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第41話 不穏?


「や、やっぱりお二人強いですね……!」


 自分では全く敵わないブラックベアをこうも簡単に倒され、憧れの目を向けるテオ。


「そりゃあね、一応ネモフィラの街だったら一番強い……いや、強かったからね」


 ジーナは自分の言葉を過去形にする。

 目線は自分よりも強く、ネモフィラの街で最強を奪ったヘルヴィである。


 ヘルヴィの強さはあんな小さい街で収まるほどではない、とジーナは考えていた。


「このくらいの相手は余裕ね」


 長い金色の髪を手で後ろにかき上げながら、セリアはそう言った。


「すごいカッコよかったです!」

「ふふ、ありがとう」

「テオ君テオ君、私は私は?」

「もちろん、カッコよかったです! あんな凄い攻撃を軽々止めて、あんな巨体を殴り飛ばすなんて!」

「へへーん、まあねー!」


 自分たちにとっては弱い相手だったが、これほど褒められると悪い気はしない。

 二人はテオに褒められてニヤニヤと笑ってとても嬉しそうだ。


 テオは二人と旅をしていたときも、こうして褒めてくれていた。

 それが嬉しくてモチベーションが上がっていたのも確かだ。



 そして二人が褒められているのを見て、つまらないのは妻のヘルヴィだ。


 テオが二人を褒めることを止めはしないが、後ろで顔をムッとさせていた。


(私がキマイラを殺したときに、そんな褒められた覚えはないぞ……)


 確かにテオはここまで褒めてはいなかった。


 しかしそれは相手がキマイラという規格外すぎる相手だからだ。

 そんな化け物をあっという間に終わらせてしまったので、テオは褒めるというよりも唖然としてしまった。


 薬草採取のときは弱い魔物ばかりと遭遇し、テオが興奮して褒めるほどの相手とは言えない。


 ジーナとセリアを倒したのは褒めるに値するとは思うが、倒した瞬間にキスをしてしまったので、そういう雰囲気ではなかったのだろう。


(くそっ、あんなに褒められるのであれば私が相手をすればよかった。私なら殴らずとも、デコピンで頭を消し飛ばせるぞ)


 ヘルヴィは次に多少強い相手が来たら、自分が相手することに決めた。



 その後、しばらく森の中を歩く。

 陽が遮られていて少し暗いが、テオ以外は夜目が効くのでどんどん進んでいく。


 テオが先程転びそうになったが、隣にいたヘルヴィに身体を支えられて大丈夫だった。

 それ以降、テオとヘルヴィはずっと手を繋いでいる。


 子供みたいな扱いで恥ずかしがるテオだが、ヘルヴィは先程の件で少し不機嫌になっていたのがすっかり無くなった。


「そういえば何も考えずに山に入ったけど、まず双子山のどっちの山頂に向かうの?」


 ジーナは振り向いてテオに問いかけた。


 テオだけが山頂にある薬草を見分けられるので、どちらの山頂へ先に行くかはテオが決めることになった。


「そうですね、じゃあ先に右の山に行きましょうか」


 右の山……受付嬢のフィオレの話では、そこには山賊が住まうようだ。


「了解! 山賊なんてボッコボコにして、薬草を取りに行こう!」

「そうね、さっさと倒したいわね」


 そう言いながら前を歩く二人は、右の方へ進んでいく。

 テオとヘルヴィも手を繋ぎながら、それについていった。



 山に入ってから数時間。

 順調に山頂へ進んでいた四人。


 さすがに暗くなってきたので、今日は今いる場所で野宿することにした。


 ヘルヴィが上空からまた荷物を降ろし、野宿の準備と食事の準備をする。


「良い感じに進んでますね、この調子だったら明日の昼ぐらいに山頂に着きそうです」


 テオが安心したように料理をしながらそう言った。


 最初にブラックベアと遭遇した以外、魔物にはほとんど遭遇していない。

 遭遇しても弱い魔物ばかりで、強い相手と戦ってテオに褒められたいヘルヴィとしては拍子抜けだ。


「うーん、順調なんだけど……ちょっと順調すぎるなぁ」

「えっ?」

「そうね、時々こういうことがあるんだけど……そういうときはいつも帳尻合わせをするみたいに、この後嫌なことがあるのよね」

「そ、そうなんですか?」


 旅や冒険を何百回と経験している二人が、不穏なことを言うのでテオは少し怖気付く。


 そのとき、包丁を持つ手に暖かい何かが覆われる。

 テオが見たら、それはヘルヴィの手だった。


「大丈夫だテオ、私がいるのだから」


 目線を合わせ優しい笑みでそう言われて、テオは頰が熱くなる。

 ずっと手を繋いで慣れたと思っていたのに、先程より恥ずかしい気持ちになってしまう。


「あ、ありがとうございます……」


 テオは恥ずかしそうに顔を背けて料理を続ける。

 それを見て満足そうにヘルヴィは頷き、手を離して隣で手伝う。


 後ろで野宿の準備をしている二人が、ムッとして話しかける。


「テオ君、私もいるから大丈夫だよー」

「もちろん私もね」

「は、はい、よろしくお願いします!」


 そして四人は野宿と食事の準備を続けた。



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