第4話 王太子の思い
「バーデ魔導士…人狼とは何か分かっているのか…?」
「ええ、可愛らしかったですよ?今のところ憔悴しきって害はないので私の部屋から続いてる使用人室に置いています」
「…その使用人たちは大丈夫なのか?人狼は狂暴で悪魔のようだと言うではないか…」
王太子殿下は少々心配性な面があるようだ。先程からのうろたえが凄い。まだそういったところは幼いのかもしれない。私は彼を少し可愛いと思ってしまう。
「大丈夫ですよ、多分あと2・3日は起きないでしょうね…。ちょっと…オトシチャッタノデ?」
「…バーデ魔導士らしいな。」
「あははっ、殿下お顔が引きつってますよ?」
私が目じりにたまった涙をぬぐったその時、その部屋のドアがノックされた。
「バーデ魔導士、そろそろ全員への魔法付与を…」
「分かりました!では殿下、休むことも大切ですよ?」
「分かっている。」
殿下は書類に目を戻し、私にひらひらと手を振って追い出した。私が休むよう言うと殿下はいつもうるさいおばちゃんを追い払うような態度をする。それが少し不服だったがしょうがないので私は部屋をでた。
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ハウト王国の王太子であるハーマン・ヒュー・フライアーはオレンジ色の髪をぐしゃぐしゃをかいた。書類に集中できない。彼は、その苛立ちからか眼鏡を外し会議室の長いテーブルを拳で殴りつける。手加減をしたので痛くはないが、その制御がまた新たな苛立ちの芽を生ませた。
人狼を拾うなど…バーデ魔導士はどうかしている…危険すぎる。制御アイテムを付けたと言っても人狼は人狼だ…
人狼というものは、領地も大きく強大な軍事力も誇るハウト王国が存在するはるか前、太古から存在した一族であっ。ハウト王国もかなり古い歴史を持つが彼らの一族はその前から続いている者たちだ。人間として動いている間も、人間離れした身体能力を持ち脅威とも言える存在である。彼女はそれをペットと呼んだ。
…アレクシア・シェリー・バーデ
彼女はこの国一の秀才と呼ばれる。それと対になるように義妹のベッキー・マティーニ・バーデはこの国一の天才と呼ばれた。秀才と天才、どちらも優れたものを指す言葉ではあったが違うものを指す違う言葉だ。
ベッキー・マティーニ・バーデは、この国にいるどの聖女よりも光の魔力が強かった。そんな彼女は開国以来の力を持ち、重宝されてきた。しかし、その魔力は本人どうこうで手に入れたものでは無い。生まれた頃から彼女の手に握られていた力なのだ。だから、彼女は天才聖女なのである。土地を浄化するごとに寄せられる民衆からの感謝と信仰の念は彼女に直接向けられていた。この国が信仰する神の子として、神がこの国に使わせた愛し子とされる聖女という役職は、身分を問うものでも本人の素質もそこまで問うものでは無かった。国の重役が、選別した土地を聖女に浄化してもらう。これが今の聖女の形だ。彼女らは実質、浄化するだけのものと化している。本人たちもそれで納得し、そこから何をしようなどという考えを持たない。
そして、アレクシア…彼女は光の魔力を持たない。彼女の魔力上限からしてそれを持っていたら他の聖女など目も当てられないほどの大きな力を手にしただろう。彼女は天才ではない。力を使い、工夫し、努力し、何度も失敗しては成功への打開策を練り、そうやって彼女は様々な事を成してきた。私が、彼女に出会ったのは彼女が大魔導士と呼ばれる前の事だ。
その日、私は魔学を抜け出し騎士たちの演習場へ向かっていた。私は王太子としての教育を受けつつ、指の先からほんの少し炎が出るだけで魔学というまた違う教育を受けさせられていた。私の力はマッチほどにしか役立たないだろう。その日も授業を抜け出していた私は魔同士の塔の前でコソコソとした人影を見つけた。明らかに不審なそれに「おい」と声をかけてやろうとした時の事だった。
―ドォォォン
凄い地響きと、明らかにまずい音がした。




