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わかりきっていた結末



  「、、あ、ハァ!、あぅ」



  柚子は衝撃で息が出来なかった。

  身体の奥にある空気が全て吐き出された感覚だ。



  横転した車内では、人間が無造作に積み重なり、

 全員が呻き声をあげていた。




  「いててて、、、ズッチーだいじょーぶ?」



  人の山からマコトが這い出て来る。



  横に座っていた人がクッションになったのか、

 余裕そうな雰囲気は、どこか愉しげでもある。




  「う、、うん、」



  柚子は何とか呼吸を落ち着かせ、応えた。



  どうやら柚子も、周囲の人がクッションになり、

 大事には至らなかったようだ。




  「とりあえず外、出てみよう」



  マコトがそう言っている間にも、

 銃声は鳴り止まない。



  荷台の外からは


  『ダダダダダダン』

  『ガガガガガガン』



  といった銃声に混じって、

 男の人の怒声と叫び声が聞こえる。



  マコトの誘いに柚子は答えることができない。



  柚子には外の状況は分からないが、

 一つ言えることは、外に出たら死んでしまうこと。



  荷台の外では、化け物との戦闘が始まっており、

 外に出るとは、それに巻き込まれること。



  それがどんな結末になるかは、

 自分が一番分かっていた。



  しかし、柚子は、自分が何をすべきか、

 何ができるかは、全く分からなかった。




  「あ、、ぁ、いや、」



  歯切れの悪い曖昧な返事しかできない。



  柚子は、自分がパニックになっているのを

 自分で分かっていた。



  そして、、、柚子は、、、



  動転して、何もできない自分を、後ろから見ている。



  自分の姿を他人の視点から見ているような、

 そんな冷静な自分を不思議と感じ取っていた。





  「はやく!はやく!」



  マコトは、そんな柚子をお構い無しに、

 柚子の手を引き、車外に引っ張り出した。



  薄暗い荷台から外に出る瞬間。



  柚子はさっきまでの怒声や銃声が、

 妙に静かになっているのを感じとった。



  手を引かれ、外に出てみると

 そこは、道を外れた荒れた野であった。



  どうやら、道を外れて、

 1mも無い低い土手を滑り落ちたのが、

 事故の原因らしい。



  数十m向こうの道には、

 柚子が乗っていたような車が2台止まり、

 近い方の車は燃えており、

 少し遠い方の車は煙をだしている。



  不気味なほどに静かであった。




  「ズッチー!行ってみよう!ね!」


  「いたっ、!...」



  マコトは目をキラキラさせながら、

 痛がる柚子の手を引く。



  柚子よりも歳下で、小柄で細い身体から

 信じられない強さで手を引かれた。



  2人が燃えている車に近づくと、

 夏場の魚、錆た鉄、不快な煙、

 ガソリン、焦げついた脂の匂い、そして



  強烈な獣臭が鼻を刺した。




  「うっ、、っ!」


  「うぇーっ、くさーい」

  


  柚子は思わず反対の手で鼻を塞ぐが、

 同時に何処か懐かしい匂いでもあった。



  そして柚子はすぐに匂いの正体に気づく。



  車の影に散乱する()()()()()

  べっとりとした黒い血塊

  無造作に投げ出された小銃の硝煙

  

  ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


  荷台の僅かなスキマからは、焦げた黒い棒が、

 助けを求めるように伸びている。




  「あっ、おぅぇ、あぁ、、う、げぇ、ぅぅ」



  柚子は堪らず吐き出してしまう。



  車の中で、あんなに我慢した意味もなく、

 今朝食べた物と、胃酸を全て吐き出した。



  我慢していたモノを吐き出した柚子は

 逆に、少し冷静になれた。



  気づくと、柚子の隣にいたマコトがいない。



  マコトは、柚子から2.3歩離れた場所をぐるぐる

 歩き何かを探している。



  柚子は、そんなマコトを見て。



  「い、生きている人は!?

 だっ、だれか、、だれか」



  なぜかマコトに聞いてしまった。



  「うーん、あっち?とか?」



  マコトはそう言って遠くの

 煙を出している車を指差した。



  よく見れば、

 そのトラックの荷台は閉まっているが、

 中から人の気配がする。



  そのトラックは柚子の乗っていたモノよりも、

 少し大きく、軽トラックの荷台に無理矢理、薄い鉄板を

 貼り付けたモノとは違い、

 しっかりとした貨物室を後部に備えていた。



  柚子のいた街に、

 食料や武器を運んでくる大きなトラックと、

 ほとんど同じモノであった。



  ふと見ると、

 マコトがその車に向かって歩き出している。



  柚子は底知れない恐怖を感じたが、

 こんな場所に1人残されたくは無いと、

 恐る恐る、マコトの背後を歩く。



  そうしてトラックの荷台についた時に、

 柚子はひどく後悔した。



  先程からの酷い獣臭が、

 この中から匂って来るからであった。



  しかも、中からは、



  『グチャ、ニチャ、バリ、ブチっ』


  と不快な音までする。



  どう考えても開ける気にはならなかった。



  しかし、中からは、

 不快な音に混じり微かに、


  『あっ、、い、、、あ、ァ、ァ、げで、』


  と人の声がする。



  柚子は耳を塞いで下を向き、

 目を瞑りたい気分になった。



  柚子は願った。



  マコトが、この扉を開けないことを。

  中のヒトがそのまま死んでくれることを。

  何事もなく時間が過ぎることを。



  しかし。




  『『『ズダン!!』』』



  そんな音が聞こえた気がする。



  あまりにも一瞬すぎて、確かでは無い。



  でも、何となく音がする前に

 マコトが「あっ、」と言った気もした。



  音がする前か、した後かは分からないが、

 柚子は、とてつもない強い力で、マコトの前に

 身体を引っ張られた。



  そして、


  『ブシュ、グヂャ』



  と嫌な音が自分から響いた。



  柚子は身体に力が入らなく、

 恐る恐る自分の身体を見る。



  黒いナニカ、トゲのようなモノが、

 腹や胸に突き刺さっていた。



  刺さった場所が熱いのに、冷たく感じ

 赤いシミが服に広がった。



  柚子は理解した。



  私はマコトに盾にされたのだと。

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