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第51話 交代


「お前みたいに強い奴が、なんで盗賊なんてやってんの?」

「あん? なんだいきなり?」


 ジーナが唐突にそう問いかけた。


 単純に疑問に思ったのだ。

 自分の身体を簡単に傷つけ、貴族抱えになった自分たちの攻撃を全て避けきる。


 そんな男が、なぜ盗賊という犯罪者に堕ちたのか。

 自分たちと同じように傭兵をやっていれば、地位や金などに全く困らないところまで上り詰めるはずなのに。


「殺し合い中におしゃべりするのはあまり好きじゃないが」

「さっきから結構喋ってるわよね」

「仕方ねえ、答えてやるよ」


 セリアのツッコミを意に介さず、盗賊のボスは話す。


「俺は人の下につくのが嫌なんだよ」

「……」

「……答えてやっただろうが、なんか言えよ」

「えっ、それだけ?」


 ジーナは続きを黙って待っていたのに、たったそれだけの理由で驚いた。


「それが最大で最高の理由だろうが。人に指図されるのが気に食わねえ、特に俺よりも弱い奴らにだ。貴族なんていう金しか持ってない奴らなんて、クソ弱え奴しかいねえのに偉そうに威張ってやがる。あいつらの下につくのなら、死んだほうがマシだ」

「あはは、ちょっと耳が痛いねー」

「そうね、貴族の中にはそういう馬鹿な奴らもいるわね」


 ボスが言ったことは、ジーナとセリアも身に覚えがある。

 今ではある貴族の家の抱えになっているが、それまではいろんな貴族を相手に傭兵をしていた。


 その中には貴族なのをいいことに、自分たちを下等に見る奴らが何人もいた。


「だから俺は力だけでのし上がれる、盗賊になったんだ。この山にも前は小さな盗賊団がいくつかあったが、俺が全て従え、従わない奴らは殺した」


 ボスは不敵な笑みを浮かべて、両手を広げる。


「俺は一番になりたいんだよ! 誰よりも強く、誰よりも上に立ちてえんだ!」


 高笑いでも上げそうなボスを、二人は冷めた目で見ていた。


「思ったよりもつまらない話だったなぁ、がっかり」

「盗賊に堕ちたのに誰よりも上にって、馬鹿なのかしら? 盗賊をやってるだけで、誰よりも下よ」


 その言葉にボスは「くくっ……」と笑った。


「その下の奴に二人がかりで苦戦してるお前らはなんなんだ? 俺よりも下なんじゃねえのか?」

「むっ……! 戦いはまだまだこれからが本番だよ!」

「吠え面かかせてあげるわ」


 実際、二人がかりでギリギリ倒せる相手なのは間違いない。


 ボスも一人ずつなら殺せるが、二人を相手にすると負ける可能性が高いと思っている。

 しかし今まで対等に戦ってきた相手がいないボスにとっては、こんな楽しくて嬉しいことはない。


 初めて対等に殺し合える相手と出会った。


 三人は一様に笑いながら、また戦い始める――となるはずだったが。


「お前ら、待て」


 その一言が聞こえて、ジーナとセリアはピタリと止まって振り向く。


 二人の後ろにはヘルヴィが立っており、その後ろにはテオがなぜか恥ずかしそうに顔を赤く染めていた。


 ボスと戦っていた間、ヘルヴィとテオが何をしていたか見ていなかったが、テオの顔を見る限りいつも通りイチャイチャしていたのだろう。


「なに、ヘルヴィさん? 今いいところなんだけど」

「お前らじゃ勝ったとしても時間がかかるし、傷が多くなるだろう。なので交代だ」

「えー、本当に? 私たちでやりたいんだけどー」

「お前らが傷を負ったら、誰が手当てすると思ってるのだ」


 ヘルヴィがそう言うと同時に、テオはジーナの怪我に気づいてハッとして駆け寄る。


「だ、大丈夫ですかジーナさん!? い、いろんなところ怪我してますが……!」

「あー、大丈夫だよ、皮が剥けたぐらいだから」

「手当てしないと……!」


 テオはジーナの手を引いて、後ろに下がろうとする。



 ボスはいきなり入ってきたテオにイラついた。

 どう見ても力が無く、先程から守られているだけの存在。


 そんな奴が自分と対等にやり合える強者との勝負を、邪魔すんじゃねえ――。


 一歩で近づいて、ぶっ殺す……そうしようと思ったの、だが。

 踏み出す直前に、肩に何かが当たる。


「貴様の相手は、私だ」

「なっ……!?」


 いつの間にか横にはヘルヴィが立っていて、自分の肩に手を置いていた。


 気づかないうちに間合いに入られたことに驚き、肩に置かれた手を振り払いすぐに後退する。


「なんだ、お前……!」


 相手に手を置かれたところを見て確認する。

 特に魔法をかけられたわけじゃないが、寒気がした。


 ヘルヴィはテオとジーナの後ろにいたはずなのに、気づいたら自分の隣に移動していた。

 こんな簡単に自分の間合いに入られたのは、生まれて初めての経験だ。


 先程の部下との戦いを見ていたが……いや、あれは戦いとは言わないだろう。

 ヘルヴィを囲んだ部下が、同時にぶっ倒れて死んでいた。


 魔法なのか、それとも毒なのか。

 それがわからないから不用意に近づかないでおこうと思っていたのだが、いきなり近づかれてしまった。


 しかし自分は今、死ぬ前兆は特にない。

 限られた技なのか、それとも――他にも技があるからやらないだけなのか。


「貴様は先程、誰よりも強く、と言っていたな」

「あぁ? そうだな、この世界の誰よりもな」

「ふむ、ならば喜べ。私が最強だ、私を倒せば、お前はこの世界の誰よりも強いぞ」

「はぁ? なにを言ってやがる……」


 ボスは女であるヘルヴィが世界最強なはずがないと考える。


「まあやることは変わらねえ。てめえが強くても弱くても、ぶっ殺してやるよ」


 男が殺気を出しながら睨むが、ヘルヴィは軽く笑う。


「誇るがいい。お前は力の頂点を、体験できるのだから」



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