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第9話 留置場


 テオが住んでいる街の名は、ネモフィラ。


 ネモフィラの東の門は今、大混乱に陥っている。


 ある兵士が高台に登って見張りをしていたところ、遠くの方で大きな魔物が見えた。


 その姿が噂に聞いていたキマイラのものと一致するので、急いで他の兵士に知らせたのだ。

 そして出来る限りの武装をし、どれだけ持ち堪えられるかわからないが迎え撃とうとした。


 しかし……門に来たのは、頭と胴体が離れてなぜか空中に浮かんでいるキマイラと、その下にいる二人の男女だった。


 キマイラを持ってきたヘルヴィとテオは、門番にいた大勢の兵士たちに囲まれた。

 そのまま拘束されるかと思いきや、兵士のほとんどがテオと顔見知りだったのだ。


 そして今……。


「テオ、なぜ私たちは、軟禁されているのだ?」


 苛立った様子を隠さずに、ヘルヴィがそう言った。


 門のところにある留置場に、二人は兵士たちに通された。

 本当なら手錠をかけられているところだったが、テオの顔見知りだった兵士の人がそれはしないでくれた。


 実際していたら、ヘルヴィが暴れ出していたかもしれないので良い判断だっただろう。


「あのキマイラが本物かどうか調べている間、ここにいて欲しいってことらしいですよ」

「それだったら、なぜこんな扱いになっているのか……」


 手錠はされていないが、留置場内には兵士が五人ほど、外には十人以上の兵士が待機していた。

 外にいる兵士と中にいる兵士はときどき交代している。


 その部屋の中で二人は質素な椅子に座らされているのだ。


「ま、まあすぐに終わると思いますよ」

「そうだな……」


 テオは不遇な対応など慣れているので、むしろこのくらいでは不快な対応とは思ってもいない。

 ヘルヴィもいつもならそんなに沸点が低い方ではないのだが、今ここで待たされるのは不幸なことだった。


(せっかくテオの手料理が食べられると思っていたのに……ここでは食べられないじゃないか。それに周りに人もいるから、テオとイチャイチャできない……)


 そんな心境があったので、ここで足止めを食らってしまって若干イラついてしまうのだ。

 留置場内にいる兵士たちを意図せず睨んでしまうほどに。


 兵士たちもこの二人を軟禁しているのは、恐ろしさを感じている。

 何人かはテオのことを知っているから、彼がキマイラを倒せるほどの実力がないことはわかっている。


 問題は彼の隣に座っているヘルヴィだ。

 睨まれると心臓が止まったのではないか、と勘違いするほどの何かを感じる。


 留置場内にいる兵士が度々変わるのは、ヘルヴィに睨まれて具合が悪くなったからだ。



 その後しばらく待つと、留置場の外が少し騒がしくなり、誰かが入ってきた。


「失礼する。テオ・アスペル殿と、ヘルヴィ殿だな」


 ちょび髭を生やした身体も顔も厳つい男が、中に入ってきて座っている二人を見下ろしながらそう言った。


「君たちに聞きたいことが――」


 その男はそのままの体勢で話そうとしたのだが……。


「頭が高いぞ、跪け」


 ヘルヴィがそう言った瞬間、男とその周りにいた兵士全員が地面に膝をついた。

 いきなり頭上から押し潰されるような圧力がきて、抗うこともできずに跪いた。


「い、いったいこれは……!」

「重力を操って貴様らの頭上から圧をかけている。全力でやれば肉片にすることも可能だ。跪くぐらいの威力で抑えてやっているのだ、ありがたく思え」


 足を組み替えながら、男を見下ろすヘルヴィ。


「散々待たせておいて、私たちを下に見て話すなどさせるわけないだろう。分をわきまえて話せ」


 頭をあげることもできない男は、ヘルヴィを見上げることすらできない。

 しかしそれでも目の前の女が、自分よりも格上だということは嫌でもわかった。


 ヘルヴィが指をパチンッと鳴らすと、男たちにかかっていた圧力が消えた。


「さて、そのまま跪いて話すか、椅子を持ってくるか。好きな方を選べ」

「……お前ら、椅子を持ってこい」


 慌ただしく椅子を持ってくる兵士たちを、テオは呆然と見ていた。


(目をまん丸にして状況についていけないテオも可愛いな……)


 そのテオを見て和んでいる者が、一人いた。



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― 新着の感想 ―
[一言] ふっ! そこで私が椅子になりますと言わないとは…… オッサン、まだまだだな。
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