第99話 子供ながらの
ヘルヴィとテオ、それにルナは家族のように手を繋いで街を歩いていく。
「ルナちゃん、お父さんとお母さんの、今日の服の色とかわかる?」
「えっと……お父さんが黒っぽくて、お母さんは赤っぽかった」
「そう、ありがとう」
テオは周りを見渡すが、やはり商店街なので人は賑わっている。
とてもじゃないが、この中から服の色だけを頼りにルナの両親を探すのは出来そうにない。
「……こっちだ、テオ、ルナ」
「えっ、あ、はい!」
「うんっ!」
ヘルヴィは迷わずある方向に歩き出した。
まるでもう、ルナの両親を見つけたかのように。
そして歩くこと数分、テオの目にもルナの両親らしき人が見えた。
黒い服を着た男性、赤い服を着た女性。
その二人がとても焦った顔をしながら、道行く子供に目を向けている。
「あっ! お父さん、お母さん!」
ルナも見つけたようで、テオとヘルヴィの手を離してその二人に駆け寄っていく。
やはりルナの両親で間違いないようだ。
両親とルナは、涙目になりながら抱き締め合っている。
母親とルナは我慢できずに涙を流していた。
「よかったですね、ヘルヴィさん」
「ああ、そうだな」
テオとヘルヴィはゆっくり歩きながら、ルナ達に近づいていく。
「ヘルヴィさん、どうしてルナちゃんのご両親の場所がわかったんですか?」
「……魔法だ」
「どんな魔法なんですか?」
「説明が難しいな。大雑把に言えば、探し物の場所がわかる魔法だ」
「そんな魔法があるですね」
探し物の場所がわかる魔法、という限定的な魔法なんてない。
実際にはいつもヘルヴィがやっている、心を読む魔法だ。
ルナが迷子になったとわかっていれば、必ず心でそのことを思っているはず。
だからそれを広範囲でやり、ルナを探している人物を見つけたということだ。
しかし心が読めることはテオにはまだ言っていない。
これを機に言おうかと一瞬迷ったが、まだ言わないでおいた。
「ありがとうございます……!」
「い、いえいえ、当たり前のことをしただけですから」
ルナの両親の深々としたお礼に、テオは戸惑っていた。
「何かお礼をさせてください……!」
「いえ、大丈夫ですよ!」
テオが何度も断っているが、それでもと両親は言ってくる。
とても義理堅い人達なのだろう。
「お兄ちゃん、わたしの家来てよ! 洋服いっぱいあるよ!」
「えっ、洋服?」
ルナも一緒に家に行こうと言うが、洋服があるというのはどういうことだろうか。
それを両親が説明してくれる。
「私達は仕立て屋をしておりまして、そのまま家が服屋になっているのです」
「従業員も私達二人しかいない小さいお店ですが、貴族の方も何人か使っていただいてるのです」
貴族は自分の権力を見せたり、見栄えをよくするために服には力を入れる傾向にある。
その貴族が使っている服屋ということは、とても良い服が置いてあるのだろう。
「ほう、服か。テオ、行ってもいいんじゃないか? 私達もそろそろ、服屋にでも行こうと思っていたのだ」
「なら、私達のお店にぜひお越しください! 三着ほどお礼に持っていってください!」
「いいんですかね……? じゃあ、お店に行ってもいいですか?」
「もちろん! 店はこちらです!」
お礼が出来るとわかり、とてもやる気に満ちた両親は案内を始める。
「お兄ちゃん、手繋ご!」
「うん、いいよ」
「えへへ……!」
テオと手を繋いで歩き出したルナは、とてもニコニコと嬉しそうに笑っている。
さっきまで泣いていたとは思えないほどに。
「あらあら、ルナはテオお兄ちゃんのことが好きになったの?」
その様子を見たルナの母親が、微笑ましそうに言った。
「うんっ! わたし、大きくなったらテオお兄ちゃんと結婚する!」
「えっ……?」
「あらあら、しょうがない子ね」
この言葉にショックを受けたのが、ルナの父親だった。
「くっ……! 『お父さんと結婚する!』って言われるより先に、それを言う相手を見つけられてしまった……!」
「あなた、変なこと言ってないで」
このような言葉は、子供だからこそ言うものだろう。
大人になったらほとんど忘れているもので、忘れていなくても思い出として語られるものだ。
だからテオも両親も、その言葉を完全に真に受けているわけではなかった。
「ほう……! ルナ、貴様、私の夫を奪おうとするのか……?」
しかしヘルヴィは、なぜか言葉通りに本気で受け取っていた。




