表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/132

第34話 準備はいらない?


 四人はその依頼を受けることにした。

 悪魔が出る山、というのは気になるが、それ以外は何も問題ない。

 山賊など出ても返り討ちにしてしまうだろう。


「今日出発しようよ、食べ物とか準備して」

「野宿の準備は私たちがするから、テオとヘルヴィさんは食事の準備をお願いするわ」


 おそらく四日間ほどはこの依頼にかけると思われるので、食事の準備が一番大変だ。


 食事を一任するテオと、妻のヘルヴィがそれを担当するのは当然のことだろう。


「どのくらいで準備できるかな?」

「そうですね、保存食とかも準備しないといけないので……」

「テオ、家にはその準備があるのか?」

「はい、新しく買わなくても四日分ぐらいの食べ物はあると思います。なので食材とかを厳選して荷物に詰めて……」

「いや、その必要はない」

「えっ?」


 準備をしなくてもいい、と言うヘルヴィ。

 他の三人は不思議そうな顔を浮かべる。


「家にあるのなら大丈夫だ。私たちはすでに準備が終わっている。そしてキャンプの準備もいらないな」

「どういうこと? 三日間くらいは外で野宿しないといけないんだよ?

「そうよ、さすがにキャンプの準備をしないのはキツイわ」

「まあ見せたほうが早い、とりあえずテオの家に戻るぞ」


 ヘルヴィはそう言うと、ギルドの外へ出る。

 三人は慌てて後を追っていく。


 荷物の準備もしないで、野宿の準備をしないなんて普通はありえない。

 準備の大切さを知っているジーナとセリアは、疑いながらもついていく。


 後ろに追いついたテオは、ヘルヴィに話しかける。


「あの、ヘルヴィさん……」

「大丈夫だ、テオ。私に任せておけ」

「は、はい、それはいいのですが……」


 テオは少し恥ずかしそうに、ヘルヴィの隣に立ち顔を覗き込んで言う。


「僕の家、じゃなくて、僕たちの家ですよ」

「っ! あ、ああ、そうだったな……私たちの家に、戻るぞ」

「はいっ!」


 言い直したヘルヴィの言葉に、満面の笑みで頷くテオ。


 それを後ろから見ていたジーナとセリアは、その可愛いやり取りに顔を見合わせて破顔した。



 そして家に着き、そのまま中に入ろうとするテオ。

 しかしヘルヴィはテオの肩を掴んで、それを止める。


「少し危ないから、私の後ろにいろ」

「は、はい」


 一歩二歩と後ろに下がり、ヘルヴィの後ろに回るテオ。


「家の中に食事の準備があるのだったら、こうすればいいのだ」


 ヘルヴィは手を前に出し、魔法を行使した。


 すると、地面がいきなり揺れ始める。

 ジーナとセリアは軽く耐えられたが、テオはいきなりのことでフラついてしまい、ヘルヴィの腰に抱きつく。


「あっ、ご、ごめんなさい……!」

「……いや、まだ離れるな。揺れるからな」

「は、はい……ありがとうございます」


 テオはそう言われて顔を赤くしながら抱きついている。

 ヘルヴィは平静を装っているが、内心はドキドキし興奮していた。


(ああ、後ろからテオに抱きしめられている……! 腰やお腹に回された手があったかい、気持ちいい……ずっと抱きついてていいんだぞ……!)


 そう思いながらも、魔法を行使し続け地震は少しずつ大きくなり……。


 テオとヘルヴィの家が、浮いた。

 確実に地面から離れ、いや、地面ごと浮いていた。


「ええっ!?」

「ま、まさか、重力魔法なの? こんな大きな家を、浮かせられるの?」


 後ろで様子を見ていた二人が、目を見開いてそう言った。


 重力魔法は潰すだけではなく、浮かすこともできる。

 しかしそれは潰すよりも繊細な魔力操作が必要になる。


 セリアは人を浮かすことすらできない、できるとしても短剣くらいだ。

 それをヘルヴィは簡単に家を浮かしてみせた。


 ここでも力の差を歴然に感じてしまう。


「えっ、ヘルヴィさん、もしかして……?」


 テオも家を浮かせられるとは思わなかったが、ヘルヴィが考えていることがわかり、口角を吊り上げながら問いかける。


「家を持っていけば、食事は中に入っている、野宿もせずに家で過ごせる。完璧だろ?」


 したり顔でそう言ったヘルヴィ。


 しかし……。


「いや、その、ヘルヴィさん……旅はテントで過ごすから、楽しいところもあってさぁ」

「そうね……家を持って行ったら、冷めるわね」


 女性二人からは反対される。


「むっ、テオもそうか?」

「そ、そうですね……限られたところで料理するってのも、旅の醍醐味だったりするので……」

「ふーむ、そうか。私は旅というものをしたことがないから、わからなかったな。では家を持っていくのはやめようか」


 そう言うと、ヘルヴィはゆっくりと家を降下させていき、いつも通りの光景に戻った。


「すまんな、これが一番いいと思ったのだが」

「いえ、大丈夫です」

「いやー、まさか家を浮かして持っていくなんて、考えもしないよね」

「そうね、まず普通はできないから考えようともしないわね」


 そういうことで、四人は普通に食事や野宿の準備をして、出発することにした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ