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深い闇に  作者: Spark
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エピローグ−2ヶ月後−

「ねぇアスリーン?私まだよく理解できていないんだけど」

 開店の準備をしているとき、レベッカが不意に口走った。コップを並べながら、私は彼女の方へ顔を向けた。

「何を?」

「事件の事よ」

「ああ」

コップを戻した私は、カウンターへ腰を落とした。

まだ開店まで時間はある。私はテレビのスイッチを入れた。ブラウン管の中では、おいしそうなフルーツジュースのコマーシャルが流れている。それは初めて見るコマーシャルだった。

「結局、ピーターとマリアを殺害したのはキャサリンって人だったのよね?」

テレビに視線を向けている私の背後からレベッカの声だけが聞こえる。私は彼女の方へ視線を移した。

「ええ、私の勘違いだったのよ。ナターシャは誰も殺してなんかいなかったわ。私が口紅を透視してさえいなければ、事件はこんなにも難しくなることなんてなかった」

コマーシャルが終わり、綺麗な黒髪の女性キャスターが最近起きた事件のニュースを報道している。あの時見た女性キャスターは出演していない。


「でもあなたのせいじゃないじゃない。口紅を持ってきたテリーのせいよ」

「・・・でも、口紅を透視したとき、胸に何かが引っかかったのよ。それを放置していた私のせいでもあるわ。罪のない人を殺人犯呼ばわりして」

「アスリーン・・・」

女性キャスターが真剣な表情で私を睨みつけている。正確には私を睨みつけているわけではないのだが、視線を逸らさずにはいられなかった。

「・・・ブラッドはどうしてナターシャを信じられなくなったのかしら?」

ふと思いが駆けめぐった。ナターシャはブラッドを愛していたはずだ。ブラッドの歪んだ執着心が今回の事件のカギだったのだろうか。

私があれこれ悩んでいると、テレビのスイッチを切ったレベッカがカウンターにコーヒーを置いた。私は彼女と目を合わせ、それに口をつける。

「まぁピーターの写真を持ってたってブラッドが言っていたけれど・・・それだけは彼女に聞かなければわからないわね」

「そうよね・・・あぁダメね。まだ頭の整理がついていないのかしら」

「整理?」

そう言ったレベッカが、カウンターから出てくると私の隣りに座る。

「どうして今回の事件が起こったのか、いまいちわからなくて」

「そうねぇ・・・」

う〜んと唸ったレベッカも頬杖をつき、コーヒーに口をつける。


「ピーターとマリアを殺害したのは、キャサリンだった。彼女はブラッドに麻薬をもらう代わりに二人の殺害を強要されたのよね」

レベッカがどこということもなく、宙を見つめたままそう呟く。それが独り言ではないのはわかっていた私は言葉を返す。

「ええ、そして私に犯人はナターシャだと思わせた」

「なぜ?」

「元妻が犯人、都合がいいじゃない?ただ、おかしな部分はたくさんあったけれど」

そこでまたレベッカが唸る。

「彼女の口紅をナターシャの物と偽ってあなたに透視させたのも、犯人をナターシャに仕立て上げる為?」

語尾を上げたレベッカがそのまま私に視線を合わせる。それに私は無言で頷く。

「・・・ナターシャが自暴自棄になり自殺をして事件解決、という筋書きをブラッドは持っていたはずよ」

「それにテリーも協力していた、わけね」

「ええ、警察関係者でなければ間違った証拠品を持ってきて、透視させることなんて出来ないわ」

「きっとブラッドはテリーに相当なお金を渡していたんでしょうね」

そこで会話が一瞬途切れた。


 この事件はなぜ起こったのか。

ブラッドは自分を愛していると信じていたナターシャが、ピーターを忘れられずにいると疑った。そしてテリーにそれを相談し、銃を受け取りキャサリンに殺害を強要した。しかしナターシャがブラッドに疑いを持ち、彼は愛する人をその手で殺してしまった。


 −誰かが死んで誰も得などしない−それに気づくことが出来ていたら今回の事件、いいえ全ての事件など起こり得ないのだ。歪んだ愛情がこのような形で終幕を迎えてしまった。一人の男の歪んだ愛情で。


「アスリーン?」

レベッカが神妙な面持ちで私の顔を覗き見た。青い顔でもしているのだろうか、彼女の顔は心配の表情になっている。

「ええ、ごめんなさい。少し考えていたの」

「おかしな事聞いてごめんなさいね」

「いいえ、大丈夫」

コーヒーを飲み終えた私達は、カップをカウンターへ戻した。そろそろ開店の時間だ、きっと今日もたくさんのお客で賑わうはず。

「そういえば、ウィルの言っていたこと覚えてる?」

コーヒーカップを洗いながらレベッカが意地悪な表情を見せた。何か言っていただろうか?

「なんだったかしら?」

布巾でカウンターを拭いた私は腕組みをした。

「あの後、ブリジッドの彼がいる病院へ来た時こう言っていたのよ。”透視という能力は年齢とともに衰えることはないのでしょうか”って」

「それって私が歳をとってるって言いたいの?」

不満な顔を見せている私に笑いながら、レベッカはシャッターを開けた。

「それは彼に聞いてもらわないと」

「あぁ、しばらくウィルの顔は見たくないわ」


事件に終わりなんてない。ひとつの事件が解決したと同時にまた新たな事件が深い闇に潜んでいる。

しかし今はこの日常に幸せを感じていたいものね。



 


最後まで読んでいただき本当にありがとうございます!「2ヶ月後」はとても遅くなりましたが、こちらがエピローグとなりました。読んでいただければ幸いです。読んでいただき、ありがとうございました!

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