第37話 いざ出発
あとがきにご報告があるので、ご覧ください。
「さて、じゃあ行こうか!」
ジーナが馬に乗って、元気良く楽しそうにそう言った。
すでに四人は貸馬屋から出て、馬を連れて街の外まで来ていた。
セリアも馬に乗り、とても慣れた様子である。
そして荒れていたという黒馬は、本当にそうであったのか疑うくらいに静かで、テオの言うことを聞いていた。
「大丈夫? 重くない?」
上に乗って首を撫でながらテオは問いかける。
言葉がわかっているのか、黒馬は低く唸るように返事をした。
「二人乗りだからね、大変だと思うけど頑張って」
黒馬に乗っているテオ――そして、その後ろには横向きで乗っているヘルヴィがいた。
貸馬屋で黒馬が乗れるようになったので、四人それぞれの馬を借りようと……したのだが。
「す、すいませんお客さん」
「……いや、大丈夫だ」
ヘルヴィが乗ろうとすると、その馬が暴れて乗れないのだ。
どれだけ店員が落ち着かせても、ヘルヴィが近づくだけで興奮した様子で暴れ回る。
先程の黒馬よりも手につかなくなってしまった馬は、ヘルヴィから逃げるように走っていた。
「お、おかしいなぁ、あの馬は一番穏やかな性格なんですけど……」
店員がわからないのも、無理はない。
馬は本能的にヘルヴィがとても危険な人物だとわかってしまったのだ。
穏やかな性格だからこそ、死に物狂いで逃げ回っていた。
このままではヘルヴィだけ馬に乗れないことになってしまう。
「あの、ヘルヴィさん……一緒に乗りますか?」
「っ!」
ということで、急遽テオとヘルヴィが二人乗りになったのだ。
黒馬も最初はヘルヴィを怖がっていたが、テオが一緒だと安心したのか二人乗りを許容してくれた。
それで黒馬がテオに撫でられるのを、甘んじて許してやったヘルヴィだった。
ヘルヴィが想定していたのは、テオが後ろで自分が前という乗り方だった。
しかし実際は自分が後ろになっている。
(まあこれもいいだろう……テオとくっつくという、当初の目的は達成している)
横に座りテオと最大限くっつけるように、テオのお腹に左腕を回している。
「……っ!」
顔は見えないが、テオの耳が真っ赤になって恥ずかしがっているのがわかる。
本当なら黒馬に横向きではなく普通に跨って抱きつくようにくっつきたい。
そちらの方がくっつける面積が広いからだ。
しかしその状態で後ろから抱きしめると、テオの頭が完全にヘルヴィの胸の位置で後頭部が埋もれることになる。
ヘルヴィは大丈夫、むしろ推奨なのだが、テオが恥ずかし過ぎるとのことでこの形になった。
しかしその分、左側面をテオの身体にくっつけるために、テオのお腹に回している手に力を入れる。
「へ、ヘルヴィさん、大丈夫ですか? 落ちたりしないですか?」
「ああ、大丈夫だ。テオのお陰で安定感抜群だぞ」
「そ、そうですか、良かったです」
本当ならこんなにくっつかなくても、ヘルヴィのバランス感覚なら落ちるわけがない。
ヘルヴィに怯えて暴れてた馬の上に横向きで手には何も持たずに乗っても、落ちることはないだろう。
たとえ落ちたとしてもヘルヴィなら安全に着地できるし、できなくてもかすり傷一つつかない。
それでもヘルヴィはテオにくっつく。
そしてテオも彼女がこんなにくっつかなくても大丈夫だとなんとなく気づいているが、何も言わない。
自分が恥ずかしくて離れてくれと頼んで、万が一にも落ちて怪我をしたらと考えると言えるわけがない。
それにテオも男なので、自分に頼るようにお腹に回された左腕が嬉しいのだ。
(へ、ヘルヴィさんが、こんなにくっつくなんて……柔らかくて、良い匂いがして……)
さらに男なので、やはり好きな女性とくっつくのも嬉しい。
(ふふっ、嬉しいか……私も嬉しいぞ、テオ。もっと私の身体を味わっていいのだぞ?)
テオの心を読んだヘルヴィが、さらに押しつけるように身体を寄せていく。
自分の背中に当たる感触がより一層強くなったのを感じて、テオの頰もより一層赤くなる。
(ああ、可愛いなぁ、テオ……)
赤くなっている顔を見るためにヘルヴィは、テオの右肩から顔を出して覗き込む。
「へ、ヘルヴィさん……」
「テオ……」
テオが右を向くと、ヘルヴィの顔がある。
もっと右を向いていくと頰と頰が当たり、もっと右を向くと――。
「ねえ、お二人さん! もう行こうよ!」
「そんなことしてたらいつまでも出発できないわ」
――ギリギリのところで邪魔が入る。
すでに馬に乗っているジーナとセリアはもう見てられないというように、声をかけて出発を促す。
「す、すいません!」
テオは今のを見られていたと思い、恥ずかしくなって右を向くことをやめて前を向く。
しかしヘルヴィは腰に回していた左腕を一度外して、テオの顎を左側から押し無理やり右を向かせる。
「んっ……」
「んんっ……!?」
軽くキス、三秒ほど唇を合わせ、離した。
テオが少し放心しているが、ヘルヴィは何事もなかったかのように左腕を元に戻す。
「ふむ、待たせたなお前ら」
「結局するんだ!?」
「する前にわざと止めたのに……」
「だからしたのだ、邪魔されるのは気に食わん」
ニヤリと笑ったヘルヴィに、二人はため息をつく。
「くっそー、なんかこの旅で二人がイチャイチャするのが目に見えるよ」
「私たちの馬が二人乗りに耐えられる馬だったら……」
黒馬は他の馬より大きく、唯一二人乗りができる馬だった。
なのでこの旅ではずっとテオとヘルヴィは二人乗りである。
だがヘルヴィは魔法を使って自分の身体を軽くできる。
なのでおそらく他の馬でも二人乗りできるが……それを今回の旅の途中で、言うことはないだろう。
「では行こうか、私とテオの新婚旅行へ」
「いや違うから! 依頼で行くんだから!」
「私たちも一緒にいるのだから……いない者として扱わないでよ?」
こうして四人は、ネモフィラの街を出発し双子山へ向かうのだった。
本作
「願いを叶えてもらおうと悪魔を召喚したけど、可愛かったので結婚を願いました 〜チョロイン嫁が怒って僕を追放したパーティを壊滅させてました〜」
は……
書籍化&コミカライズ、どちらも決定いたしました!!
いぇーい、ぱちぱち……。
本当に読者の皆様が読んでくださったお陰です!ありがとうございます!
まだ詳細は話せませんが、これからもどうかよろしくお願いいたします!
追伸
エロを書き加えても、オッケーだとよ……!




