第15話 全ての終わり
私は他の警官と話すウィルを見つめていた。
「どうしたの?」
救急隊員に腕を治療してもらっていたレベッカが私の様子を察知したのか、心配そうに質問をしてきた。
「ウィルは・・・初めからテリーが何か関係していると、知っていたのかもしれないわね」
それを聞いたレベッカも、ウィルの背中を見つめた。
「もしかしたら、彼にいいように動かされていたのかもね」
レベッカは背中を睨みつける。そのいつもの表情に安心したのか、私は笑ってしまった。
「お母さん・・・」
ブリジッドは私の腕にしっかりと掴まっていた。私は彼女を強く抱き締めた。
「ごめんね。私のせいでこんな事に」
「お母さんのせいじゃないよ。だからそんなこと言わないで」
私は一層強く彼女を抱き締める。それを見ていたウィルが近づいてきた。
「ブリジッドさん」
「はい?」
「あなた、嘘をついていましたね?」
「嘘?」
「さっきあなたの恋人が目を覚ましたんですが、あなたは何も知らなかったと言ってるんですよ」
「でも、私・・・」
「あなたを釈放します。早く彼の元へ行ってあげたらどうですか」
「・・・」
「ブリジッド、行きなさい」
私は彼女の背中を押した。ウィルが警察車両を用意してくれたのか、他の警官がブリジッドを車へ乗せ、走り去って行った。
「ねぇウィル。もう少し柔らかい口調で話せないの?」
車が走り去った方を見ながらレベッカが呟いた。ウィルには聞こえているはずだ。
「・・・すいません」
ウィルの素直な反応に私達は言葉を失ってしまった。口を開けたままのレベッカが彼を見つめる。
「・・・口が開いていますよ?」
慌てて口を押さえようとして、撃たれた腕を動かしたレベッカは悲痛な声を出した。
「うぅ!」
「だ、大丈夫ですか?」
「レベッカ!」
うづくまる彼女を私達は立ち上がらせた。
「もっとケガ人をいたわりなさいよね」
苦痛に顔を歪めるレベッカを尻目に、ウィルが微かだが笑みを浮かべた。
「ウィル・・・あなた笑うとかわいいじゃない」
私はウィルの肩を軽く叩いた。俯いていたレベッカも慌てて彼の顔を見ようとするが、次の瞬間にはいつもの冷静な表情に戻っていた。
「・・・放っておいてください。私はもう行きます。あなた方もそのうち警察署へ来ていただくと思いますので、宜しくお願いします」
彼は足早にパトカーに乗り込んだ。私達はそのパトカーを見送る。
「・・・私達も帰りましょうか?」
腕をさすりながらレベッカが車のキーを取り出した。
「私が運転するわね」
車のキーを受け取り、鍵を開ける。
「あぁ疲れた。早くベッドで眠りたいわ」
助手席に座ったレベッカが窓を開ける。気持ちのいい風が車内に入り込んだ。
「ちょっと、どこに向かうつもり?」
行き先が全く別の方向なのに気がついたレベッカが私の顔を覗き込む。
「病院よ」
「え?私の治療ならもう・・・」
「違うわよ。ブリジッドの所よ」
「どうして?」
「やっぱり、心配なのよ」
ハンドルを強く握り締める私に、レベッカがくすりと笑った。
「何かおかしい?」
「まだまだ問題は山積みね」
私はできるだけ安全運転を心がけつつ、ブリジッドがいる病院を目指した。