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豊穣の雨

掲載日:2024/03/11

「わぁ……綺麗」


「良いでしょう、ここ」


秋の日。


僕は、保育士の先輩の子安さんと、近隣の公園へ、紅葉狩りに来た。




数日前。


『紅葉狩りに、行きませんか?』


『え、でも、その日は……』


彼は、俯(うつむ)いて、逡巡(しゅんじゅん)した。


『子安さんと、行きたいんです』


『……分かった、行こうか』




「へへっ」


一面の紅(あか)の中で、はしゃぐ彼は、少年の様だ。


「蛭子(えびす)君は本当、良い所知ってんな」


「穴場なんですよ」


「良いなぁ……今度、妻と来たいなぁ」


ちくり、と胸の痛みを感じる。




「ちょっと、座りましょうか」


「おう」


僕達は、空いているベンチに腰を下ろした。


「はい、これ、飲み物」


僕は、予(あらかじ)め買っておいた、ペットボトルの水を差し出す。


「おぉ、有り難うな!


 でも俺、マイ水筒、持ち歩いてるから」


折角(せっかく)、用意したけれど、喉を潤す水は、足りている様だ。




「そうそう、俺、良い物、持って来たんだ」


そう言って、彼は、リュックから、


アルミホイルに包まれた、塊(かたまり)を取り出した。


「はい」


焼き芋だった。


「わぁ、有り難うございます。


 美味しそう」


「これ、うちのベランダで、育てたんだ。


 プチ家庭菜園、って言うの?」


それは、彼が一人で育てたんだろうか。


それとも、奥さんと二人で……


「春に、苗を植えといたんだ。


 順調に育ってさ。


 良い感じに、膨らんでるだろ?」


「……立派ですねぇ」




薩摩芋を齧(かじ)ると、自然な甘味が、口一杯に広がった。


彼も、はふはふと頬張っている。


穏やかな、良い時間だ。


彼は、隣に座る後輩が、自分に劣情を抱いているなんて、知りもしないだろう。


僕だって、生涯、言うつもりも無い。


でも、二人きりでこんな外に居ると、


つい、気持ちを口にしてしまいそうになる。




彼と出会ったのが、2021年。


彼から、保育士としての、色んな事を教わった。


いや、それだけじゃ無い。他にも、沢山。


あれから、もう、二年が経つ。


彼は、僕と初めて会った時には、もう、所帯を持っていた。


それでも、僕は、彼を――




「子安さん、僕……」


「ん?」



言うな。


言うな、僕。




「蛭子(えびす)君、あのね。うちね、もう直(す)ぐ」



聞こえない。



「お腹が、」



聞こえない。



「大きく」



聞きたくない。






紅い葉が一葉、



はらり、と舞い落ちた。

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