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私をパーティから追放するですって? ぶっ殺してやる!!!!

作者: 月宮 かすみ
掲載日:2026/03/12

 その日、俺はついに決断した。


 長かった。本当に長かった。


 回復魔法は成功率三割。しかも成功してもなぜか傷口が薄く発光するだけで、治るまでに時間がかかる。補助魔法はだいたい味方の足元で爆発する。祈れば雨が降る。晴れていても降る。洞窟の中でもなぜか湿る。


 うちの僧侶、ミリアは、どう考えてもポンコツだった。


「……ミリア」

「はい、勇者アレク様」

「お前を、このパーティから追放する」


 焚き火の向こうで、ミリアがぴたりと止まった。


 戦士のガロンが目を閉じ、魔法使いのユフィは「ついに言った……」と顔を覆った。みんな薄々、いや、はっきり思っていたことだ。今まで言えなかっただけで。


 ミリアはうつむいたまま、静かに言った。


「……私を?」

「ああ」

「この私を?」

「ああ」

「パーティから?」

「ああ」

「追放?」

「ああ」

「ですって?」


 顔が上がった。


 にっこりしていた。


 逆に怖かった。


「ぶっ殺してやる!!!!」

「なんでだよ!!」


 ミリアは僧侶服の袖から、どこに隠していたのか分からない黒光りするナイフを抜いた。


「待て待て待て! なんで僧侶がナイフを持ってる!」

「聖職者にも護身は必要です!」

「護身の目が完全に殺しに来てるだろ!」


 ミリアが地面を蹴った。


 次の瞬間には目の前にいた。


「速っ!?」

「死んでください!」

「嫌だよ!」


 俺は反射で聖剣を抜いた。きぃん、と澄んだ音が夜に響く。勇者としての勘が叫んでいた。受けろ。でないと死ぬ。


 だが、遅かった。


 ミリアのナイフが、信じられない角度で俺の剣の腹を打った。


 軽い音だった。


 なのに、俺の腕がしびれた。


「な――」

「甘いです」

「剣が飛んだああああああ!?」


 聖剣が夜空へ美しい弧を描いて飛んでいった。


 勇者の剣が。

 僧侶のナイフに。

 弾かれて。


 意味が分からなかった。


 ガロンとユフィが同時に後ずさる。


「おい勇者、あいつ本当に僧侶か?」

「俺が知りたいよ!」


 ミリアはナイフを逆手に構え、静かに近づいてくる。目が据わっている。普段は回復魔法を唱えるたびに噛む女とは思えない圧だ。なんだこの覇気。なんで追放された瞬間だけ完成形になるんだ。


「落ち着け、ミリア。話せば分かる」

「分からないから刺すんです」

「その理屈で僧侶が務まると思うなよ!」

「もう僧侶じゃありません。元僧侶です」

「その肩書きの変化、今そんなに重要か!?」


 俺はじりじり下がった。


 剣はない。真正面から戦ったら終わる。ここは説得だ。言葉だ。勇者の本領は人の心をつなぐこと。たぶん今こそそれが試されている。


「いいか、ミリア。追放はたしかに言いすぎだった。だがこれは、お互いのためで――」

「死んでください」

「話を最後まで聞け!」


 ミリアがまた一歩踏み出した、その時だった。


 空気が変わった。


 ぞわり、と背筋が粟立つ。


 夜の森が静まり返る。焚き火が縦に揺れ、黒い霧のようなものが地面を這った。


 ガロンが顔を引きつらせる。

 ユフィが震えた声を漏らす。


「この気配……まさか」

「ああ」


 俺は唾を飲み込んだ。


 来る。


 黒いマントをはためかせ、角を戴いた男が闇の中から姿を現した。赤い瞳。王冠。圧倒的な魔力。見間違えるはずがない。


「勇者よ――ついに見つけたぞ」


 魔王ゼグドールだった。


「貴様らの放つ邪悪な気配を辿ってきた。今宵こそ決着を――」

「いや待て」

「む?」


 俺は片手を上げて制した。


「邪悪なの、俺たちじゃないです」

「は?」


 俺は震える指でミリアを指差した。


 魔王がそちらを見た。


 ミリアはナイフを構えたまま、静かに息をしていた。


 魔王の表情が固まった。


「……僧侶?」

「ああ」

「僧侶なのに邪悪ってどういうことだ?」

「こっちが聞きたいわ!!」


 ミリアが魔王を見た。


「新手ですか?」

「違う! 余は魔王だ!」

「じゃあついでに殺します」

「ついでで殺される立場ではないぞ余は!?」


 ミリアの殺気が一段階上がった。


 空気がびりびり震えた。


 魔王が一歩下がる。


「な、なんだこの圧は……! 勇者! 貴様いつの間にこんな化け物を飼っていた!」

「飼ってねえよ! パーティメンバーだよ! さっきまで僧侶だったんだよ!」

「さっきまでだと!?」

「追放したらこうなったんだよ!」

「最悪のタイミングで最悪の地雷を踏んだな!」


 魔王が額に汗を浮かべた。


 そして、次の瞬間。


「仕方あるまい! 余の最強魔法で消し飛ばす!!」


 両腕を広げる。空が割れる。黒い雷が集束し、巨大な魔法陣が森の上空を覆った。


 見ただけで分かる。やばい。あれは国が一つ終わるやつだ。


「待て魔王! ここ森! 俺もいる!」

「知るか! 余が死ぬよりマシだ!! 終焉黒滅砲!!」

「技名が物騒すぎる!」


 闇の奔流が落ちた。


 世界そのものを押し潰すような黒の極光。

 山すら裂く、魔王最強の一撃。


 ミリアは、ため息をついた。


「うるさいですね」


 ナイフが閃いた。


 ただ、それだけだった。


 闇の奔流が、真っ二つに割れた。


 左右に裂けた最強魔法が、俺たちの脇を通り抜け、遠くの山を二つ消し飛ばした。


 沈黙が落ちた。


 俺は口を開けたまま固まった。

 ガロンは膝から崩れた。

 ユフィは「もう帰りたい」と泣いた。

 魔王は王冠を押さえながら後ずさった。


「……今、何が起きた?」

「俺に分かると思うか?」

「余の最強魔法だぞ?」

「ナイフ一本で切られたな」

「現実か?」

「残念ながら」


 ミリアはこつ、こつ、と歩いてきた。


「邪魔するなら、あなたも刺します」

「勇者!」

「なんだ!」

「助けろ!」

「こっちの台詞だよ!!」


 ミリアの視線が俺に戻る。


「まずはアレク様からです」

「待て待て待て! 魔王、頼む! 今だけ休戦しよう! 助けてくれ!」

「勇者が余に助けを求めるな!!」

「うるさい! この場で一番偉いのミリアだろもう! いいから協力しろ!」

「ぐ……正論なのが腹ただしい!」


 俺は魔王の肩を掴んだ。


「二人で説得するぞ!」

「どう説得する!」

「知らん! だがやるしかない!」


 俺たちは並んでミリアに向き直った。


「ミリア、落ち着け!」

「そうだ! 短慮はよくない!」

「お前が言うのか魔王」

「今は細かいことを言うな!」


 ミリアは無表情だった。


「……追放したんですよね」

「それは謝る!」

「余は関係ないだろ」

「お前もなんか謝れ!」

「なんで余が!?」

「場の流れだよ!」


 魔王はしぶしぶ咳払いした。


「そ、その……なんだ。余も不用意に最強魔法を撃って悪かった」

「殺す気満々だったじゃねえか」

「貴様も剣を抜いていただろうが!」

「それは正当防衛だよ!」

「余だって正当防衛だ!」


 ミリアが一歩進む。


 俺と魔王が同時に一歩下がる。


「言い訳はいいです」

「よくない! めちゃくちゃよくない!」

「余、降参したい」

「俺もだ!」


 さらに一歩。


 だめだ。説得になってない。目が完全に仕留める側の目だ。ここで俺と魔王は、ほぼ同時に悟った。


 勝てない。


「逃げるぞ」

「うむ」


 その判断は完璧に一致した。


「えっ、勇者!?」

「ガロン! ユフィ! 各自で生きろ!」

「見捨てるのかよ!?」

「今は自分の命を大事にしろ!」


 俺と魔王は全力で駆け出した。


 後ろから声が飛ぶ。


「待ちなさい!!!!」

「待つわけないだろ!!」


 森を裂くように走る。枝を飛び越え、岩を蹴り、勇者と魔王が並走するという絵面は、たぶん歴史書に載せてはいけない。


「勇者! 左だ!」

「お前詳しいな!」

「この辺に魔王城の抜け道がある!」

「なんで逃走ルートを共有してるんだ俺たちは!」


 背後で木が倒れた。


「近い近い近い!」

「僧侶の追跡速度ではないぞ!」


 そこで俺は根に足を取られた。


「うわっ!?」


 盛大に前へ倒れる。


 終わった、と思った。


 だが次の瞬間、腕を強く引かれた。


「何をしている勇者! 立て!」

「魔王!?」

「ここで死なれると余まで巻き添えだ! 急げ!」

「理由は最低だがありがとう!!」


 魔王は俺を乱暴に引っ張り起こし、そのまま背中を押した。俺たちはまた走る。後ろから飛んできたナイフが、さっきまで俺が倒れていた場所の木を貫いた。幹が爆ぜた。


「僧侶の投擲じゃない!」

「もはや伝説級の暗殺者だ!」


 息を切らしながら、俺は叫んだ。


「魔王!」

「なんだ!」

「今日のところは共闘だ!」

「不本意だが認める!」

「生き延びたらまた戦おう!」

「まず生き延びられる気がしない!」


 背後からミリアの声が響く。


「どこまで逃げても無駄です!!!!」

「声が近い!」

「なぜ余たちにだけこんな目が!」


 俺は半泣きで走った。


 魔王も半泣きで走っていた。


 その夜、勇者と魔王は人生で初めて心から分かり合った。


 ――どんなことがあっても、一方的な追放だけはしてはいけないと。


 無事に生き残れたら、これだけは語り継ごうと思う。


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