリジッドが迎えてくれた。

「ブリジッド、元気そうね」

「レベッカも・・・お母さん大丈夫?」 

ブリジッドが私の顔を覗き込む。レベッカは困ったように笑った。

「なんとかね。手伝ってくれる?」

「うん」

二人が私を支え、居間にあるソファに寝かせてくれた。

「ねぇレベッカ、今日はうちに泊まっていって」

目を閉じたままの私を見ながらブリジッドがそう呟く。

「そうねぇ」

腕を組んだレベッカも私の寝顔を見つめる。

「もう外も暗いし。私一人でお母さんをベッドへは運べないわ」

「じゃあ今日は泊まらせてもらうわ」



私は寝ている間、夢を見ていた。夫のビルが優しく私に微笑んでいる。

「アスリーン、君は素晴らしい力を持っている。君の力で何十、いや何百もの人を救うことができるんだ」

今、私が眠っているソファで、私達二人は肩を寄り添い座っていた。

「ええ・・・」

力無く頷くと、ビルは私の両手を強く握った。彼はとても穏やかな表情をしている。しかし、笑顔がどんどん薄れていった。握っていた手の感触も消えていく。

気がつくと、私は立ちすくんでいた。目の前でビルがうつ伏せに倒れている。お腹の辺りから血がじんわりと地面に流れていった。

「ビル・・・ねぇ、起きて・・・」

彼を揺すっても、微動だにしなかった。

「ビル・・・ビル!」

彼を抱き起こしても、目を開く事はなかった。

「どうして・・・どうしてこんな・・・」 

涙が溢れる。遠くでブリジッドがわんわんと泣いている。


「・・・お母さん?」

目を覚ますと私はベッドで寝ており、ブリジッドが私の手を強く握っていた。

「ブリジッド・・・」

優しく微笑むブリジッドの顔は、今見た夢を消してくれるほどの力があった。

「今レベッカがコーヒーを入れてきてくれるから。起きれる?」

「ええ・・・」

思い出したくないとは思っていない。彼のお陰で今の私がある。彼ががんばれと言ってくれたから、私はなんとかやれているのだ。

「おまたせ」

いい匂いとともにレベッカが部屋へ入って来た。

「・・・ありがとう」

受け取りはしたものの、口に運べずにいた。心配そうなブリジッドに、私は優しく微笑みかけた。

「ブリジッド、もう大丈夫だから。明日も早いでしょう?」

「うん、でもまだ大丈夫」

「あとは私がついているから」 

レベッカがブリジッドの肩に手を乗せる。

「・・・お母さん」

「なに?」

「あまり無理しないでね」

笑顔の瞳に涙が滲んでいるのがわかった。

「ええ」

彼女は私の頬にキスをすると、静かに部屋を出て行った。



コーヒーを飲み終えた頃、カーテンを少し開けて夜空を見上げたレベッカは、口を真一文字に閉じていた。

「レベッカ?」

寂しそうな彼女の横顔を初めて見た私は、思わず彼女の名前を呼ぶ。

「・・・ねぇ、聞いてもいいかしら」

振り向いた彼女は私を見つめた。

「誰が犯人か、もうわかってる?」

彼女の問いに私は一瞬沈黙した。が、レベッカに隠し通せるはずはなかった。

「・・・ええ。だけど」

レベッカがベッドに腰をかける。

「だけど?」

「衝動的な殺人ではないわ」

「・・・そうね」

レベッカは力強く私の手を握っていた。私は開いたままのカーテンの向こうを見た。

「彼女・・・」

「え?女性なの?」

目を大きくしたレベッカが私の顔を覗き込む。

「ええ・・・でも、彼女は、二人に・・・」

言葉が続かない。私はそのままうつむいてしまった。

「・・・今日はもう何も考えないで眠って」

私の髪をかき上げたレベッカが諭すようにそう言った。私は彼女の暖かい手が好きだった。

「ありがとう・・・」



 レベッカが部屋を出て行った後、私は目をつむるが眠ることができなかった。人が死ぬ現場を見てしまったのに、落ち着いて眠れるわけがない。私は『彼女』の顔を思い浮かべていた。

「どうしてこんな事をしたの?」

 『彼女』に語りかけた。返答が返ってくるはずがないとわかっていながら、それでも私は語りかけた。

「どうして・・・」



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ