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深い闇に  作者: Spark
13/16

第13話 逆転

「ぐぁ!」

痛みは感じなかった。何が起こったのかと静かに目を開くと、ブラッドがうつぶせに倒れていた。

 こめかみに銃弾を浴びた彼は、ピクリとも動く気配がない。


「だ、大丈夫ですか?」

現れたのはテリーだった。額から汗を流し、銃を握っている。

「テリー!」

「間に合ってよかった」

レベッカが腕を押さえながら立ち上がる。私は倒れたまま動かないブラッドを半ば放心状態で見つめた。後ろにいたブリジッドはまだ震えたままだ。

「ブリジッド?」

我に返った私は彼女の手を握る。だがその瞳にはレベッカが映っていた。

「来るのが遅いんだから」

レベッカは安堵の表情を見せているのか、後ろ姿ではわからなかったが、明るい声からすると少しは元気を取り戻したようだ。

「すいません。現場からは少し遠かったものですから。まずは早くここから出ましょう」

レベッカの手を取り、二人が部屋を後にしようしたので私は慌てて呼び止める。

「ちょっと待ってテリー。そこの段ボール箱に女性の死体が入っているのよ」

「ええ?誰のですか?」

驚いた表情でテリーが振り返る。

「わからないの。教えてくれなかったし」

「ふぅむ・・・ちょっとすいません」

レベッカから手を離し、段ボール箱へ近づくテリーと同時に私も後ろから覗き込んだ。

「やっぱりあなただったのね・・・」

その女性は私が見た、紛れもない二人を殺害した女性だ。

「これ見て!」

彼女の腕には無数の注射跡があった。やはり麻薬をやっていたようだ。

「麻薬をやっていたようですね」

「その麻薬欲しさにピーター達を殺したってブラッドが言ってたわ」


 「・・・」

何か考えているのか、テリーは無言で女性を見つめている。

「お、お母さん・・・」

ブリジッドがか細い声で私を呼んだ。思わず彼女の方へ目を向けると、怯えた顔がそこにあった。

「どうしたの?」

彼女の視線はテリーへ向けられていた。

「・・・あぁ大丈夫よブリジッド。彼は警察官だから」

レベッカがブリジッドの肩に手を置く。それでも彼女の怯えた表情は和らがない。

「とにかく、ここを出ましょう」

テリーはレベッカの肩を抱き、部屋を出ようとした。私はブリジッドを立たせようと腕を掴む。



 「だめぇ!」

ブリジッドが絞り出すようにそう叫んだ。

「ブリジッド?」

「逃げて!」

ブリジッドがそう叫ぶと同時にテリーがレベッカのこめかみに銃を突きつけた。

「あなた何を!」

その場の状況が把握できない私は、次の言葉が見つからなかった。ただただテリーの行動に驚いていた。

「ブラッドの奴、なんで始末してなかったのかなぁ」

「なんですって?」

レベッカが苦痛に顔を歪める。撃たれた腕をテリーが強く握り締めていたからだ。

「そうしたらあなた達を殺す必要はなかったのに」

テリーの言葉に、私は全てのピースが揃ったと感じた。


 「ブリジッドを外へ連れ出したのはあなたね」

「ええ、娘さんはお母さん想いですよ。外でお母さんが待ってるからって言ったら、のこのこついて来たんですから。ブラッドも簡単に彼女を眠らせることができたと言っていました」

「あなたが裏で動いていた」

「あなたには隠し通せませんね」

「ブラッドに麻薬を横流ししていたのね」

「そこまで知っていたんですか・・・警察官の給料もたたが知れていましてね」

それはただの当てずっぽうだったが、彼は私が全て知っていると踏んだのか、隠そうとはしなかった。

 

 彼は警察官という立場を利用して、押収した麻薬をブラッドに横流しをして、利益をもらっていたのだ。

 テリーはレベッカの腕をきつく握り締めながら、不適な笑みをこぼしていた。

「いつから私が怪しいと?」

「ブラッドにも言ったけど、口紅よ」

「口紅?」

彼は子どものようにキョトンとした顔を見せたが、すぐにその表情は消えた。私はそのまま続ける。

「あなたは、ナターシャの物はブラッドが全て処分したと言っていたのに、突然見つかったなんておかしいと思ったのよ」

「あぁそうですか」

私が真面目に話をしているというのに、テリーは話半分で聞いているように感じた。少し前の彼はもうここにはいない。

「私の電話番号をブラッドに教えたのもあなたね」

「彼に教えろと言われまして。しかしまさか脅迫電話なんかかけるとは」

「知らなかったって言うの?」

「もちろんですよ。はじめは勝手な事をしてくれたと思いましたが、ちょうどよかった・・・ピーターとマリアを殺したのはナターシャ、そしてそのナターシャをブラッドが殺し、自殺した・・・それと、そうだなぁ。そこの女はブラッドから麻薬を盗もうとして殺された・・・どうですか?」

「何がよ」

腕に激痛が走っているはずのレベッカが、テリーを睨みつける。しかし彼の腕を掴む力が弱まることはなかった。

「私の筋書きもまあまあいけるんじゃないですか?」

「私達は関係ないのよ。それでも証拠は作れるっていうの?」

私は震えるブリジッドの肩を抱き、あえてテリーを挑発させるようなことを言った。そうして冷静な判断が鈍れば、私達に逃げ出す隙を与えてくれるかもと思った。

「大丈夫。その辺も考えました」


 そう言ったテリーは胸ポケットから小さな袋を取り出した。中身は白い粉・・・つまり麻薬だ。

「あなた方はブラッドから麻薬を買っていた。そしてブラッドが自殺した事を知り、半狂乱になって殺し合った・・・。まぁ少し強引ですが、安心してください。私は警察官です。証拠ならいくらでも出ますよ」

「出るじゃなく、作るの間違いでしょう」

私の挑発は続く。レベッカの顔から血の気が引いていくのが見ていてわかる、時間がない。

「ははは、そうですね」

「笑えないわよ」

必死に冷静さを保とうとレベッカが彼の言葉を遮る。

「・・・少し話が長くなってしまいましたね」

テリーの顔が一変した。銃口を静かにレベッカのこめかみに当て直す。

「ミス・レベッカ。あなたの画力はたいしたものでした」

「あなたに褒められても嬉しくないわ」

「この状況でそんな言葉を吐けるとは。あなたに恐怖はないんですか?」

「私はあなたと違って人間なのよ。恐怖くらいあるわ」

「それは心外だなぁ。私だって人間ですよ」

撃鉄を起こし、見開いた瞳でレベッカを眺めた。

「できれば苦しむことなく殺してあげたいのですが、うまくいかないかもしれませんので、恨まないでくださいね」

「・・・もう恨んでるわよ」

「レベッカ!」

彼女の元へ行こうと私は立ち上がった。

「動くな!」

銃口がこちらを向く。いつ銃弾を浴びてもおかしくない。テリーの目が血走っているのがわかった。

「焦らなくても大丈夫ですよ。すぐにあなたも殺してあげますから」

そう呟くとゆっくり銃をレベッカのこめかみに戻す。

「・・・!」

「レベッカ!」



 撃たれたのはテリーだった。左肩に銃弾を浴びた彼は、床へ突っ伏しながらも振り向いた。

「だ、誰だ!」

そこには銃を構えたままのウィルが立っていた。

 

 

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