【番外編】No Escape?
『再び謎の集団失踪事件!東京都の次は福島県で』
ちらっと付けたテレビでそんなことをやっていた。俺は別に興味は無いが一応当事者なので片手間に聴いていた。
テレビのコメンテーターが言う。
「いやこれは変な事件ですよ、ええほんと」
犯人が人間であるというかも怪しいところだろうよ。
キャスターが怪訝そうな顔をして言う。
「ええ···誘拐や失踪を担当される警視庁の警部である白河さんはこの事件がどういう方法で行われてると思われますか?」
白河と呼ばれた白髪の男が困惑気味に答える。
「さあ···UFOとかチュパカブラかなんかの仕業じゃないですかね···?」
ふざけ過ぎだ。
芸人のコメンテーターは今の言葉に妙に感心したらしい。
「それとも異世界にでも行ったんじゃないですか」
そう言って芸人は笑った。
芸人さん、そのとおりですよ。あなたが警視庁の警部になったらどうですかい?
ニュースにも飽き、俺はテレビを消した。
「今日も平和ってとこかなあ···」
俺はコーヒーを啜りながら誰彼に言うわけでもなくそう呟いた。
▼異世界組、松並と阿波野編
「種···どういうことなの?」
阿波野が白ローブを睨みながら言う。
「んー、簡単に言うとあなた方が種となる苗子を作るのですよ」
白ローブは睨みを気にもせず簡単に答えた。
「要するに僕らがセックスをして種馬とか種牛みたいに優秀な子孫を残すんでしょう?」
優秀というのは皮肉だ、と松並。
「優秀っていうか、肉付きが美味しそうってとこかな」
「美味しそうってどういうことよ···」
阿波野は憤りを感じてるようだ。
「怒らないでくださいよ、そのおかげで貴女は今生きているのですから」
なだめているのか、怒りを買ってるのかわからない。
「美味しそうって何で決めるのよ」
「そうですね···私は貧乏なんで食べたりはできませんが、まあ肉の締り具合だったり健康そうな雰囲気しかりですね」
要するにほぼ主観ってことかい?と松並。
「あ、そろそろ彼らを加工場に運びますよ」
「え、ちょっと!」
叫ぶ阿波野。
するとガラス部屋の内部で、彼らが出た扉とは逆の壁が開いた。床がベルトコンベアのように彼らを運んでいく。
松並はぼけーっとそれを眺めていた。阿波野は膝から崩れ落ちて嗚咽を漏らしていた。
「お別れが済んだところでさあ行きますよ」
白ローブが無神経に二人の手を引く。
松並は“おっと”と言いながら自分で歩くが、阿波野は腰が抜けて歩けなかった。
「あの私葬儀屋じゃないんでお別れに時間とれないんですけど」
と白ローブは阿波野に声をかける。
阿波野は声を絞り出す。
「さ、最低···」
一瞬静寂が辺りを包み込んだ。
「そりゃどうも」
そう言って白ローブはガラス部屋外の長い廊下を二人の手を引いて歩く。
「彼らはどうなるの?」
松並が白ローブに尋ねる。
「私もそんなに詳しくないです、でもまあ解体されていつかは肉になると思いますよ」
「つかそんな人肉って採算とれんの?」
「とれますよ、買うのが富裕層のお偉い方々だからね。利益率がとても高いそうですから」
上級国民か···と思う松並。
「儲かってる割にはこの建物ってずいぶん管理システムにお金を掛けてなさそうだけど」
「嫌なところ見てますね、あなたは」
白ローブが松並を睨んだ。
「見るでしょう、そりゃあ」
「まあ少し見ればこの工場のジリ貧さがわかってしまうというのも問題でしょうが」
そう言って白ローブは笑った。
「ねえ」
松並にはまだ質問があるようだ。
「はい?」
「あなたの給料はちゃんと出てるのかい?」
「出てる···かな。まあだんだん減ってますけどね」
白ローブは皮肉っぽく言った。
「あのさ、このままこの人肉加工会社の下請けやってても稼げないと僕思うんだけど」
「んまあ、そうでしょうね。だから何です?」
「人肉···いや人間って採算がとれるんでしょ?」
「人肉はそうです···でも人間単体で売ったら金になるかどうかはわかりません」
「採算が取れるかはまた別として···あなたが僕らを売ればいいんじゃないですか?」
白ローブはその意見を一笑に付す。
「いやいくらこの工場の管理が甘いと言っても、出入の管理くらいは徹底されていますよ。だから私が勝手に売ったり連れてったりはできません」
松並は白ローブを真っ直ぐに見据えて言った。
「じゃあ僕らが逃げればいい」
「え?」
白ローブの歩みが止まった。
「見たところ逃げる方法は結構ありそうだ、あなたなら逃げ方くらいわかるだろう?」
「え、まあ知ってはいますけど···」
白ローブが困惑している。
「じゃあ決まりだ、僕らは逃げることにする」
松並はいつになく真剣な顔になった。
「まあ勝手にしてください、私に迷惑がなければ」
「いや貴方にはむしろ好都合だ」
松並はフッと笑う。
「何故です?」
「あなたが我々を売りに出すからだ」
一呼吸おいて白ローブが言った。
「ほう、あなた方が逃げたら私があなた方を拾って、どこかに売り飛ばせばいいというわけですね···?」
白ローブはニヤッと笑った。
「おお、物分かりがいいね」
松並の顔が明るくなった。
阿波野は彼らが何を言ってるのかさっぱりわからなかった。
「わかりました。私は作戦を練ってからあなた方の元に再び訪れますから。今は部屋に入っててください」
と白ローブ。
「部屋?」
白ローブは再び営業スマイルに戻って言った。
「あの扉の先にあなた方『種』の飼育小屋があります」
重厚な扉だ···
その扉を見て阿波野はそう思った。
「この扉は鍵をさせば普通に開く仕組みとなっています」
白ローブが機械的に説明する。
「ふーん、内側からも同じ鍵で開くの?」
「開きます、だから後でスペアキーを持ってきますので、脱出するときはそれで開けてください」
「その鍵、持ってっていいの?」
「大丈夫です、スペアキーの管理は甘々ですから」
そう言って白ローブは重厚な扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。
鍵を回すと扉がギギィーと音をたてて開く。
扉が開くと長い廊下がある。そしてその横には大量の扉が並んでいた。
たくさんの部屋がありそうだ。
「あなた方のお部屋はけっこう遠い場所ですよ」
そう言って白ローブは歩き出した。
「え、あなた方?」
阿波野が驚いた口ぶりで言う。
「ええ、お二人で入るんですよ?」
白ローブは笑って言った。
「嘘···」
阿波野は絶句した。
松並は顔も良いし、頭もいい。だが阿波野はああいう上から目線で人に物を言うやつが大嫌いだった。
また松並というのは人の気持ちというのも中々理解しないやつなので、阿波野は気分が悪くなりそうだった。
「着きましたよ」
そうこう思っているうちに、部屋の目の前にきたようだ。
「今鍵を開けます」
白ローブはそう言って今度は別の鍵を鍵穴に差し込んだ。
扉がすっと開いた。さっきと比べて軽い扉である。
「うっ」
阿波野さんは部屋の惨状をみて思わず言葉に詰まった。
部屋は三畳一間で、扉横にトイレがついてるだけという簡素な部屋だった。
比較的内装も汚い、壁には薄茶色の大きなしみがあった。
「このしみなによ···」
阿波野は毛嫌いするように言った。
「ああ、これは前の住人の男のほうが気が狂って女を刺し殺しちゃったときの血ですよ」
白ローブは笑って言う。
「あなた頭狂ってんの···」
阿波野にはそれを笑って言う白ローブの神経がわからなかった。
「トイレは横、シャワーや風呂はありませんので悪しからず」
「無いの!?」
「代わりに各部屋適当なときにシャワー室に呼び出してます」
「シャワールームがあるのね···ホッ」
阿波野は幾分かは救われたようだ。
「一人二分だけどね」
再び阿波野の顔が暗くなった。
「説明を続けます。食事は一日二食を適当なときに持ってきます、掃除は食事の時にほうきとちりとりを手渡すから適当にやって、洗濯はしない」
白ローブは他に質問は?という顔をする。
「洗濯無しなの···?」
阿波野がゾッとするような目をする。
「ええ、そうですよ。基本格好が裸族なんで」
「え、嫌···」
阿波野は泣き出した。
「あ、そうそう松並君」
そう言って白ローブは急に松並の耳元に行く。
何やらコショコショと話をしているようだ。それにしてもずいぶん長い話となった。
「話は以上です、ではまた」
そう言って白ローブは帰っていった。
誰もいなくなった部屋で阿波野は松並に問う。
「さっきのコショコショ話はなんだったの?」
すると松並は“耳貸して”と言う。阿波野はオーケーした。
松並は結構慎重に言う。
「この部屋の壁はとても薄いから、何か話をするときはコショコショ話でお願い」
「うん」
阿波野もそれに習った。
「で、何話してたの?」
「もう僕は逃げるのをやめたってこと」
え····?
阿波野は一気に絶望の淵に叩き落された。
全世界的に見たら異世界って流行ってるのだろうか···