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彼女の出会い

  「柚子おねーちゃんは、どこから来たの?」



  グイグイとマコトが顔を近づけてくる。



  柚子に逃げ場はない。



  そもそも、

 反対方向を見て無視する勇気があるならば、

 苦労はしていない。



  「わ、わたしは、C-NE42番地から、、です」



  柚子より、明らかに2〜3つ歳下であろう

 相手に、敬語になってしまう。



  「C-NE42!マコトはねー43だよ!

  すごい!となり!」



  柚子にとっては何が[すごい]のか分からない。



  「たまたま会ったのに

 隣りなんて、運命感じるね!へへーラッキー」



  にこやかに、

 小さいピースをしてくるマコト。



  依然、柚子には何が[ラッキー]

 なのかわからない。




  「周りが男の子ばかりだから、不安だったんだー。

 ズッチーに会えてよかったー!」



  「あ、ありがとうございます、、、」



  柚子は何と返すべきか分からない。

 なんとなく、

 見当違いな返事をしてしまった気がする。



  それよりも[ズッチー]、、、。

 もしかしなくとも、私のことだろうか、、、。



  柚子は、目の前の不思議生物が、

 外で徘徊している化け物のように、

 理解出来なかった。



  とはいっても、

 柚子は本当に化け物を見たことは無い。



  確かにソイツらは存在しているらしい。



  何度か、、、

 あそこの街が滅んだ。

 あの森で化け物を見た。



  なんて話しを聞いたくらいで、

 実物を見たことはない。



  一応、施設の授業で銃の取り扱いと、

 化け物について学んだが、、、。

 写真を見てもどこか作り物のように感じられた。



  自分でもこんな可愛い子を、

 化け物のように感じてしまうのは、

 非常に失礼だなと思いながらも。



  マコトの存在は柚子の理解の外にいた。



  なんて長々と考えていると、、、。



  マコトが、柚子の瞳をキラキラとした目で、

 覗き込んでいた。



  「きれー、ズッチー、目!きれいだね!」



  「いや、あ、あいや、ありがとう、、ございます」



  少し変な感じになってしまったが、

 見当違いな返事では無いだけマシである。




  「マコトね!キレイな目の人すき!」



  なんて言って、擦り寄ってくる。



  懐いた犬のようなイメージである。

 嬉しそうに振った尻尾が見えるようである。

 


  そんなマコトの押しの強さに思わず、、、。



  「め、目なんて、そんな、周りからもよく

 気持ち悪いって言われます、、し、」



  なんに対する言い訳だろうか、

 柚子は自分で言っていて訳が分からなくなる。



  「ううん、きれー、だよ、柚子の目、()()()()()()()()



  柚子は、そんなマコトに何故か、

 底知れぬ恐怖を覚えた。



  柚子は、マコトから目を逸らすように、

 周囲を見る。



  よく周りを見れば、

 たしかに、車に乗っている8人のうち、

 6人は男。

 全員が小汚い軍服を着ていて、

 歳は16歳から20歳前半くらいに思われた。



  軍服を着ていないのは2人だけ。

 柚子とマコト。



  柚子は、施設から出てきた時に、

 持ってきたパーカーを着ている。

 下はなんて名前か分からないが、

 タボっとしていて丈の長い男性用のズボン。



  一方でマコトもパーカーを着ていた。

 下に履いているものも似ている。



  柚子は、自分の首を少しでも隠せる

 パーカーが、お気に入りであった。

 それに、フードをかぶれば頭も隠せる。



  柚子は、こんなにも性格が違うマコトが、

 自分と同じ服装をしていることに、

 変な違和感を感じた。



  しかし、よく考えて、

 マコトも施設にいたと思えば、

 物資が不足している中で、

 孤児のタダ飯ぐらいに与えられる衣類は、

 どこも同じようなものであろう。



  柚子は勝手に納得した。



  じゃあ、この6人の男はなんなんだろう?



  柚子は急な不安に襲われた。



  そんな不安を感じ取ったのか。



  「この車はね、C-E97に行くらしいよ!

 マコトが乗ったときにも既に6人乗っていて、、、」



  マコトが柚子にそう説明している時に。



  「チっ、、、」



  どこからともない舌打ちが聞こえ、

 険悪な雰囲気が漂う。



  「へへ、怒られちゃった、」



  舌を出して能天気なマコトが、

 小声で話しかけてくる。



  柚子の気分は最悪であった。



  目立たないよう。

 目立たないように生きてきたのに、

 どうやら、目をつけられてしまったようだ。



  柚子は背筋が凍りつくのを感じた。



  「なんかね、

 C-E97で大きな戦いがあって人が減っちゃったらしいよ。

 大人が話していたのを聞いたんだ―」



  小声でマコトが話す。



  柚子はそれを聞いてさらに憂鬱になった。



  C-E97。



  Cは10年前に札幌があった場所を示す。

 そこから東に97。


  後ろの数字は、直接の距離では無いが、

 数字が増えるほど、

 中央から遠いことは間違いない。



  97なんて、

 生活保護区の端の端。



  壁一枚隔てて、ヤツらとご近所さんである。



  つまりは、かなりの前線。



  柚子は、自分がそんな極地に送られることに、

 納得がいかなかった。



  戦えない役立たずの自分が、

 そんな場所に行って何ができるのか、

 まったく分からなかったからだ。



  しかも、最近、[人が減った]らしい。



  つまりは、そう、である。

 この場合減ったは、そのまま死んだ。

 ヤツらの腹の中か、最悪の病気か。



  どちらにしろロクなものではない。



  施設の授業で聞いた、

 [鉱山に連れて行かれるカナリアの話し]

 を思い出した柚子。



  役立たずである自分の最後の役割が、

 それに思えるようで仕方がなかった。



  もっとテストで良い点を取るべきだったか。

 挽回すべく農作業に精を出すべきだったか。

 探索作業で貴金属をたくさん見つけるべきだったか。



  柚子には分からないが、

 後の祭りであるし、

 思っただけで、行動はできないだろう。



  そう簡単に変われるのであれば、

 そもそも落ちこぼれない。



  柚子は最悪の気分の中で、

 真横の不思議生物に、

 再び違和感を感じた。



  「な、、なんでマコトさんはC-E97に呼ばれぇ...」

    『キッキキー!バン!!!』



  柚子が言い終わらないうちに、

 一瞬のブレーキ音と、

 前方に放り出される浮遊感。



  驚く暇なく、

 何をできるわけもなく、

 全身が凄まじい力で、

 外に引っ張られる。


  上も下も分からなくなった時に。



  『スダン!!ガン!ガラシャン!!』


  と音がして車が止まった。



  全身が痛い。

 耳がキーンと鳴っている。

 目はパチパチして視界が霞む。



  どっちが上かも分からない。



  ただ、分かったのは、、、

 どうやら、車が横転したらしい。



  「敵襲!!!3時方向!!!」



  外から遠く音が聞こえる。



  同時に凄まじい銃撃音。



  横転した車内で、柚子は理解した。



  化け物が来て、私は死ぬのだと。

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