第62話 帰りの馬
それから四人は半日かけて山を降りて、馬を置いてあるところへと向かう。
ヘルヴィの結界魔法はしっかりと張られていて、馬は魔物に襲われることも逃げ出すこともなく無事であった。
もう日も暮れてきていたので、今日は麓で野宿して明日の朝に帰ることにした。
特に何もなく――実際は魔物に襲われたが、それが問題になるとは到底思えない四人だった――夕食を食べ終わり、テントを建てて昨日と同じく眠りにつく。
今日は色々あったので、眠る前にヘルヴィはまたテオにマッサージを施す。
「んっ、はぁん……きもち、いいですぅ……」
(いいね、テオ君……もっと聞かせて……)
(ヘルヴィさん、今やったところもっとマッサージしてあげて、そうしたら良い声出るから)
(お前らな……)
テオはいつも通りの声を上げ、テントの外ではそれを聞いて満足している二人がいた。
テオからのお返しのマッサージは今日はせずに、外の二人もテントに戻りようやく眠りについた。
そして翌日。
四人は馬に乗り、ネモフィラの街へと向かい走り出した。
馬は三体で、二人乗りできる馬は一体だけ。
その暴れ馬の手綱を握れるのはテオだけ、なのでもちろん帰りも……。
「テオ、もう少し詰めてもいいか? このままでは落ちてしまいそうだ」
「は、はい……!」
「ありがとう。これくらいはどうだ? 邪魔ではないか?」
「〜〜っ!! は、はい……」
テオが前、ヘルヴィが後ろの二人乗りだ。
行きはヘルヴィは横向きに乗っていたが、帰りは普通に跨いで乗っている。
その体勢でくっつくと、テオの後頭部がヘルヴィの豊満な胸に当たってしまう。
行きのときは恥ずかしいからやめて欲しい、と言ったテオ。
だが今回の旅で色々と助けられたので、何かお返しをしたいと言ったら、この体勢で馬に乗ることを許可することになってしまった。
テオも恥ずかしいが、決して嫌なわけではない。
むしろ彼も男なので、好きな人にこれだけくっつかれるのは嬉しいのだ。
ただこれは嬉し過ぎるし、恥ずかし過ぎる。
背中や後頭部にはヘルヴィの柔らかい身体が当たっているし、顔が真っ赤になっているのは自覚出来る。
隣でジーナとセリアがなぜか不満そうに見ているのも目に入っていて、さらに羞恥心を煽る。
「ヘルヴィさん、さすがにくっつき過ぎなんじゃない?」
「そうね、それじゃテオくんが可哀想よ……色んな意味で」
二人の言うことなど全く聞く耳を持たないヘルヴィは、腕をテオの前に回して抱きつくよう一緒に手綱を持つ。
テオの手の上から覆うように手綱を持ち、より一層密着度が高くなった。
「これは私へのご褒美なのだ。お前らに口を出される筋合いはないぞ。そこで指を咥えて見ていろ」
「むー、ずるいなぁ」
「私たちにも分けて欲しいわ」
三人がそんなことを話しているが、テオは恥ずかしくてそれどころではない。
性知識が今までなかったテオは、女性にくっつかれて平気でいられるほどの耐性は全くついていない。
そして最近その知識を知ったからこそ、意識してしまう。
「ん、どうしたテオ?」
「い、いや、その……!」
テオは馬上では背筋をしっかりと伸ばした方が、バランスが取れることを知っている。
しかしそうするとヘルヴィの身体が背中に当たってしまう。
そして――男の性質上、『それ』になったときは前屈みにならざるを得なかった。
前屈みになれば背中に当たる面積は少なくなり、『それ』を隠せる。
「……そんなにくっつかれるのは、嫌か?」
「そ、そういうわけでは……!」
むしろ嬉しいからこそ、『それ』になってしまうわけで。
後ろからは背中で隠れて見えないが、横から見ている二人はテオの『それ』が見えてしまい目を見開く。
そしてさすがに気の毒に思い、『それ』から顔を逸らしつつチラチラ見ながら、ヘルヴィに声をかける。
「ヘルヴィさん、ちょっとその、手加減してあげた方がいいんじゃないかな?」
「テオもその……嫌なわけではないみたいよ? だからその、離れてあげた方が……」
要領を得ない二人の言葉に、ヘルヴィとしてはさらにわからなくなる。
「何を言っているんだお前ら? お前らの言うことは聞かないと、先ほど言ったはずだが……っ!」
ヘルヴィはそう言いながら、前屈みになったテオの後ろからまた覆いかぶさるように抱きついた。
そして気づいた、いや、見た。
ヘルヴィとしては『それ』を見るのは三度目ほどだが、慣れるはずもなく。
すぐさま身体を離し、テオと同じ様に顔が真っ赤に染まる。
「……す、すまない、テオ。やはり、横の方がいいか?」
「……すいません、横でお願いします」
色々と出発するまであったが、最終的には行きと帰り、どちらもヘルヴィは横に座った。




