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女子高生に蕎麦を奢らされる話  作者: 塩谷 純也
5/12

田貫大通り駅周囲探索(前編)

実家に帰っておりました。

まさかパソコンがない環境とは思わず、小説を投稿しようと思っても如何ともし難い状態でした。

筆を折ったわけではございません。ただただ書けなかったのです。申し訳ございません。



齢16か17の女学生に、良い様に言い包められた私の心境は、穏やかではありません。

しかし、彼女が仰ることもまた確か。私の社会的信用が揺らぐことに関しては、全力をもって回避をする必要があります。致し方ありません。



■□■□   □■□■



お会計をして店外に出た私達3人。

レジスターにいた店長さんが申し訳なさそうに頭を下げておられました。


「私、バルバロッサ回収してくるね」

行動に移す前に三条さんはそう言い、駅前の駐輪場へと駆けていきました。

突然のジャーゴンに困惑すること然りです。


「……バルバロッサとは?」

「美穂の通学用自転車のことです」


自分の自転車に愛称を付けておられると分かり、一安心致しました。

駅よりも先に連れて行かなくてはならない場所が出来るところでしたから。



しばらくすると真っ赤な自転車を押してこちらへ向かってくる三条さんが見えました。

あれが、バルバロッサ……。


「……貴女も通学用自転車に名前を付けているのですか?」

隣に立ち、微笑ましそうに三条さんを見ている火種さんに、興味本位で訊ねました。



「私は電車通学ですので自転車は持っていません。おじ様もご存知でしょう?」

そうでしたね。毎朝電車に乗り込んでこられています。よくよく考えれば分かることでした。


「ただバイトに行く為に原付を持っておりまして。自分では呼称していませんが、そちらは美穂が『ブリュンハルト』って名前を付けてくれましたよ」


ブリュンハルトですか。


「……きっと白いのでしょうね」

「おじ様?何故私の原付を知っているんですか?もしかして私のバイト先を知っていらっしゃるんですか?」

「いえ。貴女の原付もバイト先も知りませんよ。ただ、『バルバロッサ』が赤かったら、『ブリュンハルト』は白いものって決まっているのですよ」

ええ、銀河の歴史の1ページにそう記されているのです。


「御冗談を」



「お待たせしました。じゃあ私はバルバロッサで田貫大通り駅に向かいます。李華とおじさんは電車ですか?」

勿論、電車です。それ以外に選択肢が?


「師越駅と田貫大通り駅って電車で3分くらいよね?だいたい1km半か。おじ様、歩けませんか?」


若人達が恐ろしいことを言い出しました。平地とは言え、1.5kmの距離を歩けとおっしゃるのか。日常的に体を動かしている貴女方と私のスタミナ及びタフネスは、桁が違うんですよ。甘く見ないでいただきたい。


「無理ですね。死にます」

「そこまでか、おじさん」

「むしろ少し運動をなされた方がよろしいかと思いますよ」


若者達が厳しいことをおっしゃっています。

相容れない思想です。

車を購入いたしました暁には、愛車にはヒューペリオンの愛称をつけてあげましょう。そうしましょう。



■□■□   □■□■



電車での移動。隣駅までなので100円とお得です。これぞ文明の利器。科学の力ってすごい、です。

窓から自転車で進む三条さんを一瞬お見掛けいたしましたが、すぐに流れる背景とともに消えてゆきました。

足腰の強靭な若者には頑張っていただきましょう。



さて、私とともに田貫大通り駅のホームについた火種さん。

「こちら側に来たことがなかったのですが、駅ホームと改札口くらいしかないのですね」


見て回る限り普通の駅舎です。1番乗り場、2番乗り場がありますが、それぞれを架橋がつないでおり、不親切なことにエスカレーターなしで昇降しなくてはなりません。恵比天満宮駅は昇りエスカレーターがありますのに。

また、各ホームもあまり広くないため、人と人がぶつかりそうです。自販機の設置しているあたりなど、誰かがジュースを購入していたら、その後ろはつかえるでしょう。おそらく並ぼうとすれば、点字ブロックを踏んでしまい、白線も超えてしまいそうな程。朝の通勤時間は地獄のようになりそうです。



「お待たせー。私も改札の中入った方が良い?」


ちょうど改札口側のホームにいた際、背後から私と火種さんを呼びかける声が聞こえました。髪の毛がぺっとりとしています。全力を出されたのでしょう。

三条さんが到着されました。


「お疲れ様です、三条さん。噂の出処となった場所ってどこらへんかご存じですか?」

改札口の外側にいらっしゃる三条さんにお尋ねします。


「あのあたりですね」

改札から指を指す三条さん。1番乗り場に降りる階段です。


「朝は通勤、通学で人が込み合うらしいのですが、しかし、ホームにそのキャパシティがない。ですので、みなさん階段で電車を待っているのだそうです」


階段とホームの接地点は幾分かスペースがありますが、難しいでしょう。そうなれば階段で待つというのも納得です。将棋倒しになれば、それはそれは凄惨なことになるでしょうが。



■□■□   □■□■



「おじ様。これ、なんでしょう?」

一緒に改札から出た火種さんが、声をかけてこられました。


駅の改札から出ますと、駅の構内案内の横に、これまたみょうちくりんな形のオブジェが置いてありました。

稲穂のような場所もあり、建物のような場所もあり、煙のような場所もあるよくわからないスタチュー。

感性がないので何ともコメント出来ません。



書かれていましたのは『土は知っている』というタイトル。横のタイルにはオブジェの説明がありました。

『土は知っている。かつて田畠だった時の水の恐ろしさを。宿場町となった時の人の声を。文明開化の時のコンクリートの重さを。大戦の時の火と熱の威力を。土は知っている。ずっと聞いている。教えてくれている』

謎のポエムと共に人物の紹介が記載されています。


どうやら地元出身の彫刻家さんが寄贈したもののようです。意味深なポエムは芸術家のセンスが成しえる何かなのでしょう。

駅の構内案内のところに描かれている町おこしのゆるキャラのたぬきり君の方が分かりやすくて良いですね。



「ああこれですね。この辺、『とじめ』っていう妖怪?が昔はいたって昔話があるんですよ。小学校の時の郷土資料館の見学の時に言い伝え集で見た限りだからあんまりはっきりしないんですけど、土の妖怪みたいなので。この彫刻は、その『とじめ』の奇譚と町の成り立ちがモチーフになったもの、みたいなんです」

観光ガイドのように説明してくださる三条さん。だいぶ情報が欠けて不確かなのですが、まぁおっしゃりたいことは分かります。


「『とじめ』さんですか。何でも知っているなら、教えて欲しいですね、犯人」

まぁ、そうですね。



■□■□   □■□■



メモを取りながら田貫大通り駅の周りを散策していましたら、気づけば1時間が経過していました。

時間はちょうど正午です。



「おじ様。岐阜の名物料理をご存じですか?」


腕時計を見ていると、火種さんが問いかけてきました。突然どうしたのでしょう?


問われた岐阜の名物について考えます。

何度か岐阜には行ったことがあります。その際に食べたご当地グルメと言えば、フナの味噌煮込みとか朴葉味噌とか五平餅でしょうか。そうなると名物となるのは、そういう味噌の料理ですかね。

後はアユでしょうか。〆に食べたアユの雑炊。なかなかに美味しかった記憶があります。


おそらくはそういうことを聞いているのではないでしょうが。


「冷やしたぬき蕎麦という料理があります。そして、ここは田貫大通り駅。駅前の飲食店が、町おこしのために各店ごとにアレンジした『冷やし田貫蕎麦』。気になりませんか?」


ああ、そういえば立ち食い蕎麦屋に茶の心と陰翳礼賛を見出したのでしたね、貴女は。


「特にこちら。唐芙蓉の油揚げと磯天の天かすの『赤いきつねと緑の田貫蕎麦』。気になりませんか?おじ様。私、味を想像できません」


遠回しにこうおっしゃっているのでしょう?

『これ食べたい』と。



「おじさんが困っているよ、李華。やめなさいって。後、唐芙蓉って何?」

ナイスアシストです、三条さん。最後まで言い切ればより良かったのですが。


「唐芙蓉というのは腐乳の泡盛漬けよ。沖縄の王族が食べたっていうごちそう。豆のチーズね。それを熊本では、味噌漬けして雲丹みたいな風味にしているらしいのよ。雲丹なんて食べたことないけど、響きからして美味しいとわかるわ」


お酒のつまみによさそうですね。

三条さんの方は「李華がふにゅぅとか言ってる」とクスクス笑っていて聞いちゃいません。

熱弁するだけ無駄です。残念。


三条さんの助言もあり、火種さんを調子に乗らせないことの絶好のタイミングなのも分かりますが


「私も幾分かお腹が減りました。口車に乗るわけではないのですが、地方にお金を落とさなくては、地方活性化には至りません。町おこしのための創意工夫を評価するのも地元民の務めと言えるでしょう」


調査に何も進展のないまま、我々3人は昼食時でやや込み合っている蕎麦屋の暖簾をくぐったのでした。



作品中の『赤いきつねと緑の田貫蕎麦』は創作料理です。どのような味かはわかりません。作れるかも定かではありません。


岐阜の名物に関しては、農林水産省のホームぺージにあります『うちの郷土料理』を参照にしております(https://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/k_ryouri/index.html)。眺めているだけでお腹が減ります。空腹時の閲覧は自己責任でお願いいたします。また眺めているだけで旅行に行きたくなる欲求を刺激してきます。そちらにも注意されてください。

作者が食べていないものも作中では例として挙げております。美味しそうでしたので。

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