非生産的な男
男は一日の9割を寝て過ごし、残りの時間は食事やトイレなどの最低限の生命体の維持に費やした。男にとってそれすらも面倒くさかったが、それと生きていくことは別だった。
毎日夜の7時に目を覚まし、水を飲む。それから冷蔵庫を開け食材を探す。冷蔵庫には毎日に来る手伝いが食材を補給していた。優に三人分はある食事を手早く作り、一人で食す。後片付けは手伝いがするため食器は流しに水に浸しておくだけ。その後、散歩に出てシャワーを浴び寝る。
手伝いに来ている女なこれほど楽な仕事はないと思っていた。買い物と食器の後片付けをするだけで日に五千円の仕事なのだ。はじめは部屋の主がどんな人物なのか気になり不安でもあった。
しかし部屋には鍵がかかり姿を垣間見ることもない。玄関にある靴から男だとは想像できる。物音ひとつしない部屋。居るのか居ないのかさえもわからない。
そんな男のもとに通う女。自分が健気なヒロインに思えてくるのは彼女の若さだった。扉を見つめ、中にいる男の姿を考える。食器の量からもしかした大層な大男かもしれない。
このひと時が彼女の楽しみだった。