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ワンライ#1

作者: ivy

僕は今、アクセサリー店に来ている。

11月の夜は呼吸をするだけでも息が白くなる。

僕の鼓動が高くなっているのを感じる。

いっその事、この白い息が壁になってくれればいいのに。

これは現実か?昨日布団に入ってから目が覚めた記憶があるか?

いや、あるな。歯も磨いたな。


「そ……」言葉が詰まる。「その1カラットので…お願いします!」

「かしこまりました。では明日の5時にお越しください。刻印などを済ませておきます。」

思わず座り込んだ椅子が軋んだのが分かった。

結婚か。ついにここまで来れたんだ。

初めての未希との出会いはどんなんだっけ?

忘れてしまう程に楽しい思い出で塗りつくしてきたはずだ。

高校性の時は皆が高嶺の花のように思えてろくに女子に絡みもしなかった僕なのに。

「あぁ……」無意識に声が漏れる。

「応援していますよ。頑張ってください!」

ここの店員、浅野さんは僕の事情を知っている。というか何度も相談をしているからだ。

「はいぃ」

分かっている。本番はこれからだって事くらい。

2日後の告白が成功しなきゃ意味がない。

でもここまで本当に怖かったんだ。

未希と一緒にいるのはホントに楽しい。

怪談話で叫びあったり都市伝説でちょっと悟ってみたり、ゲームを一日中やってた時もあったな。

浅野さんは僕の近くに寄って、手を差し伸べた。

その手をしっかりと掴み立ち上がる。

思ったより勢いがあって倒れそうになったのを浅野さんが支えてくれた。

「大丈夫ですか?」

「僕はやったんだ!」

そうだ、僕はようやくここまで来れたんだ!自信を持てよ!ここまで来てフラれる想像なんてするな!それは今までの僕への冒涜だ。

「そうですよ、あなたは明後日の夜に世界一幸せなるんですよ」と浅野さんは僕の背をゆすりながら震えた声で言った。


あっという間に1日が過ぎた、今日は土曜だから仕事は無い。

今日一日何していたかと言われればアクセサリー店に指輪を取りに行った。これしか覚えていない。

浅野さんの言った通り5時にはもう指輪は完成していて受け取る事ができた。

それから真っすぐ家に帰ってきた。

「重いかなぁ…」

思いっきり奮発して1カラットのダイヤの指輪にしたけどどう思われるかなぁ…

重い奴とか思われたらやだなぁ…

そりゃ、値段はビビり散らかすほどだったさ。

でも未希の事は本当に好きだし、気持ちを伝える意味でもこれが良いって思ったんだ。

僕の悪い癖だ。なんでも考えすぎちゃう。

いつも相手の事を思いすぎてやりすぎちゃうんだよな。

入社して初めての正月には上司に恥をかかせまいと11万のおせちを頼んでみたり。

今でもはっきり覚えてるな…上司の顔。

不可解なものを見るような目で

「いくら何でもやりすぎじゃないか?」

なんて言われたな。

まぁ、上司1人同僚3人に1つずつ買ってたからな。

貯金を大量に消費し手までやる事じゃなかったな。


ダメだ。ダメだ。変なことは考えるな。

自信を持て!本番は明日なんだ今から弱気になってどうする。


僕は自分の鼓動が高くなっているのを感じた。

今、健康診断を受ければ間違いなく高血圧と言われるだろう。

11月の夜は呼吸をするだけでも息が白くなる。

「はぁぁぁーー」

勢いよく吐けば、目の前が一面真っ白になる。そしてすっと視界が腫れていく

自動ドアを抜ければいつも通り浅野さんがいる。

店の中に入ったとたんプツリと糸が切れたようにクッションの椅子に沈んでいく。

「ga;obihtibtbp:naj」

浅野さんが急いで近寄ってきて何か言ってる。

でももう動けそうにないや。

眼鏡も曇ってきちゃった。


後日、浅野さんに聞いた事なんだけどね。

あの時は本当に焦ったって。

入ってくるなりクッションに崩れ落ちていくから何ごとかと。

もうこんな緊張はこりごりだなぁ。

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