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女子高生に蕎麦を奢らされる話  作者: 塩谷 純也
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田貫大通り駅周囲探索(中編)



「正直なことを申しますと、全く見当がつきません」

注文した蕎麦を待つ間に、探索し考察したことをお二人にお伝えします。お二人ともキョトンとした顔をされております。


「田貫大通り駅の駅構内ならびにその周辺の探索を軽く行いましたが、犯人の繋がりになりうるものなど1つもありませんでした。噂が発信された状況も、またその時間も依然不明のままです。おそらく状況再現が可能な程の証拠が集まることはないでしょう。お手上げです」



ええー、という顔をするお二方。

ただのおじさんに何を期待していたのでしょうか?私は推理小説の主人公などでは無いのですよ。


そう。推理小説の主人公。

灰色の脳細胞で事件解決の糸口を紡ぎ出す彼ら彼女らは、僅かながらのメッセージからストーリーを作り出し、物的証拠によってストーリーに矛盾がないことを証明します。

聞き取り調査における心理変化を敏感に感じ取り、卓越した話術で揺さぶりをかけて自供をさせるなどの描写もありました。

ご都合主義とも言える証拠の残存とは言え、類稀なる観察眼でそれらを見つけ出すところも彼らの凄さと言えるでしょう。

五感全てが犯人を追い詰め、真実を見つけ出すツールとなっているのです。知識、経験、センスいずれもが常人のそれと異なる。故に主人公。



残念ながら、そのいずれもが私にはありません。


いつ犯人があの場にいたか、定かではない状態から始まる犯人捜し。『いつかどこかで誰かがした悪いこと」探し。考古学の発掘調査と同義です。諦めたらそこで試合は終わるそうですが、これに関してはコストパフォーマンスが悪すぎると言えましょう。素直に白旗を上げることに致します。



「そうですね。私も一緒に駅の中を見て回りましたが、何もなかったですね」

私の白旗に同期して火種さんも自らの知見を述べられます。


「『犯人は現場に戻る』と言いましたが、あれって追い詰められた犯人が、隠滅したはずの証拠が本当に確認されないかを確認するために戻るものでした。噂の発信に物理的な証拠なんて残っているわけがなかったですね。浅慮でした」

「うーん。『何もない』ということが分かったというのが収穫、と考えましょう、おじさん。李華」



■□■□   □■□■



だんだんと賑やかになる店内。

ポットに入っていたお茶を飲みながら蕎麦を待ちます。


「おじ様。視点を変えて考えてみませんか?」

お茶も飲まずに目を瞑り、しばらく唸っていた火種さんがそう提案してきました。


Whodunit(だれがやったか)で考えても進展がないのでしたらば他で考えてみるのです。ほら、推理小説っていくつもカテゴライズされているじゃないですか。Howdunit(どうやったか)Whydunit(どうしてやったか)とか。そちらから考えていくんです」


おっしゃられることは理解できます。犯人が分からないにしても犯行方法が分かれば、逆算的に犯人が導き出される。それを物的証拠で確固とする/犯行を再現するというものですね。


しかし、今回のケースでそれは通用するのでしょうか。

まずは、Howdunit。噂を最初の1人に伝えた、というだけです。そこに何かしらかのテクニックがあったとは思えません。伝え方に一工夫があり、犯人が特定できないようにした、とかあるのでしたらば一考の余地があるのですが果たして。

そうなるとWhydunitを考えることになるわけですが……。


「意図的に噂を広めようとした、という前提がなければWhydunitを考えても仕方がないのではないでしょうか?」

「と、おっしゃいますと?」

「無意識の愉快犯。いわゆる『噂好きさん』です。噂が好きな人なんていくらでもいらっしゃるでしょう?情報を所持していることの優位性を快感と感じるのは、大半の人間が持っている性分です。そうであればWhydunitなんてあってないようなものなのです」


私の勤め先にも噂大好きなお姉様方が大勢いらっしゃいます。女性は大凡が噂好きなのだと思います。


「いえ。それはないと思いますわ、おじ様」


きっぱりと否定される火種さん。はて。


「私が直接聞いたわけではないので、噂好きの方の思考心理に関しては何ともは言えません。独特なニュアンスが混じっているのでしたら、理解は出来ないでしょう。しかし、美穂から聞いた私に関する噂。これには『悪意』が混じっているのです。敵意、と言い換えても良いかもしれません。これは、おじ様の言葉を借りると『噂のキメラ化』の途中に付与したものであると同時に、最初から悪意が付与されやすい形をしていたからと考えられるのです。『悪意を重ねやすいように調整され発信された噂』。これって大変悪意がありますよね?」


悪意をコーティングしやすいようにカスタマイズされた噂。これは明確な悪意、それをぶつけたい相手への確信的な敵意ですね。


「ですので、Whydunitから犯人の可能性を考えていくのが良いのではないか、と私は思うのです」



■□■□   □■□■



何故他者を陥れるのか。それは、そうすることで自分に利益があるから。たった1つのパイを手に入れる方法は食べる相手が減ることなのです。

そう考えれば、噂の発信者は、火種さんを陥れることで得することがあるはずです。


であれば

「貴女、私以外の誰かから恨みとか買っていませんか?」

私は火種さんに問います。

数多くの敵を作り、もはや特定は困難かもしれませんが。


「おじ様。私のような聖人君主が人に恨みなんて買うわけがないじゃないですか。あったとしたら逆恨みか見当違いのものです。悔い改めてください」

「よく聖人君主なんて言いきりましたね。聖人君主は自分のことを聖人君主とは言わないんですよ」


よくもまぁ言えたものです。それになんでこの子、私への当たりが強いのでしょうか。



「じゃあこう言い換えましょう。貴女の噂で得したかもしれない人、いますか?」



考える火種さん。なかなか返答がありません。

社会性を獲得するにつれて会得していく打算。まだ火種さんの年代では難しいのでしょうか?仕方がありません。助け船を出しましょう。


「ほら。彼氏さんとかが噂を聞いて交際を躊躇っている隙に、彼を狙っていた別の女性がいる、とか」

「ドラマの見過ぎ、おじさん。後、李華に彼氏はいません」

「美穂ォ!」


「今回の噂で内申点が落ち、貴女と同じ大学を狙っていた人が推薦を受けられるようなった、とか」

「2年生ですよ、私達。そろそろ考えなくてはいけないのかもしれませんが、まだ受験などは考えてもいません」

「私もまだ考えていません」


「剣道部内で噂が流れていたとおっしゃられておりましたね。貴女の印象がより悪くなったので、部活のスタメンから外された、とか」

「3年生がスタメンなので箸にも棒にも掛かっていません。後、『より』ってなんですか?」

「先輩達、めっちゃ強いよね」


折角出した助け船でしたが、轟沈しました。



「お待たせいたしました。『赤いきつねと緑の田貫蕎麦』3人前です」

そうこうしていますと店員さんが蕎麦を運んでこられました。


「とりあえずいただきましょうか」

「「御馳走になります。いただきます」」



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