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第五話 後編

ヒューバート先生が教師たちを紹介し終えると、再び壇上の中央に立った。


「さて、これよりユリアナ魔術学校の規則について説明する。耳をかたむけるように」


その声に、講堂の空気は再び静まり返る。


「まず、我が校は六年制であり、卒業するまでに全ての基本科目と選択した専門科目を履修する義務がある。怠惰は許されぬ。進級には、所定の成績と実技試験の合格が必須だ」


ヒューバート先生の目が鋭く光る。


「魔術は力である以上、使い方を誤れば破滅を招く。我が校では、魔術の私的な使用は禁止されている。許可された授業内か、特別な許可を得た場所、もしくは自分の身に危険が迫ったこと以外では、いかなる魔法行使も認めぬ」


私は静かに息を呑んだ。この規則は、当然だ。けれど、それだけに違反すれば厳罰は免れないだろう。


「そして、このユリアナ魔術学校には、ランク制度が設けられている。10段階で、下から、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、イブシロン、ゼータ、エータ、シータ、イオタ、カッバだ。それぞれ、年に何度かある定期試験、そして次のクラス分けの試験、そして、三ヶ月に一度あるランクの昇級実技試験で、上げることができる。一年生の目安は、アルファからベータ、優秀な生徒だとガンマだ。そして今まで卒業生でカッバを取れた生徒はたったの3人である。カッバを取ることはそれほど難しく、名誉あることだ。また、ランクによっては校内で使用できない場所がある。それについてはよく学校則を読んでおくように。」


「続いて、寮生活に関する注意事項だ」

ヒューバート先生はゆっくりと講堂を見渡しながら続けた。


「生徒はすべて、所属する寮の個室に住まう。無断で他の階層や他寮へ立ち入ることは禁止。特に七階、公爵家および皇族専用階への立ち入りは厳禁だ。違反者には停学処分を科す」

ざわ……と、どこかで小さなざわめきが起こる。それを無言で睨み、ヒューバート先生はさらに声を強めた。

「寮内では、夜間の外出も制限されている。夕食後は自室に戻り、夜間外出の際は必ず事前許可を得ること。違反すれば、やはり罰則は免れぬ」

その口調は淡々としているのに、ひとつひとつの言葉が重く、厳粛だった。

「また、校内のすべての施設は、成績と身分を問わず使用を認める。ただし、先ほど言った通り、ランクによっては使用できない場所があることには注意せよ。」

ヒューバート先生は語気を強めて言った。

「つまり……力を磨かねば、入れぬ場所があるということね」


小声で呟いたのはフローラだった。私も小さく頷く。この学校では、努力なくして得られるものは何ひとつないのだ。


「入学から最初の三年間は“基礎課程”と呼ばれ、魔術の基礎と教養を徹底的に叩き込まれる。そして、この三年間の間は、クラスは絶対に変わらない」


生徒たちの間にざわめきが走る。私も思わず目を見開いた。


「試験の結果によって、三年間は固定された組で過ごす。これが、我が校の伝統だ。つまり、最初の試験こそが、君たちの三年間を左右する」


最初の試験がすべてを決める。その事実が、じわりと胸にのしかかる。私だけでなく、周囲の生徒たちも緊張に顔をこわばらせていた。


「ただし、誤解するな。この“固定”は、君たちの努力や未来を縛るためではない。クラスメイトとの絆を深め、互いに切磋琢磨しながら成長するための環境なのだ」


ヒューバート先生の声は、厳しくもどこか温かみがあった。


「また、三年後には上級課程への進級試験が待ち受ける。そこでは再び組み分けが行われ、さらに厳しい環境に身を置くことになる。だが、まずはこの三年間。君たちは“仲間”とともに、己の力を磨け」

私の胸に、ひとつの火が灯る。──今はまだ、始まったばかり。でも、ここからが勝負なのだ。その表情は、意外なほど優しく、私は思わず目を見張った。


「最後に……」


ヒューバート先生は、改めて壇上の全教師を背に立ち、低く、静かに告げる。


「ここに集う諸君は皆、未来の帝国を支える存在だ。貴族であることに甘えるのではなく、誇りを胸に己を磨け。そして、忘れるな。我ら教師は、全ての生徒を平等に導く」


その言葉に、私の心は不思議と落ち着いた。──この場所なら、噂に囚われず、ただ自分の力を信じて歩めるかもしれない。


「以上で本日のオリエンテーションは終了だ。昼食後は上級生より、学校案内がある。分からぬことがあれば、上級生の先輩方に聞くといい。」


ヒューバート先生がそう締めくくると、先生たちはマントを翻してそして消えた。瞬間移動の魔法だろうか。すごい。私は思わず、ため息をついた。


「ふぅ……すごい学校ね」


フローラが、ため息混じりに呟く。私もゆっくりと立ち上がりながら、心の中で呟く。

ここは、力の在り方を問う場所。 そして、私の“居場所”を探す場所でもある。

ほんの少し、胸の奥に灯る炎のような決意を感じながら、私は講堂をあとにした。

次は学校紹介の予定です。どうぞよろしく。

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