10年
柚子が助けられてから。
広いテントの中で、
シートの上に寝かされる日々。
周りにはたくさんの人が寝ていて、
共通しているのは、
死んだような目をしていること。
あとは、啜り泣く声や、
嗚咽、悲鳴、
怒鳴り散らす声。
たまに、銃声と酷い悲鳴が聞こえた。
毎日、医者のような人が来ては、
何かを言っていた気がする。
それからしばらくして、
柚子は歩けるほどになった。
テントを出て最初に目に入ったのは、、、
ガレキの山とたくさんのテント。
どうやら、柚子が寝かされていた
テントは一つだけではなく、
同じようなものがたくさんあるらしい。
そして、どれにも人が寝かされていた。
すぐに銃を持った大人がやって来て、
柚子や、たくさんの子供達を集め、
トラックに押し込んだ。
何を考える気にもならなかった柚子は、
されるがままに、
トラックの荷台に押し込まれた。
中には柚子くらいから、
少し、お姉さんお兄さんな子供が
たくさん乗っていて。
みんな泣くか、
一言も話さずにいた。
扉がしまり、荷台は真っ暗になった。
エンジンの音が響く。
不安と酷い揺れが漂うなかで、
トラックは走り出している。
最初は泣き出していた子も、
次第に泣き止み、
力無く寝てしまっていた。
寝た子は幸運であった
あまりに酷い揺れに、
吐き出してしまう子供もいて、
トラックの中は最悪だった。
柚子は悪臭の中で下をみていた。
自分が死ぬことばかり考えていた。
数時間後に車がとまり、
トラックの荷台が開く。
ついた先は、見知らぬ土地。
どこもガレキの山。
その中で、壊れずに、
なんとか残されている
何かの施設の中で、
暮らすように言われた。
その施設では最初に起きたことを聞かされた。
柚子は聞く気にもなれなかったが、
どうやら、、、
・生物兵器とやらが北海道に使われたこと。
・その後、すぐに大きな戦争が起きて3日もしないうちに世界がダメになったこと。
・世界中で酷い病気が蔓延していること。
・街の外には化け物が徘徊していること。
・安全な場所はここしかなくて、外の国は全て無くなったこと。
・残された人で力を合わせて生きること。
6歳になったばかりの柚子には、
難しい話しであったが、
何となく、
世界が終わってしまったことは理解した。
そして、
最初の施設にいたのは数ヶ月ほど。
それからいくつかの施設を転々とした
ただ、何処の施設でも、
やることは変わらなかった。
寝て、起きて、食べて、
学んで、仕事をして、また寝る。
何を学んだかと言えば、
算数や理科、社会や国語、
銃の扱いである。
仕事は主に畑を耕したり、
野菜についた泥を落としたりしていた。
柚子は、そんな生活の中で、
下ばかり見てぼーと生きてきた。
12歳になった頃に、
何かのテストを受けさせられた。
何の意味があったのかはわからないが、
どうやら柚子は、
役立たずであったみたいだ。
施設で目立つ子や、
頭の良い子、
力の強い子、
足の速い子は皆んな、
何処かにつれて行かれた。
柚子は、
何処にも連れて行かれず残された。
残されてからはずっと、
農作業やガレキの山から使えそうな、
ゴミを探す作業ばかりしている。
柚子には、それがあっていた。
何も考えず。
何も思わず。
死にたく無いから生きる。
面倒な事があっても、
いつも下を見て謝り、
時が過ぎるのを待つ。
柚子の処世術である。
いつも通りの毎日。
たくさんの時間が流れた。
ただし、
あの最悪記念日から10年たった、
今日は違っていた。
その日、柚子は、
東のガレキから使えそうなゴミを探す予定であった。
特に鉄や貴金属は重宝される。
朝にクズ野菜のスープを飲んだ後に、
探索の準備をしていると、
大声で呼ばれた。
「156983番 柚子!」
「156983番 柚子!」
「至急、本部まで来い!」
柚子はドキっとした。
本部に呼ばれるような、
覚えは無かったからだ。
柚子は急ぎ足で施設から本部に向かった。
柚子の暮らす施設がある。
街の隅とは違い、
10年の復興で街の中心は、
なんとか形にはなっていた。
テントだけではなく、
それなりの簡易住居や、
建物がならぶ。
柚子は一際立派な、
本部と呼ばれる建物に入り、
慌ただしく働いている受付けの大人に、
「156983番 柚子 到着しました」
と力無く声をかけた。
受付けの大人に柚子の声が聞こえていたか、
聞こえていないかは、わからないが、
その大人は、
「156983番 柚子 確認しました。
生存保護区開拓のため異動辞令が出ています
今から1時間後の9:00に移送車が到着します
異動の準備をお願いします」
と言い放った。
柚子は驚いた。
異動なんて数年ぶりである。
テストで役立たずだった自分は、
この街の農作業とガレキ探索で人生を終えると、
思っていたからだ。
とりあえず柚子は、
「はい、承りました」
と自分でも正解かわからない返答を返した。
「では、9:00までに準備をお願いします
荷物はリュック1つ分まで認められます
準備ができましたら本部前にお越しください」
「はい、、」
返事をして本部を出たが、
柚子は困ってしまった。
「(準備するものも無い、、、)」
なんせ6歳のあの日から、
10年間、孤児になって施設で暮らす柚子には、
自分の物と言えるモノが何も無かった。
毛布の1枚から、カップまで、
どれをとっても施設からの借り物であり、
自分のモノと言えるようなものは無かったからだ。
とはいえ、裸で施設を出るわけにも行かないので、
個人に支給されている、
数枚の服や下着、歯ブラシなどを、
リュックに詰めた。
1時間後、本部に、
薄い鉄板を荷台に取り付けた、
軽トラックがやってきて。
番号と名前を呼ばれ。
柚子はトラックに積み込まれた。
荷台は薄暗く、
目が慣れない柚子は中の状況が掴めない。
そんなうちにトラックは走り出し、
柚子は薄い狭い荷台で自分のスペースを見つけ、
体育座りでジッとするしか無かった。
暗くて周りも見えなく、
いつもの癖もあって、
下を見ているうちにトラックの酷い揺れで。
柚子は簡単に酔ってしまうのであった。