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第67話 守りたい



 テオにとって、ヘルヴィとは完璧な女性であった。


「大丈夫か、テオ」


 テオに襲いかかって来た魔物が、ヘルヴィの魔法で一撃で粉々になった。

 いや、もはやテオから見ると魔法なのかどうかもわからないほどである。


「だ、大丈夫です、ありがとうございます」


 木の陰から出て来たので驚いて尻餅をついてしまった。

 好きな女性の前で情けない姿を見せてしまい、少し恥ずかしい。


(まあだけど、いまさらかな……)


 そう思いながら、ヘルヴィから差し出された手を握って立ち上がる。


 今までいろんな姿を見せてきたし、見てきた。

 情けない姿なんて、初めて会ったときからずっと見せてしまっている。


 いや、むしろカッコいい姿を見せたことなんて一度もないのかもしれない。


 だから自分が一方的にヘルヴィのことが好きだと、少し不安に思っていたこともあった。

 だけど今は――。


(だ、ダメだ! 夜のことを思い出しちゃ……! 今は依頼の途中なんだから!)


 顔が赤くなってきてしまい、ヘルヴィに気づかれないように俯く。

 幸いにも気づかれていないみたいで、ヘルヴィは違う方向を見ている。


 ……実際はテオの心を覗いていたので、ヘルヴィ自身も思い出して顔が赤くなっているのを見られないために、そっぽ向いているだけであったが。



 夜のことを思い出して少し恥ずかしくなったが、それでも初めて経験したときに言ってくれた言葉。


『私、ヘルヴィ・アスペルは――テオ・アスペルのことを、愛してる』


 それが今でも心の中にずっと残っているし、思い出す度にとても幸せで嬉しい気持ちになる。


 自分の一方的な気持ちではなく、応えられるとこんなに嬉しいのかと実感した。


「テ、テオ、行くぞ、そろそろ薬草があるところだろう」

「あっ、はい!」


 テオの心を読んでいたヘルヴィが、恥ずかしいからか思考を遮るように声をかける。

 これ以上見ていたらどうにかなってしまいそうなので、しばらくは心を見ないことにした。



 二人は静かな森の中を歩く。

 魔物が出てもすぐにヘルヴィが対処するので、意外と暇な時間である。


 会話をするときもあるが、今日は黙々と進んでいた。


 ヘルヴィは先程テオの心を覗いてから気まずくなってしまい、話しかけられずにいる。


 テオとしても喋りたいのだが、自分の代わりに魔物を倒すために集中してくれているヘルヴィの邪魔をしてはいけないと思い、話しかけられない。

 実際は集中などせずとも片手間に倒せるので、全然話しかけても大丈夫なのだが。


(僕も魔物を倒せるくらい強くなりたいなぁ……)


 ヘルヴィは最強なので守る必要などない、むしろ自分が守られる立場なのは理解している。

 だがテオも男なので、好きな女性を守りたいと思うのは当たり前の感情だろう。


 キマイラのような化け物は倒せずとも、ここら辺にいる魔物などには対処出来るぐらいになりたい。


 前に悪魔の人に攫われたとき、もっと自分が強かったら……ヘルヴィにも迷惑をかけずに済んだはず。


 それにあの悪魔に言われたことも、心の中に棘として刺さっていた。


『力なんて皆無。下等な人間の中でも下等』


 自分でもそれはわかっているつもりだった。

 今までもいろんな人に言われてきた。


 だけど、それのせいでヘルヴィと釣り合わないと言われる、思われるのは我慢できない。


 だから少しでも近づくために、強くなりたい。


(でも一人で強くなるには限界があると思うし、ヘルヴィさんに教わるのもなぁ……)


 守りたい女性に、守り方を教わるというのは男として情けない気がする。

 だからヘルヴィに戦い方を教わるのが一番だとは思うが、それは避けたい。


(あっ、そうだ! ジーナさんとセリアさんに教えてもらえれば……!)


 ヘルヴィ程ではないが、傭兵としては最強の強さを誇っている二人。

 どちらも女性で戦い方を教わるのは少し恥ずかしいが、ヘルヴィに並び立つためにはそのくらいどうってことない。


(だけど、いつ教わろうかな……)


 ヘルヴィと出会ってから、ほとんどずっと一緒に行動していて離れたことがない。

 離れるときなどお風呂に入るときぐらいだ。


 最近はお風呂も一緒に入ろう、と言われていて、その時間も一緒になるかもしれない。


 ヘルヴィと離れたい、なんて思ったこともないし、これからも思うことはないと思うが……戦い方を教わっているのを見られるのは、さすがに恥ずかしい。

 だけど離れるにしても理由を言わないといけない。


(理由を言って離れるか、それとも離れずにヘルヴィさんにも戦い方を教わるか……うーん、どうしよう)


 そんなことを考えながら歩いていると、前を歩いているヘルヴィが止まる。


「テオ、着いたぞ。ここのあたりだろう」

「あっ……は、はい、そうですね」

「どうした、大丈夫か?」

「大丈夫です、ちょっと考え事してて」

「そうか、困ったことがあったら遠慮せずに言うんだぞ」

「……はい、ありがとうございます」


 考え事に集中しすぎて着いたことにすら気づかなかった。

 それにヘルヴィにも心配させてしまった。


 周りの薬草を探しながら、テオは考える。


(うん、やっぱり心配かけちゃダメだよね……恥ずかしいけど、ヘルヴィさんに言って一緒に戦い方を教わろうかな)


 薬草採取が終わったら、ヘルヴィに言うことにした。


 しかしもう言わずとも、ヘルヴィは心を覗いてその考えを理解した。


(ふむ、テオはどうやら強くなりたいようだな……私を、守りたい、か。ふふっ、この私がそんなことを思われるとはな……)


 生物として、頂点の存在。

 それがヘルヴィである。


 魔界のことを思い出したが、やはり自分以上の存在などいない。

 そんな自分を、守りたいと考えているテオ。


 見方を変えればむしろ侮辱に思われることだが、そんな思いは全く湧かず、ただただ愛おしく、嬉しい。


(やはりテオの前では、私は女なのだな……いや、テオが私を、女にしてくれるのだ)


 強くなることを決心したテオをを見て、今日の夜も尽くそうと思うヘルヴィだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] この、ヘルヴィとテオのいちゃいちゃを見ていると 心が温まる・・・尊い・・・ [一言] 書籍版たのしみにしています!
[一言] もっとエロく…とりあえず、めざせ15Rですね! (違う)(ヾ(´・ω・`)
[良い点] 男ってのは、なぜか女を守りたくなってしまうんですよねぇ…女の方が圧倒的に強かったとしても(笑) カッコつけたいとか、守られるのはカッコ悪いとか…が理由だったら、ただ恥ずいだけで済むんです…
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