prologue
「これから君たちに命をかけて戦って貰います。戦う術は既に与えました。生き抜いてください」
突然の放送にざわめく教室内。
時刻は午前10時半、授業中の最中に行われたこの放送がすべての幕開けであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最上第二高等学校 2年2組教室内
「あっ、武蔵! おはよぉー♪」
「うっす!」
「うーっす! なんだ、お前ら朝からちちくりあってんのか?」
「ちっ…違うわよ! バカ! 変態! 間抜け!」
教室に入ってきた少年は黒鉄 武蔵。
挨拶してきた二人の男女は大黒 隼人と小早川 蓮だ。
二人は武蔵の幼馴染みであり、小さい頃に武蔵の家にある道場の門下生として知り合ってからは腐れ縁の仲であった。
「ってか、おじさんとおばさんはいつ帰ってくるのよ?」
「うーん、わかんねぇー。 けど二人とも今は南米で道場やってるらしいけどな」
「うわぁー、南米って…。 また凄いとこで教えてるんだね」
三人の会話を区切るようにベルの音が鳴り響く。
「おっ、授業はじまんぞ? またテンパりすぎて愛しの麻奈美ちゃんを困らせんなよ」
隼人は茶化すように武蔵へと声をかけてから自分の席へと戻って行く。
「うっ…。うっせーよ! バカ野郎がっ!!!」
俺はいつも通りの隼人を苦笑いしながら見送り、自分の席へと着席する。しかし、視線だけは隣の席へと惹き付けられる。清楚な印象をもつ黒髪に赤い縁の眼鏡をかけた少女。
逢沢 麻奈美さん
中学の武蔵は、自分の人生に嫌気がさしていた。代わり映えのしない日常に飽きていたと言えば良いだろう。学校の勉強も、幼少から両親に強要されて始めた武術も、友人との遊びも彼を満足させるには何かが足りていなかったのだ。
そんな日常から抜け出すために武蔵が始めたのが不良狩りだった。元々は苛められっ子を助けるために武術を使って助けたことが始まりだった。
その時の、悪者を懲らしめる感覚と自分の強さにひれ伏す不良達を見た武蔵は初めて快感を経た。
それ以来は、夜通し不良を懲らしめる生活が続いたのだが…。
ある日ナンパを執拗にされていた少女を助けることで武蔵の人生は変わる
「相手がいくら悪くても暴力はダメです!」
その時の少女こそ武蔵の初恋の相手。麻奈美だったのだ。彼女は絶対に暴力に屈せずに素行の良い方とは決して言えなかった武蔵に率先して突っかかってきたのだ。嘘偽りのない真っ直ぐな気持ちで…その時から武蔵の恋心は始まった
「うっーす、おっ…おはよう!」
不良や先生、大人には威勢の良い武蔵も一人の人間。初恋の相手に満足に挨拶もできない自分に嫌気がさす
「あっ、武蔵くん」
麻奈美は自分が読んでいた本を机の中へと片付けながら視線を武蔵へ向ける
「おはよう、今日も遅刻ギリギリだよ?もしかして…。また、悪いことしてないよね?」
麻奈美はいつもの決まり文句を言ってから軽く微笑む。その笑顔だけでご飯20杯はいけそうなほど内心でトキメク武蔵は素っ気なく顔を反らしてしまう。
「しっ…してねーし!」
そうして、いつも通りに授業が始まり今日が終わる予定だった。しかし、予定は大きく歪み多くの人間を巻き込みながら変わっていくことを武蔵は愚か誰もが知りよしもなかった。
時刻は10時10分。先生である、山田 華子の授業を遮るように学校が大きく揺れる。
「うわぁぁあああ!? じっ…地震ですか!? 先生は地震苦手なんですよぉ~! まっ…マジで地震とか無理っ!!! ちょっと職員室戻って確認してきますんで、皆さんは自習しておいてね!」
そして教室から飛び出ていく華子を見送りながら生徒たちは席を離れ、仲の良いグループで話し合いを始める
「ねぇーねぇー、地震とかチョーヤバくね?」
「えぇー、でも地震ってか上から震動きたじゃん?」
「えっ? マジ? んじゃー、隕石でも落ちてきたのかも」
「なにそれ! めっちゃウケるわ! 学校休みなったりしてねぇー!」
教室の至るところで会話が繰り広げられていくなか、隼人と蓮も武蔵の席に集まってくる。
「なぁ! 武蔵はなんだと思う?」
「ちょっと聞いてよ武蔵! このバカったら屋上にUFOが墜落したんだとか言ってるのよ!」
「なっ! お前は夢が無さすぎんだよ! 男の武蔵ならわかってくれるはずだ!」
「…隼人、男でもそれはねーと思うぞ?」
「ほらぁー! やっぱりそうじゃん!」
「くっ~!」
ブツン!
突然マイクが入った放送により生徒たちは学校閉鎖の可能性も咄嗟に考慮してしまう。すると騒がしかった教室が一気に静かになり、気づけば全員が放送に耳を傾けていた。
『これから君たちに命をかけて戦って貰います。戦う術は既に与えました。生き抜いてください』
「はっ?」
周りは唖然として、教室内には異様な空気が漂う。
『では、スタート』
ブツン
放送がキレる同時に異変はすぐに起きた。
教室のタイルで出来た床から黒い液体がスライムのように動きながら出てきて形を創っていくと緑色の小鬼が現れたのだ
「なにこれ?」
生徒の一人が、その小鬼に近づいて周りの生徒に状況を問おうと振り向いた瞬間。丸い物体が宙に浮く
ぽーん
コロッ
コロコロコロッ
吹き上がる鮮血、首のなくなった場所を補うように鮮血を撒き散らすクラスメイトの胴体、鉈のような刃物に鮮血を付着させた小鬼。
これだけでクラス中が理解した。
「「「キャァァアアアア!」」」
悲鳴をあげて教室の扉へと駆けるクラスメイトたちは雪崩のように扉へとぶつかっていく
「なっ、なんだ!? 開かねぇー! 扉が開かねえぞ!?」
「出してよ! はやくここからだして!」
武蔵は目の前で起こる惨劇を傍観しながら、これが現実なのかを疑っていた。
next
書き溜めを投稿!
そして文章やキャラクターをつくるための練習作品です♪
反響次第ではこちらも連載作品に含めようと思っています。