表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

除霊師(禿)はファ○リーズが命綱

作者: 宇宙人

 私、除霊師の恐山おそれざん康平こうへいと申します。


 自慢ではないですが結構な有名人ですよ。


 テレビ番組で以前、 怪異! 河童男の除霊! 〜つるっぱげオヤジは一流除霊師!〜 というのに参加させてもらいまして、放映日の翌日からSNSアカウントのフォロワーが2桁から一晩で5桁に増えましたからね。


 私がこう、「ふんぬぅ〜!」 と気合を入れると私の顔から頭の先まで真っ赤に染まるものですから、収録のスタッフさんもアイドルの女の子も大笑いしとりましたねえ。


 はてさて、自己紹介はそんなところで。

 今日は私、皆様にお伝えしたいことがあったんです。


 私、一流除霊師なんて呼ばれてるつるっぱげオヤジなんですけれど。

 霊感なんてないんです。はい。私の頭の毛根ほどもない。

 剃髪じゃないんでね。お念仏も唱えられませんし、仏門修行なんかしたこともないただのハゲオヤジなんですよ。


 じゃあ、そんな私がなぜ今までやって来れたかと言いますと。

 このファ○リーズのおかげなんですね。

 あ、これCMとかじゃないですよ。


 ファ○リーズが心霊現象に効くと言う話は昔からありましたけども、これ、特にハゲオヤジが持つと効果抜群らしいんですね。

 ほら私以外にも、この業界の人間ってハゲてる人多いでしょ? え、そりゃ剃ってるだけ? ……ふふふ、実はそうじゃないんですね。


 木を隠すなら林の中、ハゲを隠すならハゲの中。

 仏門修行のために頭を丸めてらっしゃるお坊さん方にまじって、私達のように毛根と引き換えに除霊パワーを授かった人らがおるんですよ。正直いらんかったけどね。毛根の方が欲しいですけどね。


 この除霊パワーというやつと霊感は関係ないんで、私みたく霊感ないけど除霊パワーの源だけ持ってるゆう人はそこそこおるんです。


 で、私の場合はそこにファ○リーズですよ。

 私のようなハゲオヤジの加齢臭を隠してくれる優しいファ○リーズさんをですね、両手に持ってしゅーっと、やるんです。

 そうするとね、部屋の中の嫌な感じがすーーっとおちついていくんです。


 さっき言った通り私には霊感ないんでね、他の専門家に聞かなきゃわかんないんですが、どうやらそれで悪い霊とかが去ってるらしいんですわ。


 だからね、私の除霊方法はファ○リーズ一本。古い民家とかに呼ばれて、壁の黒い染みが人型だなー、やだなー、とか思いながらファ○リーズをプシュー、としたりね、なんかよくわからない日本人形とか持ってこられて、手も触れてないのに首がカクカクするのをやだなー、気持ち悪いなー、とか思いながらファ○リーズをシュッシュするわけですよ。


 そんなやり方だからね、まあ困る時は困るんです。


 電車が1日に一本しかない土地に行かされて、やれ村の祭具殿やら地下室やらなんやら除霊してまわったときにゃあね、ファ○リーズがなくなりそうになったんです。


 ああ、持ってきた量が足りなかったとかじゃないです。


 商売道具ですからね、詰め替えをキャリーケースに山ほど詰めとったんですよ。私の頭にもこれくらい毛根が密集してたらなー、とか思うくらいみっちり詰めましたとも。


 でもね、現地でそのキャリーケース開けたらね、半分くらい穴が開いとったんです。

 ハゲオヤジのことだから運び方が雑だったんだろうって?

 いやいや、オヤジの繊細さを舐めちゃいけんです。髪の毛一本抜けるたびに生え際確認しますからね。超繊細ですとも。


 で、流石にこりゃあおかしいなあと思ってキャリーケースに仕込んだ隠しカメラの映像を後で覗いたんですわ。

 そうすると、クライアントの娘さんが映像に映っててね。もう麻薬の常習者か、ってくらい胡乱な瞳と垂れた舌、あと、気持ち悪いくらい痙攣する上半身。

 大きな胸もぶるぶる震えとりましたけど、あの映像で興奮できるのは上級者だけでしょうねえ。


 ま、それはとにかく。その娘さんが持ってた鎌をこう、振り下ろしてね、私のファ○リーズの袋に穴が空いて行くわけです。


 その映像をクライアントの村長さんに見せたら、まあ青い顔しちゃって。


 あー、そういや、今回の依頼は村のどこかにいるかもしれない狐付きの除霊だったと思い出したんですけど、その頃には私、簀巻きにされた娘さんと二人で狭い部屋に閉じ込められとりました。


 いやね、村に代々伝わる方法でまず閉じ込めるから、って説明だけ受けとったんですけどね。なんでか最後、娘さん抱えるの手伝えいうて、運ばされたと思ったら、そのまま扉バターン、ですよ。

 

 たぶんね、余所者の生贄とかが必要な儀式だったんじゃないでしょうかね。まあ、よくわかっとらんのですけど。


 でね、私、そのまま部屋に閉じ込められてから今日で3日目なんでございます。


 あ、娘さんについては残り少なかったですけど、ファ○リーズありましたからね、そのおかげで無事狐は祓えたんですよ。

 でもね、私がいくら扉を叩いても、娘さんが大声で父親を呼んでも、だあれも扉を開けてくれんのです。


 でね、人って水を飲まないと3日で死ぬんですって。


 そんでもってファ○リーズってね、飲んじゃいけない毒なんですけどね、水が主成分なので、本当に命の危機になったら飲みたくなってくるんですね。


 そしてね、流石に娘さんに先に飲ますわけにはいかんからと私が最初に飲んだんです、ファ○リーズ。


 いやあ、すごいことになりましたね。

 ハゲオヤジの使うファ○リーズは霊を祓う、というより吹っ飛ばす効果があったらしいんですけど、それで死にかけの私の魂を吹っ飛ばしちゃいましてね。


 はい、今それでこのように、魂だけの状態であなた方に呼びかけができてるんですね。


 この村に誰かが今日中に着くのは無理だと思います。

 でもね、ハゲオヤジとはいえ人間であった私の体には水が蓄えられてますからね、きっと娘さんはまだ生きていられると思うんですわ。


 だからお願いします。

 これを聞いているあなた、どうか助けに来てください。


 ファ○リーズが繋いだこの命の綱を、どうか無駄にしないでくださいませ。


 どうかお願いします。


 恐山 康へ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ