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第三話

入学式の余韻がまだ講堂に漂っている中、新入生たちは不安と期待が入り混じった表情で席についていた。堂内には荘厳な魔法灯の光が満ち、天井の高窓からは、春の柔らかな日差しが斜めに差し込んでいる。

 そのとき、壇上へと足音が響いた。ローブ姿の教員たちが並び、その中心に、一人の初老の男性が進み出る。


「静粛に。これより、授業を行う。一同起立、礼。」


 重く響いた声に、生徒たちのざわめきがぴたりと止む。立ち上がった生徒たちが礼をし、再び着席するまで、教師は一切口を開かなかった。


「本日、諸君らが受ける初めての授業は『魔力測定』および『属性判定』である。」


 声の主はヒューバート教諭。歴史と魔力制御の両方を担当し、ユリアナ魔術学校内でも一目置かれる人物だと噂されている。


「これらの測定結果は、今後の学習指導、並びにクラス編成に大きな影響を与える。我々は各々の魔力の資質と、適性を正確に把握する必要がある。」


 生徒たちの背筋が、自然と伸びていく。壇上の中央には、大理石の台座の上に置かれた透明な球体その表面には淡い光で複雑な魔方陣が浮かび上がっていた。

 その球体に手を触れることで、魔力量と属性適性が可視化されるのだという。使用されているのは、帝国でもごく一部の魔術機関しか保有していない「真理球」と呼ばれる高精度の測定具。私はその威圧感に自然と息を呑んだ。


「では、最初の者を呼ぼう。エドワード・フォン・グランデ。」


 その名が響いた瞬間、全体にざわめきが広がる。

 彼の歩みは静かでありながら、誰の目にも揺るぎない威厳を感じさせた。皇族特有の気高さが、まるで風を纏っているかのように彼を包んでいる。

 静かに真理球に手を置いたその瞬間、球体は強い光を放ち、色とりどりの属性を象徴する光が幾重にも交差していく。


「全属性適性。魔力量、非常に高い。上級階位の基準を優に超えている。さすが皇族、素晴らしい魔力だ。」


 ヒューバート教諭がうなるように呟く。講堂に控えていた生徒たちの間にも


「やっぱり」

「あの皇子殿下が…」


と感嘆の声が広がった。

 エドワード皇子は無言で壇上を降りると、静かに席に戻った。


「メアリー・クロンセチア」


 なんと、次は私の名が呼ばれた。ざわめきが広がる。どうやら、身分順に名前が呼ばれているようだ。

 私は、静かに立ち上がると、ざわめきを無視するように壇上へと歩いた。

 そして、真理球に手を置いた。

 その瞬間、光が爆ぜた。七色の光があふれだし、球体全体がまばゆく輝く。私は思わずギュッと目を瞑った。


「全属性適性。しかも、この魔力量。皇族と並ぶか、それ以上ではないか。クロンセチア家にこれほどの魔力を持つものがいたとは!」


 ヒューバート教諭が感嘆を隠さずに言った。 講堂に再び驚きのざわめきが広がる。

 私は何も言わず、静かに球体から手を離すと壇上を降りた。ゆっくりと席へ戻ろうとしたそのとき、


「ふぅん。影の花も魔力の才能はあるのね」


 やや間を置いた声が背後から投げられた。振り返れば、水色の髪を結い上げた少女が、余裕たっぷりに座っていた。アリシアだ。


「まさか、公爵家の中でも最も地味と噂のあなたが、全属性とは。信じられませんわ」


 その言葉に、周囲がぴりつく。 だがメアリーは、一歩も退かず、冷ややかに微笑んだ。


「信じるも、信じないも、お好きになさって結構ですわ」

「あなたのような影が、いつか光に染まれるのかしらね」


 その言葉は、まるで薄氷を踏むような挑発だった。

 だがその時、穏やかで澄んだ声が空気を裂いた。


「アリシア、それは言いすぎよ」


 振り返ると、栗色の髪を後ろに流し、金色の瞳を湛えた少女が立っていた。彼女はゆっくりとメアリーに近づく。


「フローラ・エグモント?」

「ええ。初めまして、メアリー嬢。わたくしも公爵家の娘として、正しく敬意を持ちたいと思っていますわ。貴女は素晴らしい才能をお持ちですね。そうだ、わたくしのことは、フローラと呼んでください。」


 その笑みは柔らかく、あたたかかった。 私はわずかに目を見開いたあと、静かに頭を下げた。


「ありがとうございます。あなたのような方にそう言っていただけて光栄ですわ。」


「嫉妬なんてしてませんわよ」 


アリシアはそっぽを向いて、足早に壇上へ向かう。

 真理球に触れた瞬間、再び色とりどりの光が溢れる。


「こちらも全属性。魔力量、上位。非の打ち所はない」


 ヒューバート教諭が短く言った。


「当然ですわ。わたくしはガーネット公爵家の娘ですもの」


 アリシアは誇らしげに言い、壇上を降りていった。


「セドリック・エマーニエル」


 彼が手を触れると、またもや眩い光が球体から溢れた。


「全属性、魔力量上位……。まったく、今年の新入生はどうなっているのかね」


 ヒューバート教諭が皮肉をこぼすように言った。

 その後も、フローラをはじめ、数名の生徒が壇上に呼ばれたが、講堂にいた誰もが、この学年を牽引する存在が誰であるかを、もう理解していた。

 ――メアリー、アリシア、エドワード皇子、セドリック、フローラ。

 測定が終わると、再びヒューバート教諭が前に立ち、厳かな声で言った。


「クラス分けは、後日行われる筆記試験と実技試験の総合成績によって決定される。最優秀から順に五つの組に分けられるが、勘違いしてはならぬ。成績だけが、力を証明するわけではない。過信は愚かの始まりだ」


 その言葉は、実に静かに、だが深く生徒たちの胸に刺さっていった。

投稿するのがかなり遅くなってしまいました。ごめんなさい。月曜日ではありませんが、本日は2つ投稿できたらと思っています。

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