第74話 悪魔バラす?
翌日もテオの訓練として、街を出て森の前に来た。
テオが作ってきた昼ご飯を、草原に座って食べている最中にあのことを遂に伝える。
「えっ、悪魔!?」
「ヘルヴィさんが?」
そう、ヘルヴィが悪魔だということだ。
二人はそう聞いた瞬間に目を見開いて驚くが……。
「えー、悪魔って凄いね! なんかそういう、悪魔っぽい証拠とか出せないの?」
「ただ者じゃないと思ってたけど、まさか人間じゃないなんて……」
すぐに信じて、受け入れた。
悪魔というのはキマイラ以上の伝説の生物として有名だが、人間にとっては忌避する対象である。
人間を惑わし、命を奪っていくというのが悪魔に対する人間の認識だ。
「お前らは私が悪魔だとわかっても、何も変わらんな」
「んー、確かに悪魔って怖いと思ってたけど、ヘルヴィさんのことはもう知ってるし」
「ええ、悪魔よりもヘルヴィさんの方がある意味怖いわ」
「どういうことだ」
テオのことでヘルヴィをからかい過ぎたとき、すでに二人は悪魔らしい対応をされている。
むしろヘルヴィが悪魔だと聞いて、今までの強さや所行に納得した部分があった。
「悪魔だから不老不死で、そんなに強いのね。人間じゃないって聞いて納得したわ」
「ねえねえ、悪魔っぽい格好ってあるの? なんか言い伝えでは翼とか、ツノとかさ」
「ああ、わかっている」
ヘルヴィは軽く意識すると、頭からは漆黒のツノ、腰からは同じ色の翼が生える。
「おー、凄い! なんか、それっぽい!」
「綺麗……ヘルヴィさんは元が美人だから、ツノや翼が生えても幻想的になっただけで怖くはないわね」
「テオがこの姿が気に入ってるからな、他の者に見せたくないぐらいに」
「ちょ、ヘルヴィさん……!?」
テオが他の人達にヘルヴィが悪魔だと伝えたくない、一番の理由を当てられてしまった。
「へー、テオ君も独占欲みたいのがあるんだね」
「ふふっ、そうね」
「は、恥ずかしいので知られたくなかったのに……!」
「すまないなテオ、私もテオの気持ちが嬉しいから、自慢してしまった」
広げた翼を器用に動かし、横にいるテオの腰を抱き近づかせる。
テオは突然のことに「あっ……」と声を漏らしながら、ヘルヴィの身体に引き寄せられた。
「許してくれるか?」
「さ、最初から怒ってはいないですよ……ただ、少し恥ずかしいだけで……」
「ふふっ、そうか。良かったよ」
俯いているテオの顎を持ち、上げさせ軽くキスをする。
その際に翼で自分たちを覆い、ジーンとセリアには見えないようにした。
「ねえー、ちょっとー、翼で隠れないでもらいたいなー!」
「悪魔をバラしたからといって、翼を使ってイチャイチャしないでもらえるかしら?」
自然な流れで惚気られて、げんなりしている二人。
「ああ、今度からは翼で隠したりはしない。バラしたといってもお前らと、これから話すであろうフィオレぐらいだ。堂々と隠れないでする」
「まずはイチャイチャしないでくれると助かるんだけどなー」
「それは無理な話だ、あと数百年ほどは」
「ムカつくわね……」
テオも軽いキスぐらいなら慣れてきたのだが、他の人に見られるというのは慣れていないのか、ヘルヴィの翼で顔を隠していた。
昼ご飯を食べ終わり、午後の訓練はジーナがテオに体術を教えていた。
ヘルヴィとセリアは邪魔にならないように遠くで眺める。
そしてヘルヴィは質問があったので、丁度いいと思い聞いた。
「セリア。この世界で新婚旅行に行くところのオススメはあるか?」
「……ここまではっきり惚気られると、清々しいような、ウザいような」
セリアは先程と同じようなげんなりした顔で、聞かれたことについて真面目に考える。
「ここの近くだったら王都がやっぱりいいと思うわ。良い宿屋もあるし、貴族用のレストランもあるわね。金さえ払えば私たちでも入れる」
「ふむ、テオの料理ほど美味しくはないと思うが、そういうところに行くのも一興か」
「あとこの時期だったら海水浴も出来るわ。多分混んでると思うけど」
「意外と娯楽があるんだな。ふむ、だが海水浴か。テオに水着を見られるのは良いが、他の者に見られるのは許容できないな」
「二人で浜辺を貸し切るのは流石に出来ないと思うけど……」
「どこか二人きりで海水浴出来るところを探しておくか」
海水浴が出来る時期も限られている。
テオと楽しみたいので、王都の近くで二人きりになれる浜辺を探すことにする。
「だけどお金はあるの?」
「前にキマイラを倒したときの賞金がな。一度くらいの贅沢な旅行でも、半分も使い切れん」
国の軍隊が動くほどの依頼を、一人で片付けたのだ。
ネモフィラの街の兵士長がその報酬を持ってきたが、莫大なお金でテオは受け取るときに足が震えていた。
「それなら何も気にする必要は……いや、あるかも」
「ふむ、何がだ?」
「ヘルヴィさん、綺麗過ぎるから。王都に行ったら絶対にやっかまれたり、変な奴が寄ってくるかも」
「それは面倒だな」
ジーナとセリアも容姿は整っているが、ヘルヴィはそれ以上である。
二人ですら貴族達から色々と面倒なことをされたので、ヘルヴィなら絶対に絡まれてしまうだろう。
「だから変装とかした方がいいかも」
「それはないな。なぜ私がそんな邪魔な者たちのために、変装をして新婚旅行をしなくてはならないのだ」
テオと一緒に旅行をすることはこれからも何度もあるだろうが、新婚旅行は最初で最後なのだ。
それを邪魔されるからといって、コソコソしていては本末転倒である。
「邪魔をするのであれば容赦はしない」
「……やり過ぎないようにね?」
「それは約束出来んな」
王都を紹介したセリアだったが、少し後悔した。




