第1話:過労死からの目覚め、そして不穏な予感
大手商社の課長、佐々木啓介(38歳)は、徹夜明けの会議室で静かに過労死した。妻の美咲と高校生の娘、莉子の顔を思い浮かべたのが最後の記憶だった。
次に目覚めると、啓介は豪華な天蓋付きのベッドにいた。自分の手足は細く滑らかで、鏡に映る顔は、記憶にある疲れた中年男性ではなく「平均的に整った」十代後半の青年だった。
「ここは…どこだ?」
混乱する啓介の前に、一人の少女が飛び込んできた。彼女は啓介の顔を見るなり、キラキラと目を輝かせた。
「お兄様!目を覚ましたのね!ああ、アルベール・ド・ルナール!」
その瞬間、啓介の脳内に大量のデータが流れ込んだ。この世界は、娘の莉子が夢中になっていたBLゲーム『薔薇と剣の輪舞曲』。そして、彼はその世界における「単なるモブ貴族」アルベールに転生していた。
「よりにもよって、BLゲームかよ!」
啓介は頭を抱えた。しかし、事態はさらに深刻だった。アルベールの屋敷に、ゲームの冷徹な宰相、ディオン・クロイツが訪問してきたのだ。宰相は啓介を熱い眼差しで見つめ、優雅に口を開いた。
「アルベール君。君の瞳は、まるで曇りのない水晶のようだ。私と共に、王宮で働かないか?」
啓介は鳥肌が立った。なぜ、モブの自分にゲームの最強攻略対象が?この時、彼はまだ気づいていなかった。
自分が「全攻略対象キャラを惹きつける磁石体質」になっていることに。




