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第36話 馬


 四人はギルドを出てそのまま街を出て出発……とはならず。


「そういえば馬忘れてたねー」


 双子山に行くのに一日ほどかかると説明をされたが、それは馬で行っての話だ。

 歩きだったらその二倍の時間はかかってしまう。


 いつもなら荷物があるので馬車を借りるのだが、今回は荷車を借りる必要はない。

 荷物は空の彼方で運んでいるからだ。


 だから四人は馬を借りるために、貸馬屋へと向かった。


 そこへ着いて店員に聞くと、ちょうど四体だけ空いていたようだ。


「ラッキーだね、いなかったらどうしようかと」

「そうね、歩きで行くのは荷物がなくてもさすがにしんどいわ」


 そう話したジーナとセリアに、店員が少し申し訳なさそうに言う。


「三頭は調教されて安全な馬なんですが、一頭はちょっと荒っぽくて……まだ誰も乗れた人はいないんですよ。だからどなたかが二人乗りになることをお勧めします」


 その言葉にヘルヴィが反応する。


「そうか、なら必然的に私とテオが二人乗りになるべきだろう」


 馬を借りるとなってから、ヘルヴィは少し残念がっていた。

 それぞれ一匹ずつ乗ってしまったら、テオとは移動中は絶対に離れてしまい、イチャつけないからだ。


 なので二人乗りをしないといけないと聞いて、むしろ嬉しかった。


 しかしジーナとセリアは……。


「うーん、大丈夫じゃない?」

「ええ、大丈夫だわ」


 荒っぽい馬がいると聞いても、何も問題ないだろうというように話す。


「えっ? いや、その、一応うちの商品ですので、手荒な調教はお控えいただきたいのですが……」


 二人の様子を見て、店員は無理やり馬に言うことをきかせるのかと、勘違いする。


「まあ見してよ、大丈夫だと思うから」

「は、はぁ……」


 とても良い笑顔でジーナがそう言うので、店員は安心していいのか怖がればいいのかわからない。


 店の裏側に馬が放牧されているので、店員に案内されてそちらに行く。


 そこには四匹の馬がいたが、一匹だけ明らかに違っていた。

 色も他の三匹は茶色に対して、その馬は黒色である。


「こちらなんですけど……うわっ!」


 店員が黒い馬に近づくと、威嚇のように鳴いて突撃しようとしてくる。

 慌てて店員は退がって、ジーナの顔を伺う。


「まだ調教が済んでいないので、荒っぽいのですが……」

「本当だねー、これは腕の見せ所でしょ!」


 ジーナがそう言って前に出る……と思いきや、笑顔で振り返る。


「ほら、テオ君! やっておしまい!」


 ヘルヴィの後ろにいたテオを名指しで、「突撃!」と言うように左手は腰に当て、黒い馬の方に右手の指を差した。


「なんですかそれ……」


 苦笑いをしながらも、来るとわかっていたのかテオは黒い馬の方に進んでいく。


「テオ、大丈夫なのか?」

「はい、ヘルヴィさん、多分大丈夫ですよ」


 いまだに威嚇をしている馬に向かっていくテオ。

 後ろからヘルヴィが心配そうに見つめる。


「だ、大丈夫なのですか? あの馬、力はかなりのもので、蹴飛ばされたら骨とか簡単に……」

「大丈夫だよ、テオ君ならね」


 店員とジーナがそう話している最中にも、テオと馬の距離は近づいていく。


 ヘルヴィは馬が少しでもテオに危害を加えようとしたら、その前に八つ裂きにする準備をしておく。


 先程店員が威嚇された距離にまで近づく、突撃されてもテオだったら避けられない距離だ。


 そして……。


「よーしよし、可愛いねー、いい子だねー」


 馬はテオに対して、一瞬でデレデレになった。


 先程まで威嚇の鳴き声を上げていたのに、今では全く上げずに頭をテオの身体にすりつけている。

 テオはそれを受け止め優しく頭を撫でている。


「す、すごい……あんなに手に負えなかったのに、一瞬で……!」


 店員がその光景を見て驚愕している。


 ジーナとセリアはこの光景を何度も見ているし、知っていたので驚いていない。


「テオ君は動物に好かれるんだよねー」

「そうね、もう一種の魔法みたいだわ」

「あはは、魔法なんて使えないですよ」


 馬の頭を撫でながら笑っているテオ。


 それを見てヘルヴィは誰にも気づかれないように安堵のため息をついた。


 テオが動物に好かれるということは知っていたが、どれだけ好かれるかなどは知らないし、知っていたとしても安心できなかっただろう。


(しかし……馬ごときの分際で、テオにあれほど撫でられるなど……! 私ですらテオに髪を撫でられたことがないのだぞ……!)


 さすがに殺気を出すほどではない。

 しかしあの馬にテオが乗れることがわかって、二人乗りも出来なくなってしまった。


 いまだにテオに撫でられているのをみて、絶対にあの馬とは仲良くなれないと思うヘルヴィだった。



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