ACT.3
「ははははっ! よーし……それじゃ」
少しの間、一人で大喜びした後、クロニカは聖異物に手を伸ばす。
「コレを持ってさっさと帰るか!」
だが兜型の聖異物を掴んだ瞬間、四角い玉座から眩い光が放たれる。
「……あっ」
『ヴ、ヴヴ……ヴーン!』
眩い光は聖異物に向かって収束し、白い兜はガタガタと震えだす。
「し、しまった! オレとしたことが、つい舞い上がって……!!」
『ヴ、ヴ、ヴヴーン!!』
「畜生、これも罠かぁ! クソッタレェー!!」
クロニカは咄嗟にコヨーテBを白い兜に向ける。浮かれていた先程までとは一転、彼の全身を再び緊張が支配する。やがてこの部屋全体が青い光を帯び、まるで遺跡そのものが生きているかのように振動した。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……
クロニカが聖異物に触れたのがトリガーになったのか、停止していた遺跡の機能が一斉に活性化する。外壁の透明化も解除され、人気のない荒野に巨大な遺跡が姿を現す。
「くそっ、くそぅっ! なんで触っちまったんだよ! オレの馬鹿、オレの馬鹿、オレの馬鹿ぁー!!」
『ヴ、ヴヴ、ヴヴィヴィッ……ヴィーン!!』
白い兜は暫く発光しながら不気味な音を鳴らし続けた後、ピタリと動きを止めた。
「……!」
『……』
白い兜の震えが止まると共に遺跡の揺れも収まり、部屋を包む青い光も収まっていく。
「と、止まった……?」
『ピギャ、ピガガガガガブガ、バング、ビガガガガー!!』
「うわぁあああああっ!?」
……が、事態が収まったと思った次の瞬間、白い兜は先程よりも意味不明で耳障りな怪音を鳴らしてガタガタと激しく振動する。
『ピガガッ、ピ……ヴヴィヴィ、ヴィルルルンー!』
「な、何なんだよ!? 何だよ、コイツは!?」
『ビ、ビビ……ビ……ッ、ヴゥン!』
「くそっ、もういい!」
クロニカはコヨーテBを白い兜に向けて発砲。
『ピガッ!?』
放たれた電磁弾は兜に命中し、四角い玉座から吹っ飛ばした。
『ビガーッ!!』
吹き飛んだ兜は壁にブチ当たって地面に落下し、クロニカの足元までゴロゴロと転がってきた。
『ビ……ビビ……』
「……!!」
『ヴンッ』
「うおおおっ!?」
すると白い兜の装甲が勢いよく展開し、顕になったバイザー状のパーツに青い瞳のような光が浮かび上がる。
『+++++++++++! ++++++++!!』
理解不能だった怪音から一変、白い兜は目尻に大粒の涙のようなものを浮かべながら今度は解読不能な言語で喋りだした。
『++++! ++++++++++++!』
「え、えっ!? しゃ、喋れるのか!?」
『++++! +++、++++! ++++++++……!!』
「ま、待て待て待て! 何を言ってるのかサッパリわからん! オレは古代語なんてわからないんだよ!!」
『+、+++++++++!? ++++++++++++!!』
「ああー、もう! 埒が明かねぇ! とりあえずコイツを静かに……」
ふと左腕の装置が目に入ったクロニカは背筋を凍らせる。
「……マジかよ」
装置の赤いランプが点滅している。
急いでパネルを表示すると、遺跡の外に設置した探知小刀から送られてきた情報が浮かび上がった。
「ふ、ふざけんなよ! 冗談だろ!?」
パネルに表示されるのは探知に引っかかった生物の情報。そして、遺跡内部を猛スピードで突き進む赤色の二重矢印だった。
「何で、何でこんな所にファンタズマが!?」
【ファンタズマ】……それはこの世界で最も危険な怪物。
古く神話の時代から存在し、エト族を始めとするあらゆる種族を無差別に襲撃してはその肉を貪り食う人類種の天敵だ。大きな獣に似た姿をしており、全ての個体が共通して鎧のような黒い身体と青い瞳を持つ。並大抵の武器では傷一つ付けられず、高ランクの探索者でさえ単独での戦闘は無謀とされている……
「ど、どうする……!? 一体、どうすれば……!!」
特にクロニカのような探索者ですらない遺跡荒らしにとっては、群れを成した死神にも等しい存在だ。クロニカが所持している武器ではとても対抗できない上に、彼の技術では攻撃を当てることすら難しい。
会敵すれば最後、為す術もなく捕食されてしまうだろう。
「どうしてこんな荒野のど真ん中に出てくるんだよ! 普通、ファンタズマはエトが多く住む郷や街を狙ってくるもんだろ!? しかも、遺跡の中に自分から入ってくるなんて……!!」
赤い二重矢印はドンドンこの部屋に近づいてくる。まるで最初からクロニカを狙っていたかのような勢いだ。
「い、いや……落ち着け! 冷静になれ、オレ! まずアイツにオレの居場所がわかるわけないじゃないか! こっちに向かってきているように見えるだけだ!!」
『+++、++++++!』
「とにかくあの化け物に見つかる前に脱出を……!!」
『++++? ++++++++??』
「何だよ、うるせーな!?」
『+++++++!』
何とかこの遺跡から脱出しようと躍起になるクロニカに白い兜は古代語で話しかけ続ける。どうやら彼とコンタクトを取ろうとしているようだ。
『+++++++? ++++++++?』
「さっきから何言ってるのか、サッパリわからねえよ! デウス語を喋れ、デウス語を!!」
『++、+++++++++++++……』
突然、白い兜は後頭部を大きく裂かせ、内部から先端が鋭く尖った細長いコードを伸ばす……
「……なっ!?」
────ドスッ
兜から伸びたコードが、驚くクロニカの額に突き刺さった。
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