嘘
うーん。目、、、やっぱり、変だよね、、。
柚子は車の助手席で、バックミラーと、
睨めっこをしていた。
「ズッチー、そんな鏡ばかり見て、
どーしたの?心配しなくても、かわいーよ」
運転席に乗ったマコトがハンドルを握りながら、
ズッチーを茶化してくる。
柚子は、車に乗ってから、ずっと
バックミラーで自分の目を気にしていた。
何故、そんな事をしているかと言えば、
彼女の目が、赤い色をしているからである。
とは言っても、柚子の目は、
産まれてからずっと、
赤色をしていたというわけでもないし、
また、砂埃などによる
充血が原因といったわけでも無い。
どうやら、あの時、、、
あのサルのバケモノの
針で身体を貫かれてから、
柚子の目の色が、
変わってしまったらしい。
(こんな色で、変に目立ってしまったら、
どうしよう、、、。)
柚子は、自分の目の色が原因で、
厄介事に巻き込まれる気がしてならなかった。
結局、あの後、柚子は、
軍に戻ることを選んだ。
それもそうだ。
柚子に一人で生きていく力なんて無いし、
マコトについて行くのは不安すぎた。
以外だったのは、
マコトも、柚子について、
基地に戻る選択をしたことだった。
つまりは、最初の目的地である
C-E97基地に向かっている途中であった。
幸いなことに、二人が乗っていた
車が無事であったため、マコトの運転で
向かうことにした。
出発時と比べると、助手席のシートは、
車の揺れを軽減してくれるらしく、
柚子は、悪い気はしていない。
ただ、相変わらず、
後部座席に乗せた数名の負傷者は、
辛い時間を過ごしているのだと思う。
柚子達は、あの時、
横転した車に乗っていた負傷者達を手当てして、
後ろの荷台に乗せていた。
「感染すると目に症状が出やすいんだよー」
マコトが能天気に話しかけてくる。
目の心配もあるが、柚子には、
もっと大きな心配があった。
(これから先、どうしよう。)
今回の化物による襲撃。
ほとんど全滅した小隊。
それを一人で撃退したマコト。
柚子には、これらを軍にどう説明したら
いいのかわからなかった。
「あいつに襲われて、
非戦闘員のマコト達は、
隠れていたことにしよーよ」
・・・なんて楽天的に言っているマコト。
そんな言い訳が通るのだろうか?
そして、マコト、彼女は何者なのだろうか?
色々と考えなきゃいけないことはあるが、
あまりにも色々ありすぎて、
柚子のまぶたは次第に重くなっていった。
・・・・・・・・
・・・・「・・ず・・ゆず、ねー、柚子!」
「あ、あれ?、マコト?・・・」
「ズッチーひどいんだー、自分だけ寝て」
「ご、ごめん・・」
どうやら柚子はいつのまにか寝ていたらしい。
「もうそろそろつくよー」
マコトにそういわれて前を見ると、
道がなんとなく舗装され、
その先に、少し高い建築物が見えた。
もとは、学校であっただろうか、
その建物は、4階ほどの高さで、
柚子がいた街にあった本部よりも
少し、立派に見えた。
道を進むにつれて、
ちらほらとテントや、
もともと家があったであろう跡、
車や、残されたガレキが道の横に並び、
人が暮らしている気配を感じた。
そして、その建物の門まで来ると・・・
「とまれ!どこから来た?」
門にある見張り小屋から、兵士が出てきて
車に乗った柚子達に銃を突き付けてきた。
「はい!C-NE42および、43方面から、
伝令を受けて来ました。
詳細は聞かされていません」
マコトがびっくりするほど、
冷静に、的確にそう答えた。
それを聞いた門兵は、
車両のナンバーを確認し、
手元の資料と柚子達の顔を見比べている。
「報告では、車両3台、
20名と聞かされているぞ」
「途中、未確認のイブに襲われ、
隊は全滅、非戦闘員の私達と、
負傷者数名をのせ、離脱しました。」
「ぜ、全滅!?」
門兵は、急いで、車両の後部荷台を確認し、
荷台の中で、うずくまる負傷者を見た後に、
青ざめた顔で、見張り小屋の中に戻り、
無線で、どこかに連絡をし始めた。
そして、門兵は柚子達の前に戻って来て。
「二名は、そこの見張り小屋の中で待機、
負傷者は私達が引き受ける。」
そう言った彼は、
基地の中から出てきた仲間に、
負傷者を運びこませ、
柚子達を小屋に押し込めた。
小屋の中には、柚子達の見張りとして、
小銃を持った数名が立っており、
柚子達に、座ってここで待つように伝えた。
中には、ピリピリした空気が漂っていた。
そんな空気の中で、
パイプ椅子に座らされた柚子は、
ひどく不安におそわれていた。
一方で、マコトは呑気に、
水いただけませんか?
とか言っている。
会話が禁止されているのであろうか、
見張りの兵士は、一言も話さず、
眼を合わせようともせず、
柚子達が怪しいことをしないか、
ひたすら、監視している。
あまりの緊張感に、柚子は、
針で刺されたような気分になった。
気づけば、マコトは隣で、
座ったまま寝ていた。
車で寝てしまったせいで、
寝れない自分と、柚子を置いて、
寝てしまったマコトを恨みつつ、
でも、私にはこの空気で寝る度胸は無いよ、
なんて思いつつ、気づけば、
柚子も寝ていた。
ふと、柚子が起きて、壁の時計を見ると、
午後16時。3時間はたっていた。
周りを見ると、見張りの兵士が、
怪訝そうにこちらを見ていた。
起こされたり、怒られたりしないのを
柚子が不思議に思っていると、
部屋に、一人の男が入ってきた。
その男は、身長が高く、
いかにも軽薄そうだけど、
不思議と、油断ならない見た目をしていた。
「いやー、ごめんねー。怖かったでしょう?
ほら、君達も、そんな顔で、
彼女らを見ないで、
怖がっちゃ失礼だよ。」
「しっ、しかし、議会!」
「いいの、いいの、彼女らは大丈夫。
さあ、でてった、出てった」
見張りの兵士達は、
強引に部屋を追い出された。
そうして、部屋には、男と
柚子達3人になった。
いつの間にか、マコトも起きている。
「さて、先ずは、お礼をしないとね。
負傷した隊員をここまで、
運んでくれてありがとう。
僕は、この街の代表を務めている
二等議会の”黒鉄 唄”だ。
みんなからは気軽に”うたさん”と呼んでほしい。
さて、お二人さんは?」
「マコトだよーよろしくねーうたさん」
マコトには恐れるものはないのかなんて、
柚子が思っていると。
黒鉄議会が柚子をみて微笑んでいる。
「ゆ、、156983番 柚子です。」
「なるほど、よろしくね。二人とも。
先ずは、何が起こったのか、
聞かせてくれないか?」
どうしよう。なんて説明したら。
柚子が、何も言えずに下を向いていると。
「マコト達がね、車にのって移動していたら、
車が急にころがって、
あわてて外に出てみたら、
イブと隊員が戦っていたんだよ。
マコトは、戦えないから、車の陰で、
負傷者の手当てをしていて、
静かになってから周りを見たら、
みんな死んじゃった」
マコトが白々しく嘘をついた。
そんな話が通るわけがない。
あまりにも不自然だし、不可解すぎる。
「なるほどね。話は分かった。
おおむね、僕が聞いた通りだ。
君達が無事でよかった。
ところで、
先ほど帰還した捜索隊の報告によれば、
絶命した首のないイブの死骸が1つ、
見つかったらしい。
それについても説明してくれないか?」
「・・・それはねー、
ズッチーがやった!」
マコトが柚子を指さしてそう言った。