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女子高生に蕎麦を奢らされる話  作者: 塩谷 純也
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三条 美穂の失踪 ③



とは言え。1度縁のあった人が音信不通になっているというのはモヤモヤするものです。


「浮かない顔をされていますが、大丈夫ですか?」

話しかけてこられましたのは喫茶 プンダリーカのマスターです。

昼食に選んだのはマスターの作られる牛筋の煮込みカレー。大学生時代から変わらない少し甘めのカレーです。メニューの注意書きに『1歳未満のお子さんには食べさせないよう』書いてありますので、隠し味に蜂蜜が入っているのでしょう。


「いえ、先日利用させていただきました際に一緒に来られていた女の子を覚えていらっしゃいますか?」

「ええ。こちらのスタッフがご迷惑をおかけしました」

頭を下げられるマスター。いやいや、謝って欲しくて話題に出したわけではないのですが。


「先ほど来られまして、そちらの方にも謝罪の言葉を伝えたところです」


……えっ。


「先ほど、来られた?」

「はい。学生さんが平日に来られるのは少しおかしいな、とは思いましたが。昔から当店はおさぼりの学生さんがお客様でしたからね」

それは私の大学生時代のことをおっしゃっていますか?いえ、今はそっちは置いておきましょう。


「その子が出ていったのはいつ頃でしょう?」

「貴方が御来店される10分程前でしょうか、アイスカフェモカを頼まれました。ビスコフもお渡し致しましたよ。新しいシステムになりそうです、ハハッ」


となると30分は経過していますね。うーん。


「どちらに行かれたか、とか分かりますか?」

「……いえ。申し訳ありません」

「いえいえ。こちらこそお手間をおかけしました」


ついでにお会計へと進みます。レジスターには例のスタッフさん。

私とマスターが謝り合う変な光景を見ていたであろうスタッフさんですが、こちらを見ながら携帯電話を握りしめています。

「通報しなくては。通報しなくては」とか言っております!わざと聞こえるように!

貴女分かってて言っているでしょう。やめてください。そういう冗談は小市民の心臓に良くないんですよ。



■□■□   □■□■



昼食で立ち寄った喫茶店で三条さんの手がかりを手に入れました。運が良いと言えましょう。

しかし、その後の足取りが再度分からなくなりました。食事時間を含めてだいたい40分。バルバロッサで移動していると考えますと、もう人の足では追える距離ではないでしょう。まぁ、私の体力ではどのみち追えないのですが。


とは言え、せっかくの手がかり。これは警察に連絡すべきかと考えます。しかし私の中の幽霊的な何かがこうも呟くのです。「あまりに物証がなさ過ぎて捜査を攪乱させるだけな気がするぞ」と。

警察署に行けば、遠藤さんはいらっしゃるでしょう。ただ、あの冷たい目をした婦警さんもいます。「さっきまでいたみたいなのですが、今はもういません」などと言おうものなら「捜査を攪乱させるとは流石犯人。やり方が汚い」とか言ってきそうです。実際におっしゃるかは分かりませんが、あの方の私の心象はすこぶる悪いです。



やはり、もう少し確証を得てから報告いたしましょう。



しかし、三条さんはどちらに行かれたのでしょう。彼女の立場になって、どんな行動をするか考え行先を予想するのが良いのでしょう。


今回、三条さんとお会いした理由は、『拡散している火種さんの噂話の真相を確かめるため』でした。私の方が食い物にされているという真相を知っても尚、火種さんを軌道修正するのではなく、私を不審者扱いすることで火種さんから引き離そうとする手段を選ぶという歪んだ友情を見せつけられました。

……噂の拡散を止める方法として、煙をたてる火を消してしまうのは選択肢です。選択肢としてはありですが、選ばないで欲しかったです。


ただ、その手段を選んだことで、火種さんとの友情に罅が入りそうになっているわけです

そう考えると火種さんはまとも?いや、そんな、審議拒否です。


そうなると、三条さんとしてとれる選択肢としては、『噂の出処となった人物を捕まえて火種さんに謝らせる』などが挙げられます。覆水盆に返らず。してしまったことを無かったことには出来ません。しかし犯人を捕まえたので許して欲しい、などの交渉ができるわけです。


付き合いの浅い私では考えに及びませんが、別に火種さんは三条さんのことを嫌っているわけではなさそうでした。逃げなくとも良いとは思うのですがね。

しかし、嫌われたかも知れないと考えてしまった三条さんの情報を得る『謎の方法』は完璧ではないのかもしれません。



ここまで深く考えてみましたが、半分以上オカルトじみていています。警察の方が考えているような誘拐事件であれば、私はただの頭のおかしな人間です。陰謀論者じみてより一層社会から距離を空けられそうです。


しかし、誘拐された人間が1人で喫茶店で昼ご飯を食べるでしょうか?そうなるとやはり失踪なのでは。失踪、というよりも先ほどの私の考えた『噂の真犯人探し』のための突発的行動が真相なのではないでしょうか?とするなら何故、誰にも言わずにいなくなったのでしょう。うーん。


……どうも現実味のない要素が入り混じっている感覚があります。これは何なのでしょう?多分に、火種さんの行動を把握する『謎の方法』が引っかかっているのではないでしょうか。


兎角深く考えても、私に真実にたどり着くだけの能力はありません。この違和感に自分の納得のいく回答が出来れば良いと考えましょう。



『噂の真犯人探し』をしている三条さんの行動を予想して動いてみましょう。

もしかしたら、どこかで接点が生じるかもしれませんし。



■□■□   □■□■



田貫大通り駅のホームに再びやってきた私。

本当に何もないホームです。狭いです。

数人が反対側のホームで電車を待っておりました。その中に三条さんの姿はありません。まぁ、これは想定内です。三条さんはバルバロッサで移動しているでしょうから、ホームには入ってこないでしょう。


改札を抜けると、目に入ってきたのは異様なスタチュー。ああ、そういえばこんなオブジェもありましたね。

『とじめ』をイメージしたもの、と三条さんが教えてくれました。


『土は知っている。かつて田畠だった時の水の恐ろしさを。宿場町となった時の人の声を。文明開化の時のコンクリートの重さを。大戦の時の火と熱の威力を。土は知っている。ずっと聞いている。教えてくれている』



「教えてくれている?」

思わず言葉にしてしまいました。


土の記憶があり、それを述べているのでしたらば、このポエムの文末は『ずっと聞いている』まででいいはずです。教えてくれている、というのはどういう意味なのでしょう?


先日はそういう視点で読んでいませんでしたので気づきませんでしたが、おかしな書き方です。



「ああこれですね。この辺、『とじめ』っていう妖怪?が昔はいたって昔話があるんですよ。小学校の時の郷土資料館の見学の時に言い伝え集で見た限りだからあんまりはっきりしないんですけど、土の妖怪みたいなので。この彫刻は、その『とじめ』の奇譚と町の成り立ちがモチーフになったもの、みたいなんです」

と言っていた三条さんの言葉を思い出しました。


祀っていると言っていた神社には何も『とじめ』の情報はありませんでした。


三条さんの『謎の方法』と関連するかは不明ですが、『とじめ』も情報収集能力を持っている節があります。オカルト繋がりで調べに行っても良いかも知れません。


郷土資料館は、えーっと、あっ、良かった、バスが通っていますね。歩きでしたら死んでいました。死なずに済みそうです。公共交通機関万歳。




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