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(せん)というものは、それほど絶対なのか?」


 ……あの時の言葉を、今でも僕は鮮明に覚えている。


「生まれながらにして運命が全て決まっているというならば、勉学も武術も学ぶだけ無駄ではないか。星々の動きで全てが決まっているというならば、人々がどれだけ幸せを願って行動しても意味などないということだろう?」


 意志が燃える瞳には、相反するように理性の光があった。周囲から注がれる視線を堂々と跳ね返す姿は、幼子でありながらすでに君主の威厳にあふれていた。


「私はそうは思わない。己の運命を、私は己で切り開く。この者だって同じこと」


 そんな人が、誰もが否定した僕を、肯定してくれていた。


 実の親でさえ、我が子よりも占の結果を信じて、僕を捨てたというのに。


「私が私であるように、この者は呪い子などではない」


 僕にとって、彼は光だった。


 僕を救ってくれた光。


 ……証明したいと、思った。彼の言葉は真実なのだと。彼は正しいのだと。『自分は呪い子ではない』ということ以上に、彼の言葉を(あか)したいと思った。




 それが僕の始まり。



 ……まぁ今はちょっと、早まったかなぁと思わなくもないんだけども。




  ※ ※ ※




敦時(あつとき)っ!!」


 けたたましく門が開かれると同時に自分の名前が絶叫されるのを聞いたような気がして、坂従(さかよりの)敦時(あつとき)は思わずビクリと肩を震わせた。書き物をしていた筆を硯の上に戻して耳を澄ませば、間違いなくこちらに向かって駆けてくる騒々しい足音が聞こえる。


「敦時っ!! 敦時、いるんだろっ!?」


 どうやら騒々しい足音の主は、先触れも出さずに屋敷を訪れた上、自力で閉じられていた門をこじ開け、さらには無断で屋敷に上がってこちらに向かって爆走中であるらしい。


 毎度のことではあるのだが、客人のすることでもなければ、立派な成人貴族男性がすることでもない。前者はまだ自分達の関係性から言って許されることだが、後者は由々しき問題だ。


 ──毎度のことだけど、今上帝の血を引く尊き親王殿下の行動じゃないんだってば……っ!


 敦時は頭を抱えてひとしきり文句を並べた後、後ろへ片腕をついてのけぞるようにして濡れ縁へ顔を出した。その時にはすでに角を曲がって姿を現した幼馴染が視界に入っている。参内用の装束の裾を蹴り立てて爆走してくる様は明らかに常軌を逸しているが、彼に関してはこれがある意味通常運転であるのだからたちが悪い。


「敦時!」

「はいはい、親王様。今日は何の御用で……」


 敦時は腰を浮かさないまま、実にものぐさな態度で客人を出迎える。そんな敦時の態度に客はキッと眉を吊り上げた。


 いや、案外眉を吊り上げた理由は敦時の態度に対してではなかったのかもしれない。彼はそういうことに頓着するような人間ではないし、現にそのことに言及することもなく敦時を円座(わろうだ)の上から引っこ抜いたので。


(あやかし)退治に行くぞっ!!」


 駆け寄ってきた客人は、足を止める間もなく敦時の両脇に手を突っ込むと実に軽やかに敦時を己の肩の上に担ぎ上げていた。用件が述べられた時には敦時はすでに担ぎ上げられた後で、客人の足はすでに(きびす)を返してもと来た廊下を進んでいる。


「うわっ! ちょっ!?」

「ついてこいっ!!」

「いや、その台詞、せめて担ぎ上げる前に言ってくれませんっ!?」


 敦時は悲鳴を上げるが客人は全く聞く耳を持たずに廊下を爆走していく。


 ──だから、そういう所っ!!


 かくして本日も敦時は、幼馴染にして仕える主でもあり、無二の恩人でもある、当代帝と亡き中宮の御嫡男、久木宮(ひさきのみや)時臣(ときおみ)に問答無用で連れ出されたのであった。


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