第49話 人殺し
まず自分たちに襲いかかってきた丸太や槍、そして魔法を砕く。
ジーナとセリアはそれぞれ拳と魔法で、ヘルヴィはテオに襲いかかってきてる分までを魔法で対応する。
「あ、ありがとうございます」
「ああ、任せておけ」
当然のごとく無傷に済んだテオは、守ってくれたヘルヴィにお礼を言う。
「いやー、ビックリ! まさかあんな一斉攻撃をされるとはね」
「そうね、盗賊にしては上手い連携攻撃だったわ」
そんなことを言う二人もほとんど無傷だった。
ジーナの拳が少し赤くなっているくらいで、特に問題はない。
罠や魔法を凌ぎ、一息つく……と思いきや、次の攻撃が始まった。
前、横、そして上からも。
盗賊の男たちが十人ほど、武器を持って襲いかかってきた。
「あはっ、上等!」
ジーナは拳をガキンッと合わし鳴らせ、横から襲いかかってくる盗賊に右拳を振るう。
顔面へとめり込むようなパンチ……だったのだが、ギリギリで避けられる。
避けられるとは思わず、「おっ?」と声が出てしまう。
その隙に盗賊は懐に入り込み、短剣を振るった。
短剣には毒が塗り込んであり、かすり傷でもつけたら傷口に入り込み、半日はまともに動けなくなる。
しかしそれは……かすり傷をつけられたら、の話だ。
「……はっ?」
切りつけた盗賊の口からはそんな声が出てしまった。
なぜなら短剣で切りつけたはずなのに、肌の薄皮一枚すら切れなかったからだ。
その事実に呆然としてしまい、次のジーナの攻撃はモロに食らってしまった。
顔面を殴られ、そのまま地面に叩きつけられてその盗賊は意識を手放した。
「もっと良い武器じゃないと、私の肌は切れないよ」
鋼鉄魔法を使いこなすジーナの身体は、生半可な武器じゃ傷一つ付けられない。
その後も自分に襲いかかってくる相手を殴り飛ばすジーナだった。
「はぁ、動き回る相手は苦手なのだけれど……」
セリアの周りには三人の盗賊の男が走り回っている。
魔法使いの総じての弱点として、正確に狙いをつけるのが難しいということだ。
狙ったところに一ミリのズレもなく当てられる魔法使いは、ほとんどいない。
セリアほどの魔法使いでも、数センチはズレてしまう。
そして素早く動き回る相手に当てるのは、さらに難しい。
その弱点がわかっている盗賊たちは、縦横無尽に駆け回る。
全方位に魔法を放たれればマズイが、周りに仲間がいるので使わないだろうと考えてのことだ。
だからこそ、三人は一斉に襲いかかる。
前から横から、後ろから飛びかかることで、誰か一人は確実に相手を攻撃できるように。
全員の武器に毒が塗ってあるので、切りつけたら勝ちだ。
セリアにあともう少しで攻撃が当たる……というところで、盗賊二人の命は事切れた。
一人だけ、生きていた。
何をされたのかはわからないが、近づいたときに前に出した短剣を持っていた腕が吹き飛び、粉々になった。
そこでギリギリ止まったから、死ぬことはなかった。
「な、何が……!」
セリアの周りを見ると、二人の盗賊がバラバラになっているのが見える。
何をしたのか全くわからなかった。
「私の周りに風の刃を仕込んでおいたのよ。私に近づけば、それに当たって粉々になるってだけ。その外から攻撃を仕掛けたらまだチャンスがあったのに、残念ね」
その男以外の盗賊は、そのまま近づいたので風の刃に裂かれて粉々になったのだ。
生き残った男は逃げようと足に力を入れようとしたのだが、転んでしまった。
なぜ、と思って自分の足を見ると、右足がなかった。
「逃げられないように切ったわ、ごめんなさいね。じゃあ、さようなら」
そして残った盗賊の頭が、地面に転がった。
「うわー、セリアむごいなぁ」
「盗賊なのだから、殺しても問題ないでしょう」
「まあそうだけどさ」
ジーナに襲いかかってきた相手の二人は気絶で済んでおり、一人は当たり所が悪かったのか首が折れて死んでいる。
「だから言ったでしょ、動き回る相手は苦手だって。苦手すぎて手加減できずに殺しちゃうんだもの」
「私も脆い相手は勝手に死んじゃうからな、苦手かな」
二人はそう言って、テオとヘルヴィの方を見る。
「ふむ、お前らも終わったか」
「お、お疲れ様です……」
ヘルヴィとテオの周りには、盗賊の五人が転がっていた。
見たところ外傷はなく血は一滴も出ていない。
しかし確実に死んでいる。
「何したの?」
「心臓を破壊しただけだ。人間はそれだけで死ぬ」
「いやそれだけって、十分すぎるけど」
大昔の魔物を殺し尽くしたヘルヴィだが、その中には心臓など破壊されても死なない魔物など何十種類もいた。
しかしそれすら問題にならないぐらい、ヘルヴィは強かったが。
「テオ君、大丈夫? 人が死ぬのは見慣れてないと思うけど」
「そ、そうですね……前にお二人と組んだときも盗賊に襲われて、そのときに見たくらいです」
「ああ、そういえばそうだったわね」
このご時世、命を狙われて襲われたのであれば、正当防衛として殺しても何の問題も無い。
テオはほとんど狙われたことはなかったが、ジーナとセリアは何度も狙われたことがある。
むしろそういう依頼を受けたこともある。
テオがいるときは受けたことはなかったが、旅をしているときに盗賊に襲われたことがあった。
そのときに初めて、テオは人同士が殺し合う姿を見た。
「テオ、お前は心優しい者だ。人が人を殺すところを見るのは苦痛だろう」
「……その、そうなんですけど」
「それと、私たちが人を殺すことに心を痛めているのもわかっている」
「……はい」
テオは俯いていたが、ヘルヴィが両手で頬を優しく覆って顔を上げさせる。
「わかっていると思うが、守るために殺すのだ。自分を、周りを、そしてテオ、お前をだ」
「……はい」
「……ふふっ、ああ、そうだな。お前はそういう男だ」
ヘルヴィは微笑んで、テオを抱きしめる。
テオは抱きしめられたことにビックリして、顔を赤くする。
「な、なんですか?」
「いや、なんでもない。しかし、私はいつまでも待っているぞ」
「……はい」
何を考えたのかを悟られたと思ったテオは恥ずかしがりながらも、躊躇しながらも抱きしめ返した。
「……なんでいきなり良い雰囲気になってんの?」
「さあ、わからないわ。だけど邪魔しちゃいけない雰囲気ね」




