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第44話 テントの中……


「あっ、ヘルヴィさん……んっ、気持ちいいです……」


「――っ!?」


 その瞬間、二人は息を飲んだ。

 お互いに目を見合わせ、唾を飲み込む。


 ギリギリ声は出なかったが、危なかった。


 いきなりそんな声が聞こえてきて、二人は顔を真っ赤にして目を合わせた。


「あ、そこっ……んんっ……あぁ……!」


 そんなテオの小さな声が、絶え絶えに聞こえてくる。

 いつも聞くのより、何十倍も色っぽい声だ。


 二人は声は出せないが、長年一緒にいるから目を見ればなんとなく会話ができる。


(ほら、やっぱりやってるじゃん!)

(そ、そうね……)

(私の想像通り、ヘルヴィさんがやっぱり責めてるみたいだね……!) 

(た、確かにそうみたいね、ヘルヴィさんが責められてる方が私としては興奮したのだけれど……)

(それはセリアの趣味じゃん)

(そ、そうじゃないわよ)


 なぜ喋らずにここまで意思疎通ができるのかは謎だが、こんなやりとりをしていた。


(の、覗きたいなぁ……どんな感じなんだろう)

(さすがにダメよ、絶対バレちゃうわ)

(別にいいぞ、覗いても)

(ほら、いいって……えっ?)

「えっ?」


 最後に声を出して驚いてしまったセリア。

 本当に小さな声だったのでジーナぐらいしか聞こえてないが、慌てて手で口を塞いだ。


(い、今、ジーナ喋った?)

(いや、喋ってないけど……というかヘルヴィさんの声したよね?)

(ああ、私の声だぞ)


 二人は顔を見合わせ、目を見開いて驚く。

 辺りを見渡すが、ヘルヴィの姿はない。


(お前らの頭の中に直接話している)

(そ、そんな魔法があるの!?)

(……すごいわね、さすがだわ)

(頭の中で会話できないのに、喋りもせずに意思疎通ができるのもすごいと思うがな)


 ヘルヴィは頭の中が覗けるからわかるが、二人が完全に意思疎通ができていることがわかった。


 二人は多少のハンドサインをしているが、全く喋っていない。

 それなのにあれだけ複雑な会話を成り立たせているのが驚きだ。


「んっ、はぁん……! あぁ……!」


 ヘルヴィの魔法にも驚いたが、二人はこの声の方が驚き、気になってしまっている。


 顔を真っ赤に染めて、耳を澄ませる。


(ヘルヴィさん、私たちと会話しながらできるの? すごい、テクニシャンなんだね……!)

(ちょっと、やめなさいジーナ! だけどそうね、ヘルヴィさん、私たちに構わないで、テオを構ってあげた方がいいと思うわ……!)

(……妄想が激しくて楽しそうだな、お前らは)


 頭の中にヘルヴィのため息が聞こえてくる。

 二人はなぜため息をついたのかがわからないが、それどころではない。


「んっ、あっ、気持ちいいです……! あっ、そこ、もうちょっと強く……!」


 二人の頭の中ではテオが裸にされ、ヘルヴィにあんなことやこんなことをされている姿が、鮮明に映し出されている。

 もちろん、ヘルヴィはその妄想を見ている。


(……お前らやめろ、本当にやりたくなるだろうが。だから中を見ていいと言ったんだ)

(ほ、本当にいいの? 私たち、ここで聞いてるだけでも満足だよ?)

(そ、そうね、あまり夫婦の営みを邪魔するのは悪いわ)

(本当にそういう行為をしているのであれば、そこにもいさせるわけないだろ。いいから覗け、テオにバレないようにな)


 二人はそう言われて、顔を真っ赤にしながら互いに頷く。


 そしてこっそり、足音を立てずにテントの入り口まで行き……隙間から中を覗いた。


 心臓が口から飛び出るのではないかと言うほどドキドキしながら、見ると……ヘルヴィが寝ているテオに跨った姿があった。


 やっぱりしている――!


 そう思った二人だが、よく見ると二人とも服を着ている。


 着衣のままするのか――!


 と思ったが、見た感じそうでもないみたいだ。


 まずテオはうつ伏せになっていて、ヘルヴィが上でしているのであれば、最低でもテオは仰向けではないと……できないだろう。


 ヘルヴィの手がテオの服の中に入って、背中を押しているだけだ。


「んっ、はぁ……気持ちいいです……」


 服の中に入っている手はどう見ても動いてないのだが、テオは全身を弛緩して気持ち良さそうに喘いでいる。


 もしかしてテオは、背中が性感帯――!


(そんなわけないだろ、お前ら)


 と思ったところで、ヘルヴィからの声が頭の中に響いた。


 その後ヘルヴィから説明を聞くと、魔力を操ってマッサージをしているだけのようだ。


(へー、そんなマッサージがあるんだ。セリア、あとで私にもやってよ)

(無理に決まってるでしょ、人の身体の中にある魔力を操るなんて聞いたことないわよ。失敗したら多分爆発するわよ)

(うぇ!? ほ、本当? めちゃくちゃ危ないじゃん!)


 セリアほどの実力者でも無理だと断定できるほど、相手の身体の魔力を操るのは難しい。

 それなのにマッサージという繊細なことができるのは、世界中探し回ってもヘルヴィただ一人だろう。


(私は軽くできるが、やらない方がいい。セリアなら上手く調整すれば爆発はしないが、内臓はズタボロになるだろう)

(あら、今褒められた? ありがと。じゃあジーナ、やってあげてもいいわよ、死にはしないらしいわ)

(死ななくても、生死の境は彷徨うこと確実じゃん!)


 頭の中でそんな会話をしている女性三人。


「んぅ……あっ……あぁ……!」


 そんな会話をしているとはつゆも思わず、テオはマッサージに身を任せていた。



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