第63話 旅の終わり
その後、ネモフィラの街まで四人は馬を走らせる。
行きのときは馬上でイチャイチャとしていたテオとヘルヴィだが、帰りは気まずいのかほとんどしていなかった。
テオとしては自分の痴態を見られてしまい、とても恥ずかしくて自分から喋られる状態ではなかった。
出発した直後、十数分はずっと『その』状態であったのもさらに恥ずかしかった。
テオは初めて『それ』を見られたと思っているが、寝ているとき、そして最初の夜の風呂へと向かうときにヘルヴィは見ていた。
だがしっかりと見られたと理解したのは今回が初めてなので、ヘルヴィに出会ってから一番の恥ずかしさかもしれない。
ヘルヴィは行きよりも身体を密着させたかったが、今回はテオが可哀想だから自重した。
テオの心を読んで初心なところが可愛いと思いながら、さすがに自分が悪いと思ったようだ。
それに――今身体をくっつけると、我慢ができそうにない。
二人はほとんど喋らずに馬を走らせ続け、ネモフィラの街へと帰還した。
まずは貸馬屋に行って、馬を返す。
テオが乗っていた馬が別れるときに少し暴れかけたが、テオが撫でるとすぐに落ち着いた。
いまだにテオ以外だと暴れるようなので、店員に頼まれてテオがここに通って調教することになった。
もちろん報酬は支払われるので、テオも快諾した。
馬を返し、依頼達成の報告をするために傭兵ギルドへと向かう。
ギルドへと着き、カウンターにいるフィオレに話しかける。
「フィオレさん! お久しぶりです!」
「あ、テオ君! 良かった、無事に依頼終わったんだね」
「はい、その報告に来ました!」
元気そうな可愛い笑顔のテオを見て、安堵の息をつくフィオレ。
隣にいるヘルヴィも特に問題はなさそうだ。
フィオレは彼女がいるなら特に問題は起こらないだろう、と思っていたが、やはり少し心配していた。
「お疲れ様です、ヘルヴィさん。テオ君と一緒に楽しめましたか?」
「……ああ、そうだな」
煮え切らない返事で、自信満々の彼女を知っているフィオレからすると、少し不思議に思う。
(何かあったんですか?)
フィオレは心の中でそう問いかける。
(……依頼でも少し問題はあったが、今は少しな……)
ヘルヴィは心の中でそう問いかけてから、テオの方をチラッと見る。
テオも同じようにヘルヴィの方を見ていたようで、目が合うと顔を赤めて慌てた様子で顔を背けた。
(……なんかお二人、夫婦ではなく初々しい恋人になられたのですか?)
(そんなわけないだろう。何を言っているのだ)
(そういう甘酸っぱい雰囲気を出しているので……いや、テオ君が初恋の女の子みたいな反応をしてるからかな?)
(同感だ。まあこれにも訳があってな……)
テオの依頼達成の報告を受けながら、フィオレは頭の中でヘルヴィの話を聞く。
意外と器用なことができんだな、とヘルヴィは感心した。
(それは……ヘルヴィさんが悪いような、悪くないようなって感じですね。というかやっぱりテオ君も男の子なんだなぁ……)
(少し気まずくなっているだけだ。明日には戻る)
そんなことを頭の中で会話し、依頼達成の報告もちょうど終わる。
「皆さん、お疲れ様でした。薬草もテオくんのお陰で、とても良い状態のようです。報酬は明日の朝までに用意しておきます」
フィオレのその言葉により、四人の旅の依頼は終わりを告げた。
その後、日も暮れてきたので四人はギルドを出て、別れることになった。
「じゃあテオ君、それにヘルヴィさん! 今回は本当にありがとうね! すっごく楽しかった!」
「ええ、私も楽しかったわ。テオの料理は相変わらず美味しいし、ヘルヴィさんとも仲良くなれたしね」
「僕も楽しかったです! また一緒に依頼しましょう!」
「私もこういうのは初めてだったが楽しめたぞ」
ジーナとセリアとはギルド前で別れ、二人は自分たちの宿に帰って行った。
テオとヘルヴィは二人だけとなり……また少し、気まずい雰囲気になっていた。
「……ぼ、僕たちも帰りましょうか」
「ああ、そうだな」
二人は気まずくなりながらも、手はしっかりと繋いで帰った。
家に着くと、旅の荷物を上空からヘルヴィが落とす。
ジーナとセリアの分もあったので、二人がいる場所にヘルヴィが落としておいた。
いきなり荷物が目の前に落ちてきた二人が驚いたのは、言うまでもない。
家の中に入り、片付けをしている間も無言であった。
ようやく話したのは、夕ご飯を一緒に食べているときだ。
「……そういえばテオ、あの悪魔に攫われたときに怪我をしなかったか?」
「えっ、あ、はい、大丈夫です!」
テオは急に話しかけられてビクッとしながらも答える。
「そうか、よかった」
「ありがとうございます。そういえばあの悪魔の人と何か話したんですか? あの人は何か、まかいとか言ってましたけど」
「ああ、少しな」
ヘルヴィは端的に説明した。
テオはヘルヴィが女王になるべきだ、とあの男が主張したのを聞いて、少し不安になる。
「あの……ヘルヴィさんは、魔界に戻りたいですか?」
自分が魔界という世界で暮らせないだろうと思ったので、ヘルヴィが戻ってしまうと……考えるだけで悲しくなってしまう。
そんなことを考えている、という心の中を覗きながら、ヘルヴィは穏やかな笑顔で答える。
「テオがいない世界に、戻りたいとは思わないぞ」
「っ! あ、ありがとう、ございます……!」
その言葉に顔を赤らめながら、とても嬉しそうな笑顔でお礼を告げた。
うむ、可愛い。
心の中で断定するヘルヴィだった。




