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第39話 山へ


 さすがに巨大な鳥を全て食べるのは無理なので、昼の分だけ肉を取って残った分は……。


「また上空に浮かせて放置するんだ」

「保存の仕方が凄すぎるわ……」


 常温で生肉を保存していたら危ないが、上空だと気温も下がるので、この旅の間だったら保つだろう。


 ということでテオが料理を作り終わり、四人で草原に座って昼ご飯を食べる。


「うーん、美味しいねー!」


 ジーナが一口食べて、笑顔でそう言った。


 このような旅で食べられるとは思えないほど、豪華で美味しいものをテオが作ってくれた。

 肉は何の魔物かわからなかったので少し不安だったが、ちゃんと柔らかくて味付けも美味しい。


「本当、美味しいわ」

「美味い。さすがだな、テオ」

「あ、ありがとうございます……!」


 いつも料理について褒められているにもかかわらず、毎回頰を赤らめて喜ぶテオ。


 今回の旅は妻であるヘルヴィが一緒に来ているから、より一層力を入れて料理をした。

 美味しいものを作るために調味料などをいっぱいバッグの中に入れてしまったが、ヘルヴィが軽く運んできてくれた。


(ヘルヴィさんには助けてもらってばっかだなぁ……僕もヘルヴィさんの役に立つために、もっと頑張らないと……!)


 そんなことを思うテオ……もちろん、それを覗いているヘルヴィ。


(こんなこと助けたうちに入らないと思うが……だがお返しをするとしたら、早く性知識をつけてくれ)


 本当なら初夜でお互いの初めてを経験したかったのだが、テオの知識がなく心の準備もできていなかったので断念。

 代わりにお互いのファーストキスを経験できたから、それはそれで良かったのだが。


(別に知識がなくても私がリードをすればいいのだが……テオも男なのだし、男の矜持としてそこは待っていた方がいいだろう。いや、だがテオなら可愛いからリードされた方が様になるのでは……)


 想像してみる。

 テオが上で自分を頑張ってリードしながらしてくれるのと、自分が上で涙目になっているテオをリードする……。


(どちらも捨てがたい……! しっくりくるのは後者だが、前者をされたときのテオのギャップが素晴らしいだろう……!)


 まだ昼時でご飯を食べている最中なのに、頭の中ではそのような妄想をしているヘルヴィだった。



 そして昼ご飯を食べ、片付けもし終える。

 しっかりと片付けをしないと、鼻が良い魔物などが寄ってくることがあるからだ。


「はぁ、旅でこんな美味しい料理を食べれるなんて、本当に助かるなぁ」

「そうね、食事が美味しくないとやる気が出ないわよね」


 過酷な旅の中では、限られた休憩はとても大事だ。

 そしてその休憩でも食事というのは、一番体力が回復し元気になる。


 その食事が味気ないと、本調子が出せずに危険な目に合うというのはよくあることだ。

 だから二人にとっては美味しい食事を作ってくれるというだけで、テオの存在はありがたい。


「あ、ありがとうございます。ヘルヴィさんも、美味しかったですか?」

「……ん? ああ、もちろん、美味かったぞ」


 今の今まで妄想をしていたヘルヴィだが、声をかけられてそれをやめた。


「ヘルヴィさんはいいよねー、これからずーとテオ君のご飯を食べられるんだから」

「それはそうだろう、テオの妻なのだから」


 ヘルヴィは堂々と言うが、テオは恥ずかしそうにしている。

 度々言われる「テオの妻」というのを聞くと、毎回口角が上がってにやけてしまうのだ。


 我慢しようとしても難しい。

 ……その顔を見たいから、ヘルヴィがわざと言っているのもある。


「私たちは王都でもいろいろと美味しいものを食べたけど、テオの料理がなぜか忘れられなかったわ」

「そうだね。旅のこういうときに食べる料理が、思い出に残りやすいというか、忘れられないんだよねー」


 王都の値段も高く人気もある料理屋のものを食べたが、確かに美味しい。

 しかし食べ終わり幾日か経つと、やはり思い出すのは旅をしていたときのテオの料理だった二人。


 それが今日、こうして食べられて本当に二人は嬉しかった。

 昨日もテオの料理は食べたが、旅をしているときの料理の方がやはり自分たちは好きなのだ。


「そ、そんなに褒めないでください……恥ずかしいです……!」


 テオは赤くなった顔を冷ますために、両手を頰に当てる。

 その仕草にキュンっときてしまう三人だった。



「さて、そろそろ行こっか」


 ジーナがそう言うと、四人は目の前にある山を見上げ、そして森を見る。


「ここからはさすがに馬での移動は厳しいわね」

「そうですね……だけどここで馬を放置するのは、危ないと思います」


 今は魔物が一匹も見えないが、普通に魔物が出ることもある。

 その草原の中で三匹の馬を放置していたら、魔物にとってはただの餌にしかならない。


「それなら大丈夫だ、私が結界を張ってやろう」

「結界って……ヘルヴィさん、魔力量大丈夫なの? 空に荷物を浮かべて運んで、ここに馬を守るための結界を張るのって、普通の人だったらまず出来ないし、出来ても数分も保たないわ」

「最強なのだから、出来て当然だろう。朝飯前にもならんぞ」

「……もうヘルヴィさんが人間かどうか、疑わしいわね」


 その言葉にヘルヴィは反応しなかったが、テオがビクッと反応してしまった。


「ん? どうしたのテオ君」

「い、いえ、なんでもないです!」


 もともと嘘が苦手なテオだからこそ、今の言葉に反応してしまった。

 幸いにも、ジーナとセリアはテオの様子が変だと気付いても、なぜなのかはわからない。


「結界も張った。では行くぞ」


 ヘルヴィは誤魔化すように話を逸らして、森の中へと入っていった。


 他の三人も慌てて、それについていく。



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